1話 その賢者、追放につき ①
「グリフ。今日をもってお前を追放する」
追放。
今や世界最強と謳われる冒険者ギルド『蒼穹の聖刻団』。
その本部にて、ギルド長ドノヴァンはメンバーのほぼ全員が揃う中で大きく発した。
「えっ? 俺が追放……だって?」
そうして、呼びだされた挙句。
突然そう切り出された黒髪の青年、グリフ・オズウェルドは事態が飲み込めず困惑する。
だからか背後の円卓に座るメンバー達の方に振り向き、何かの冗談や余興でこんな事を行っているのではと疑った。
……しかし。
「そんな不思議そうな顔しても無駄だ。これはジョークで言っているんじゃない。俺達はマジでお前を追放すると言ったんだ」
「追放……つまりお払い箱ってことか?」
「御名答。その通りだグリフ」
グリフの幻想に釘を打つかの如く。
威圧的な黒く厳つい甲冑を纏うドノヴァンは彼に近付くと、念押しするように再度冷たく言い放った。
「……………………」
だが、グリフは未だにギルド長からの命令が信じられずまた周囲の面々を見渡す。
誰か一人でもいいから嘘だと言って欲しい。
笑い話か何かだとオチをつけて欲しい。
グリフはそんな淡い期待を胸にしてメンバーの面々へ黙って視線を向けた。
現在遠征中につき留守にしている副ギルド長の女性エルーナを除くメンバー。今宵の緊急会議に出席したその全員へと………………けれども。
「…………………………」
「…………………………」
「…………………………」
何度見返しても先ほどと同じ。
返事や反論の類は無く、誰もが彼と目を合わそうとしなかった。
『蒼穹の聖刻団』
当初はたったの5名という少数人数で編成されながらも、数々の難関ダンジョンや度重なる危険なクエストから見事に生還し今ではメンバー数を倍の10名に増し、多くの冒険者ギルドから羨望の眼差しを向けられる名実ともに最強と称えられた超有名ギルド。
その内、グリフはこのパーティーの【賢者】であった。
「どうやら冗談じゃないみたいだな」
「先に言っただろ。マジで追放だとな」
そう、賢者。
言うまでもなく魔法のエキスパート。
戦士や聖騎士などが活路を切り拓く前衛職ならば、賢者は理想的な後衛。多彩な回復呪文・攻撃呪文で使いこなしサポート。極論を言えば、一人いるだけで戦闘の安定率が上昇する重要な要員。
そんな大役務める職に就いていたのが彼、グリフだった。
「……追放理由は?」
――だが。
「簡単だ。お前よりもっと役立つ賢者を見つけたから。だから用無しのお前は追放だ」
「……なに?」
グリフは思わず尋ね返す。
するとドノヴァンは質問に口元を歪ませ、罵るように鼻で軽く嘲笑うと、
「ふん。俺達のギルドも昔と違って有名になった。これも結成当時から、弱小ギルドと嗤われた俺達が泥水すするような気持ちで難関クエストを受注し成果を上げ、成長した暁に勝ち取ったもんだ。だからギルド長を務める俺として鼻が高い」
「だ、だったら――」
「でもなグリフ。ギルドにも“メンツ”ってもんがあるんだ。俺達がグングンと成長する中で、未だに初級魔法しか扱えない“ゴミ”が混じってるだけで俺達は安く見られちまうんだぜ?」
「ははは……おいおい。まさかそれで?」
グリフはギルド長の言葉にそう返した。
引きつった顔で苦笑いを混ぜながら……、
「ああ。それでだが?」
だがドノヴァンは表情を変えずぴしゃりと即答すると、追撃かの如くさらに決定的な理由を並べていった。
「もうこの際だ、ハッキリ言ってやろう。要らない子なんだよ、お前は。回復呪文は上級回復薬以下だし。攻撃魔法も雑魚モンスターとどっこい。必死で戦ってくれるのは結構だが……結局は俺達の足を引っ張る。そこでこの際思い切って“掃除”する事にしたんだ」
「……………………」
そう、ドノヴァンの発言通り。
グリフはいわゆる【落ちこぼれ】だった。
取り柄としては、魔法や錬金術の情報といった知識量では秀でてはいたものの……いかんせん戦闘面に必須な呪文の習得や扱い方については常人以下というレベルであった。
よって。
「だから出ていけ。俺達はこれからお前を捨てて既に勧誘してある優秀な賢者様と更なる高みを目指し冒険していく。お前は結成当初からの仲間だったが、今の俺達に必要なのは実力だ。役立たずと仲良しごっこしてる暇もこれ以上の報酬も払ってやる気もねぇ。だから追放するんだ」
ドノヴァンは冷たく言い放った。
お前は要らないと。
(……………………)
好き放題言いやがって。
グリフは心中で静かに毒づく……そして。
「……皆はこれで納得なのか?」
グリフは卓に控えるメンバーへ改めて尋ねた。
だが先の視線を送った時同様。誰も彼の追放について異論を唱える事は無かった。
むしろ、それどころか――
「ガイール、お前はどうだ?」
「……私はギルド長に賛成です」
「グラントは?」
「……悪いねグリフ。オラも賛成だ」
「ジェシカは?」
「グリフ……分かれよ。これはギルド長の命令なんだ。アタシ達が今更逆らえる内容じゃ――」
尋ねる度に撃沈する始末。
そうして、最後にグリフは親友である女性、途中から『蒼穹の聖刻団』に加入した武闘家クレアへと視線を送り尋ねようとしたのだが、
「……ごめんねグリフ」
尋ねる間もなくたった一言。
視線を合わせずに、うつむいたまま静かに発せられてしまった。
「……わかった。もういい」
するとグリフはついに心中に諦めの文字が浮かべたのか、
「わるいが退職金をくれてやる慈悲はない。むしろその金で次の賢者の装備品をしっかり揃えてやるつもりだからな。まあその代わりと言ってはなんだが、この前拾ってきたあるアイテムを――」
「…………………………」
蒼穹の聖刻団に自分の居場所はもう無いと、遺憾ではあったもののグリフはギルド長ドノヴァンの追放命令に従うことにするのだった。
「えっと、確かこの辺に……あったあった」
しかし……一行はすぐに思い知る事となる。
「そら、コイツをくれてやる。落ちこぼれのお前にはピッタリだろ?」
「…………………………」
実際は多くの知識を蓄えていた彼グリフがいたからこそ様々な局面に対応できていた点や、長年で築き上げてきた信頼があったからこそ互いに背中を預け合えていたという事について――
そして……秘めていた大きな可能性も――
ここまで読んでくださりありがとうございます。




