第八話 復活の金髪
「いえーい! というわけで、復活のミリアちゃん! 兄貴のため、風邪を吹き飛ばしてきちゃったっす!!」
「お、おう」
「いえーい! ミリアちゃーん! 完全復活ー!!」
ミリアが風邪を引いて二日後の朝、家を出ると兄のジョンと共にミリアが元気な姿で現れた。
朝だというのに、元気な声でゆあとハイタッチ。
金色のツーサイドアップの髪型に、右腕にはピンク色のシュシュを身につけ、腰には上着を巻いている。完全にギャルっぽい格好だ。
シャツも、胸元が見えるように二つほど開けている。
俺達が通っている学校は、髪を染めたりとかそういうのはだめなんだが、ミリアの場合は地毛なので校則に引っかかることはない。
最初は俺とジョンが不良だったので、レディースのような格好をしようとしていた。だが、俺達がやめておけと言うと、素直に言うことを聞いて、ならば! ということでギャルっぽい格好にしたようだ。
ただ、学校に入れば、ちゃんと服の乱れを直したりする。
ミリアはゆあに負けないぐらい純粋で、素直な子だ。
学校でもハイテンションだが、校則などはちゃんと守っている。
「お前達。あんまり大きな声を出すなよ? 近所迷惑になるぞ」
「わかってるよ、兄さん。でも! うちは、兄貴に出会えてテンション爆上がり! 今なら空中三回転とかできちゃいそうっす! とう!!」
そう言うと、ミリアは俺に失礼しますと一礼してから、家の塀へと飛び乗り、跳躍。
くるくるっと華麗に回転して、着地。
「十点っす!!」
「これは十点!」
見事、空中三回転を決めたミリアは、ものすごいドヤ顔を作った。
「すごいですね、ミリア先輩」
「ハッ!? この銀髪の波動は!?」
なんだ銀髪の波動って。ミリアが空中三回転を決めたところへ、エステルが登場した。
いつもながら、爽やかだが、可愛らしい笑顔だ。
「おはようございます。皆さん。今日は随分と大所帯なんですね」
「すまんな。妹がどうしても、竜牙に会いたいって言うから」
「いえ。付き合いの長さなら、お二人のほうが上ですから。むしろ僕が邪魔なのかなと」
「そんなことないよ。エステルちゃんが邪魔だなんて! ね? ミリアちゃん」
「そ、そうっすね」
口では、そう言っているが若干ミリアの反応が変だ。
「……」
少し考えるそぶりを見せて、ミリアはエステルへと近づいていく。
「負けないっすよ」
「僕も、負けません」
よくわからないが、喧嘩は勃発しなかったようだ。だが、ライバルのような関係になったのはなんとなく理解できた。
「これから大変だな」
眉を顰めながら、ジョンは俺の肩に手を置く。
「どういうことだ?」
「時期にわかるって。さあ、お前達早く移動しないと遅刻するぞ」
「そうですね。行きましょう、竜牙さん」
「駆け足っす! 兄貴!!」
「ダーッシュ!!」
よくわからないが、なにかが動き出したのはなんとなく理解できた。【威那頭魔】に居た頃とは、違った何かが……。
・・・・・
「というわけで、ゲームセンターにやってきた!」
「今日は、遊ぶぞ~!」
ミリアが復活した放課後。
俺達は、五人でゲームセンターへと訪れていた。学校から一番近いゲームセンターは、俺が不良だった頃はよく通っていた。
不良を辞めてからは、ほとんど来なくなったので久し振りだ。
「変わってないなぁ」
「いや、あの頃と違って、ゲームの配置とか種類も大分変わってるぞ」
言われてみれば。
とはいえ、入ってすぐにあるのはクレーンゲームっていうのは変わっていないみたいだな。
この色んな音が混じりあって、耳にダイレクトに響くような感じ……うん。ゲームセンターに来たって感じがする。
「さあ、エステルん! うちとここで勝負っすよ!」
今回、ゲームセンターに来ようと言い出したのはミリアだった。どうやら、エステルと勝負がしたかったらしく、エステル本人も考える素振りすら見せず、承諾した。
俺達が、ゲームセンターを見回っている中、二人はあるところへ直進していく。
たどり着いたのは、ダンスゲーム。
画面に表示される矢印に合わせて、足元にあるパネルを踏む。
リズムと運動神経、更に集中力がものを言うゲームだ。特に、ミリアはこのゲームをやり込んでおり、最高得点を出しては、俺によく報告をしていたっけ。
「聞いた話によると、エステルんは音楽が得意なんだよね?」
「まあ、色んな楽器を演奏したりはしていますけど」
「そして、聞いた話によると、ダンスも得意とか!」
「最近は、ブレイクダンスを習い始めました」
これはなんとも予想外な答えを。
ミリアも、かなり予想外だったようで、おぉ……チェケラ……と、呟く。が、すぐ正気に戻り、エステルを睨む。
「というわけで、うちとダンス勝負っす!!」
どういうわけなんだろう。ダンス勝負をするなら、普通にダンスを踊ってもいいはずだが。
まあ、深く突っ込まない方がいいだろうな、うん。ジョンも、慣れたように、菓子を取るクレーンゲームをやり始めているし。
「その勝負、お受けします。挑まれた喧嘩は買う。竜牙さんの教えです!」
別に教えた覚えはないんだが。それに、よくありそうな言葉だし。俺も、他人からパクったみたいな感じなんだよな。
「その意気やよし! 兄貴の隣はうちが守ってみせるっす!」
「負けませんよ!」
そして、二人のダンスは始まった。
いきなり激しい曲。
序盤から複雑な矢印が続くが、二人は余裕でステップを踏んでいく。
「やるっすね! マジぱねぇ!!」
「いえいえ! ミリア先輩こそ、余所見なんて余裕ですね!」
「そっちこそ!」
ミリアの場合は慣れているからこそ、余所見ができるのだろうが、エステルはどうなんだろうな。
色んな楽器を演奏したり、ダンスを踊っているからか?
「お? なんだ?」
「おい、あそこすごいぞ」
「なになに? プロのダンサー?」
やはりというか、なんというか。金髪と銀髪の美少女ということで、かなり目立つ。
それに加えて、見ているもの魅了するダンスだ。
いつの間にか、ちょっとした人だかりが出来ていた。
「おーい。二人とも、勝負もほどほどになー!」
「りょ!」
「わかりました!」
本当にわかっているんだろうか。とりあえず、俺はあまり目立たないように、近くにあるクレーンゲームでもやるか。