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8話 材料



【鍛冶都市ブラックスミス 飛空艇乗り場】



《はーい! 皆様お疲れ様でした! 目的地の鍛冶都市ブラックスミスへ無事着陸しましたので、ここからは係の者の案内に従って移動をお願いします! この度は本飛空艇をご利用頂きありがとうございました! それでは良き観光を!》



「う~~むむむむっっ! うおおぉぉぉしっっ! ようやく着いたな! 待ちくたびれたぞ!」



 到着するなり早々、まず真っ先に声をあげたのはフィオナだった。ざっと見ても100は軽く超える乗客達を先導する係員の案内に従い、一緒に飛空艇から降りていくや否や彼女は、



「うむうむ! 上空からも一応見えてはいたが、ここが鍛冶都市ブラックスミスか。自然豊かだったメザーネの町と比べると緑は少ないが、代わりに石造りやレンガ造りの家屋。それから道も同じように落ち着いた色のレンガで舗装されていて、中々に趣のある街並みではないか! ここからだけでも特徴的な煙突が何本も見えるしな!」



 移動時間としては約6時間から8時間といったところ。昇った日がこれから沈んでいこうとする頃合いに、彼女は数時間とはいえ鈍った体を叩き起こすように肩をブンブン回すと、目新しい鍛冶都市の様子を眺めていく。



「ううぅ……相変わらず元気な奴だな」


「グリフ様、大丈夫ですか?」

「気分が悪いなら少し休むか?」


「いや……だ、大丈夫だ。でもまさかあんだけの距離で酔っちまうなんてな。面目ない」


 フィオナの感想以外に。

 その周囲と外観の様子を簡単に紹介するなら、まず都市周辺には大小関わらず数多の鉱物や鉱脈が眠っているであろう鉱山の数々が並ぶ。


 次に外観に関して、周辺で狂暴な湧いたモンスターから住民を守るは城壁などよりも頑丈な()()。文字通り、大昔に都市中の職人達が協力し生みだした、大砲の弾すら通さない高く頑丈な分厚い鉄製の壁が住民の日常を今日も守り続ける。



「スゥゥ……フヒュウゥゥゥゥ。よし、これで少しは楽になった。まったく、曲がりなりにもギルド長だってのに情けないとこ見せちまったな」


「まあまあ、そう落ち込むなよ。誰だって調子の悪い時だってあるんだ。グリフにとって今日はたまたま船酔いしやすい日だったのさ」


「そうですよ。それにここ最近のグリフ様はボロドさんの用事やフィオナ様に振り回される事が多かったですし、きっと疲れていたんですよ」


「そ、そうかな?」



 最後にそんな鉄壁の内側では数多の職人達や商人、その他多くの住民達も含め合計で約10万に及ぶ人々がそれぞれの生活を営んでいた。



「さあて。それじゃあ気分も落ち着いたし、早速ヴェルン達のいる【ヘパイストスの鍛冶屋】へ向かいたいところ…………なんだけど――」



 そこで。

 そんな都市に初めて足を運んだフィオナは、中でもメザーネの町には存在しない移動手段として、都市内だけでなく外にもいくつも整備された鉱物を運搬するのに必須となる――



「おい小僧よ! 余はあれに乗りたいのだが!? 確か()()()()と言ったか? あれに乗って都市中を巡ることを所望する! 絶対に楽しいぞ!」



「お前目的忘れてない!? 俺の専用武器を作りに来たんだよね!? 観光じゃないよね!?」



「はっはっはっ! 何を抜かしておるか。なにはともあれ、せっかくこうして見知らぬ遠方まで来たのだ。それを楽しまなくてどうするのだ!」



 アトラクションの一種か何かと勘違いしたのか、彼女は興奮気味に線路上を勢いよく滑走していくトロッコを指さしていく。



「いや……そんな見知らぬって言われても。少なくとも俺とエルーナは前のギルド(蒼穹の聖刻団)にいた時に何回も来た事あるんですけど。それこそ、お前とセリカに道案内出来るくらいにはこの鍛冶都市のこと知っているんだけど」



「な、なんだとっ!? ならば話が早い! ではすぐにでもトロッコ乗り場に案内を――」



「「「だから観光に来たんじゃないの!」」」



 なんとしても乗りたがるフィオナ。


 彼女達が居る飛空艇乗り場からだけでも複数視認できる、まるで蜘蛛の巣の如く都市内外に張り巡らされた線路を走り抜けるその様子に、完全に目的そっちのけにして最優先で乗ろうとするも、



「な、なにも全員で言わずとも良いではないか……分かった。そう詰められては流石の余でも気が引ける。ここは潔く諦めるとしよう……」



 予想外の総ツッコミを受けてか。

 当人のグリフからだけでなく、その両脇にいたセリカとエルーナからまで声を揃えて怒られてしまっては観念せざるを得ないと。




「ま……まあ、なんだ」




 ――そう諦めた矢先、




「そ、そんな分かりやすく落ち込まなくてもさ。武器をちゃんと作り終わったら好きなだけ付き合ってやるから。だから今はまず目的を――」


「なに!? それは本当かっ!? あとでちゃんとあのトロッコに乗せてくれるのだなっ!?」


「うわっく!? ちょっとちょっと、近い近い近いっ! 顔が近いぃぃ! 本当! 本当だよ! 確かにお前からすれば見た事の無い土地だからな。ちょっと観光するくらいなら別に構わねぇさ」


