第六話 金髪兄妹
「わー、いつ見ても大きな家だね」
「この辺りだと一番豪華な家だからな。中庭を普通に走り回れるぐらい広いっていうな」
何度も来たことはあるが、それでも同じ人が住む家なのかと思うほどだ。玄関まで、一分はかからないが、歩かないといけない。
インターホンを鳴らすと、家から先に帰っていたジョンが私服姿で出てきた。
どこかボーイさんみたいな服装だが、いつも大体そんな感じの服装だ。
「やあ、予想はしていたけど、三人で来たね」
「予想してたのか」
「まあ普通は予想できるさ。二人は、竜牙が行くところについていくのを見ていればわかることだ。それに、お見舞いの品もバナナだってこともね」
さすがは頭脳派の右腕。
こいつの作戦はいつも的確で、俺達を勝利に導いてくれた。
「さあ、入ってくれ。ミリアは、今か今かと……ほら」
ジョンが指差したのは、二階にあるミリアの部屋。
そこの窓から風邪をひいているとは思えないほど、元気に手を振っている金髪少女の姿があった。
「じゃあ、お邪魔します」
「お邪魔しまーす!!」
「お邪魔します」
見舞いの品のバナナを持って家に入り、予知していたかのように置かれた三つのスリッパ。
それを履いて、階段を上っていく。
そして、階段を上がってすぐにあるドア。
そこがミリアの部屋だ。で、隣にあるのがジョンの部屋だ。
「おーい。ミリア。元気にし」
「兄貴ぃ!!」
「うおっ!?」
ノックをしようと刹那。
それよりも早く内側からドアが開き、真っ白なパジャマを身に纏ったミリアが元気に飛び出してきた。
いつもはツーサイドアップの髪型だが、今まで寝ていたのだろう、髪を下ろしている状態だ。
「およ?」
本当に風邪を引いているのかどうかと、額に手を重ねる。
……熱い。
普通に熱い。どうやら汗も掻いているみたいだし。
「大人しく寝ていなさい」
ミリアを抱きかかえ、ベッドに寝かせる。
「えー? うちは、もう元気いっぱいっすよ! だって、兄貴がお見舞いにきてくれたんですから!」
「三十八度の熱を出しておいて、何を言ってるんだ? ミリア。信頼する兄貴さんの言うことを聞いて、大人しく寝てるんだ」
「あっ、兄さん」
しばらくして、ジュースが入ったコップを持って現れるジョン。
それをテーブルに置いて、熱冷ましシートを額に貼り付け、とんっと指先一つで軽く押す。
簡単にベッドに倒れたミリアは、不満そうに頬を膨らませる。
「もう大丈夫だって、兄さん。明日には学校に行けるよ!」
「だめだ。この調子じゃ、明日も休みだ。風邪を舐めるなよ、妹」
「ぶー!」
確かに風邪は舐めたらいけない。俺も、昔は気合いでなんとかなる! とか言って、熱で意識が朦朧としていたのに、仲間のピンチに駆けつけて、相手を倒したと同時に倒れたのを今でも覚えてる。
あの時は、ミリアも居たから、それを真似ているのかもしれない。ミリアも何だかんだで、運動神経がよくてチアの格好で応援してたっけな。
バク宙とか普通にできるからな。
「ほら、これ」
忘れないうちに、俺はミリアから借りていた漫画をバックから取り出し手渡す。
「どうでしたか? めちゃくちゃ面白かったですよね!?」
「あぁ。特に、主人公が敵の作戦を逆手にとったところは、思わず声が漏れた」
「ですね! しかも、その後の主人公無双! 作画の凄さも合わさり爽快感が半端なかったすよね!?」
ミリアは、漫画の影響もあってか、威那頭魔の頭だった俺を漫画から飛び出してきた主人公だと思い込んでいたんだ。
それが、今でも抜けず本当の兄が居るのに兄貴と慕ってくれている。
「ほら、興奮するとまた熱が上がるぞ」
「これからがいいところなのに……」
「まあまあ。元気になったらまた話し合おうってことで」
「はーい。ところで、ゆあっちは良いとして、そっちの銀髪の子は? ……ハッ!? ま、まさか兄貴のかの」
「まだ、彼女じゃないです」
「まだ!?」
こ、この子は本当に昔とは、全然違うな。昔のエステルだったら、恥ずかしくて、彼女という言葉すらまともに言えなかったかもしれない。
しかも、物凄く見惚れてしまう笑顔で言い切った。もう、ミリアは唖然である。
「おー、言うねぇエステルちゃん」
「はい。僕はまだ全然諦めていませんから」
そんなエステルの意思を聞いてジョンは、にやにやと意味深な表情で俺を見る。
「だってさ、竜牙。さっさと返事をして結婚してしまえ、と言いたいところだが」
な、なんだ?
ジョンの視線は、さっきから黙っているミリアへ向けられていた。
「あわ……あわわ……あ、兄貴が……遠くに……!」
「た、大変だよ! ミリアちゃんの熱が上がってる!?」
さっきまで元気だったミリアが、なぜか放心していた。
「み、ミリア!? おい! どうしたんだ!?」
「お前、やっばり気づいてなかったんだな……」
え? それはミリアの症状が見た感じよりひどかったってことか? なんてことだ……やっぱり、見舞いの品を置いてさっさと帰ってればよかった……! そうすればミリアも。
「牙が抜けてそっちのほうも鈍感になっちまったか。まあ、ミリアのアプローチが完全に兄貴分になついていた妹分って感じだったからな……はあ」
結局、ミリアのために俺達は、そのまま家から出ていった。
なにやら、エステルが楽しみが増えたかのような表情をしていたが……よくわからなかった。