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第七話 一日の終わり

「ふう……」


 今日は色々有りすぎた。

 親にも、あの銀髪の子は誰だ? 紹介してくれ! とか滅茶苦茶言われた。

 エステルは、わざわざ自宅まで一緒に来たんだ。そこで、偶然にも母親である冴野朝夏に出会ってしまい、夕飯時には全力投球の質問。

 父さんが出張でいなかったのが幸いだった。

 けど。


「やっぱり」


 風呂上がりのさっぱりとした一時。

 それを邪魔するかのように、母さんから聞いたんだろう。父さんまで、エステルのことを聞いてきた。

 しかも、証拠写真つきで。


 添付されている写真は、反射的に母さんが撮ったものだ。エステルは、笑顔で構いませんと言ってくれたが……はあ。

 とりあえず適当に返しておこう。

 あんまりややこしくならないように。


「お兄ちゃん!!」

「ゆあ。どうしたんだ?」


 俺の次に風呂に入っていたゆあが慌てた様子で部屋に入ってくる。ちなみに、俺とゆあは一緒の部屋に住んでる。

 昔から、そうだったように今でも変わらない。とはいえ、そろそろゆあも年頃。家族で相談して、部屋を別々にしようと考えている。


 だが、ゆあ自身は全然気にしていない様子。

 その証拠に、育ち始めてきた体を俺に見せつけるかのように、パジャマのボタンを止めていない。

 そのため、胸が露になりそうになっている。


「とりあえず、ボタンをちゃんと止めてからだ……」

「あっ、ごめんごめん」


 素直に言うことを聞いてくれたゆあは、ボタンをしっかりと止め、俺の前に座る。


「それで? どうしたんだ?」

「それがね」


 なんて真剣な目なんだ。それだけ緊急事態だってことか?


「ーーーお母さんが、アイスを買い忘れてたの!!」


 なるほどなるほど。


「……それは緊急事態だな」

「でしょう!?」


 ゆあは、風呂上がりにアイスを食べることを、何よりも楽しみにしている。

 もっと早く気づくべきだった。

 今日はエステルのことで、母さんも興奮していたからな。


「だからね。これ一本しかないんだよ」


 よかった。一本もないのかと思ってた。ゆあが、悲しそうに取り出したのは、シンプルなミルク味の棒つきアイスだ。


「ちゃんとあるじゃないか」

「あるけど……お兄ちゃんと一緒に食べたかったから」


 こいつは、なんて可愛いことを言うんだ。

 落ち込んでいる姿から、本気だということが伝わってくる。


「俺のことは気にするな。俺はほら? 風呂上がりの牛乳があるから」


 ゆあを元気付けるために、俺は小さいパックの牛乳を見せる。すでにストローが刺さっており、半分ほど飲み終わっているものだ。


「うーん……あっ! じゃあ、一緒に食べれば問題ないよ!」


 さすがゆあ。単純ですごい発想だ。


「まずは、お兄ちゃんから! はい!!」


 なんにも考えずただ普通に、アイスを俺に突きだしてくるので、俺は首を横に振った。


「いいって。ゆあが食べてくれ。俺はやらなくちゃいけないことがあるから」

「なになに?」


 机に座った俺を、アイスを咥えながら覗き込んでくるゆあ。俺が取り出したのは、プリントだ。

 そう。今日、数学のプリントを出されたのだ。

 それを終わらせてから、またゆっくりしようと思っていた。


「うへー、なんだか難しそう」


 まだ中学一年のゆあは、高校一年の数学プリントを見て、心底嫌そうな表情をとる。もともと勉強が苦手だからな、ゆあ。

 俺も人のことは言えなかったんだけどな。

 まだ【威那頭魔】に居た頃は、ほとんど勉強をしていなかったから、大変だった。


「いずれは、お前もやることになるんだ。一緒にやってみるか?」


 などと、意地悪を言ってみる。


「え、遠慮しまーす」


 よほど嫌だったのか、俺のベッドに倒れこみ、夢中でアイスを舐め始める。

 

「零すんじゃないぞ」

「はーい」


 それから、俺は牛乳を飲みながら、ペンを走らせ、十分ほどが経ち、一通り枠が埋まった。と、同時にタイミングを見計らっていたかのようにスマホが電話を受信。

 誰からだ? 

 画面を確認すると、そこにはエステルと表示されていた。しかも、テレビ電話だった。


「もしもし?」


 スマホスタンドに置いて、俺は通話に出る。

 スマホに表示されたのは、これまた昼間の髪型とは違う。ポニーテールにしたエステルが手振っていた。どうやら、エステルもスマホスタンドに置いているようだ。


《こんばんわ、竜牙さん。今、お時間よろしいですか?》

「ああ。タイミングよく、プリントが終わったところだ」

「やほー、エステルちゃん」


 電話に出ると、ベッドに寝ていたゆあがぴょん! と跳ね起きる。


《ゆあちゃん。アイスおいしそうだね》

「でも、本当はもう一本食べたかったんだよねぇ……」


 あんまり食べ過ぎるのは良くないが、ゆあは修行でそれを燃費するからな。それに、ゆあは太らない体質らしい。


「それで、どうしたんだ? あっ、やっぱり撮った写真のことか?」

《いえ。写真のことは気にしていませんよ、本当に。ただ、おやすみの挨拶をしようかと》

「だったら、普通に電話でも」

《竜牙さんの顔を見たかったんです。ご迷惑でしたでしょうか?》


 別に迷惑ってことじゃないんだけど。


「いや、気にしてないよ。それよりも……そこは、エステルの部屋か?」


 エステルの背後に広がる光景。

 自室にしては、随分と広いような気がする。俺達の部屋の二倍、いや三倍の広さはあるんじゃないか?


《はい、僕の部屋ですよ》

「そういえば、私もエステルちゃんの家に行ったことなかったな」

「そうなのか?」


 俺よりも付き合いが長いのにか。そういえば、聞いた話は全部山や海なんか修行したとか、そういうことばかりだったような。

 そうなると、友達のように家に遊びに行った事はない? 


《そういえば、招待したことなかったね。じゃあ、今度の休日遊びに来る? もちろん竜牙さんも一緒に》

「わかった!」


 おいおい。俺はまだ行くとは……いや、この際だ。エステルのことを知って、色々と向き合わないとな。エステルだけが一方的に俺のことを知っているっていうのは、あれだし。

 俺も彼女のことを知るべきだ。

 

「わかったよ。じゃあ、その時はよろしくな」

《はい! 歓迎のパーティーを開いちゃいます!》

「わーい! パーティー!!」

「いや、なにもそこまでしなくても……」

《ふふ。冗談ですよ。ですが、僕の憧れの人と親友が遊びにくるんです。僕なりの歓迎をしますから。その時は受け取ってくださいね》


 いったいどうなるんだろう、その時は。

 その後、色々と話してから、通話を切り、ゆあとゲームで対戦してから、ベッドイン。なんだか休日が楽しみなような、不安なような。

 そんな気持ちで、俺は眠りについた。

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