「ふふぅん。流石は我が主(マスター)だな。話がよく分かる。良かろう、ならば後の楽しみに取っておくとして今はキッパリ諦めるとしよう」


「ああ、それで頼むぜ」



「もう……グリフ様ったら甘いんですから」

「絶対ヘロヘロになるまでずっと振り回されるぞ。まあどうなっても私達は知らないけど……」



 直後にグリフからの思いがけない代案もあり、フィオナは乗車を一旦断念した。ただし後日に提案したグリフがどんな目に遭わされたのかは、フィオナに付き合わされた彼以外に知る由もなかったが…………まあ、それはともかくとして。



「ところで……小僧よ。さっきから一つだけ気になっている事柄があるのだが」



「うん?」



 既に話題は次へ。

 フィオナはグリフの右手へ視線を下ろすと、



「さっきから、その手にある小包はなんだ? 飛空艇を降りる前までは持っていなかったように思えたのだが……あれか? これから相談へ向かうヴェルンとやらへのプレゼントか何かか?」



「そういえば、言われてみると確かに」

「私も今言われて気が付きました」



「ああ、()()()の事ね」



 いつから手に持っていたのか。

 フィオナだけでなく改めて気が付いたエルーナ達も同じく、グリフが大切そうに握りしめるその()()()()()()()について尋ねた。すると、



「【杖】だよ、つ・え。この箱ん中には俺が“ずーっと前に使っていた杖”が入っているんだ」



 軽いためか、グリフは3人が見やすいようにその箱を自身の顔の横に添えるようにして持つと、箱の中身について明かした。



「ほお、杖とな?」



「そうだ、実は()()()()()()()()()でさ。一時は気に入ってこっそり使っていたんだけど、今と同じように初級魔法しかまともに扱えなくてさ。結局、手を構えて放つのと変わらないなって考えちまって、今日までずっとしまってたんだ」


「へぇ……グリフが杖をねぇ」


「なるほどな。どうりで今まで武器を使っていなかったと思えば、そんな理由があったのか」


「まあな。まして、せっかくの貰い物だからもし壊したらとか余計な事も考えちゃってさ。ほら、よくいるじゃん。貴重なアイテムとか大切な物ほど使わずにずっと残しておく奴。あんな感じで気が付いたら使わなくなっちまったんだ」


 小さい汚れでも付いていたのか。

 グリフは箱の表面を軽く擦りつつ答える。



「それで? ずっと眠りこけていたそんな杖を持っていてどうするのだ? 何かに使うのか?」



「ああ、それなんだけど。今回って俺の専用武器に作りにここに来たじゃん? だから武器作んのにコイツが使えるんじゃないかって思ってさ」



「うん……うんんん? すまぬ、鍛冶に関しての知識が浅いせいか話がよく見えんのだが……小僧の武器を作るためには、持ってきたこの謎の素材だけでは不足しているというワケなのか?」



 分かりやすく首を傾げて尋ねるフィオナ。

 すると、そんな会話へ割って入るように、



「あれだろ、確か【宿魂の儀】だっけ? 思い入れがある武器も一緒に素材にするやつだろ?」


「そうそう! それそれ!」



 エルーナが言葉を挟んだ。

 そして彼女にそのまま便乗するように、



「その……なんて説明すりゃあ良いか。掻い摘んで言うと、素材だけでも武器を作れる。だけど……なんて言うか。まあ不思議な話なんだが、それまで持ち主が大切に使っていた武器も一緒に炉にくべて作ると、出来上がったばっかりなのにすぐに手に馴染んだり、素材だけで生み出した武器よりも性能が高くなるって言い伝えが職人の間であるらしいんだ。だったよな、エルーナ?」



「ああ、グリフが言った通りさ。私の専用武器(ヴァルランテ)も元々は駆け出しの頃からずっと愛用してたロード・アックスっていう戦斧も溶かして、それを元に作られたんだ。そん時の職人曰く、『使い込まれた品、もしくは特別な思いが込められた品々には魂のような物が宿る。それが武器の強さをより引き上げる』って言っていたな」



 正直、素人からすれば眉唾すぎる話だった。

 たとえこのグリフ達のように大真面目に武器に魂が宿るなんて語られても、大抵の者は『馬鹿馬鹿しい。そんな事はあり得ない』と一笑に付して終わってしまう内容だったに違いない。



 ――けれども。



「ふうむ。なんとも摩訶不思議としか言いようがないが、中々に興味深い言い伝えだ。武器を単なる使い捨ての道具とせずに、形は変われども相棒として新たに活躍させようとはな。だからこそ武器も主人の期待に応えんとするのかもな」



「多分そういうことだ。だからもし武器を作るとなったら役立ててもらおうと思って、こうして引っ張り出してきたってワケ。まあその“魂”とやらが宿っているかどうかは分からないけどな」



 フィオナは笑わずに最後まで聞いていた。

 信憑性が無さ過ぎて与太話の種にもならないようなそんな鍛冶職人達の伝承に、彼女はあくびの一つも交えること無く真剣に聞き届けた。



 こうして。



「よし! じゃあ話もまとまった事だし、気を取り直して行くか。ヘパイストスの鍛冶屋へ!」



「うむ! 良かろう!」

「どんな武器がお似合いなんでしょうか」

「まあヴェルンに相談すれば大丈夫だろ」



 生成時の大元にする杖入りの箱を片手に。

 またフィオナ達が見つけてきた卵状の形をした謎の石も持ってグリフ達は飛空艇乗り場から、賑わう中央区へ。【ヘパイストスの鍛冶屋】ギルドの拠点目指して彼ら一行は足を進めるのだった。



ここまで読んでくださりありがとうございます。

もし良ければブクマ・評価等していただけると幸いです(´▽`*)

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