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第四話 元頭と元右腕

「大変みたいだな、竜牙」


 その日の昼休み、一人で考え事をしたくて、誰もいない美術室で天井を見上げていた時だ。不良チーム【威那頭魔】で、俺の右腕として活躍していた男が現れた。


「ジョンか」


 ジョン・エドワーズ。小学生の頃、日本に来た金髪の貴公子だ。当時は、ほとんど日本語を喋れなかったが、今となっては違和感のない日本語を話せている。

 どう見ても、金髪のイケメンだが、どうして俺の右腕なんかをしていたのか。どうして、不良になんかなったのか。

 理由がびっくり。

 かっこいいから、だそうだ。不良チームに入った理由がかっこいいから。なんともまあ、男らしい理由だが、ジョンの活躍は右腕としては十分なほどだった。


 身長も高く、顔もいい。

 頭の俺とは、十センチ以上は違っていたかもしれない。だからこそ、最初は俺が頭だってことを信じてくれる奴らはかなり少なかった。

 そりゃあ、そうだ。

 まさかチビが不良チームの頭をやっているなんて、誰が思う。


「今朝、見たぞ。誰なんだ? あの銀髪の子は」

「やっぱり見てたか……」

「まあな。というか、あの子は嫌でも目立つだろ?」

「お前もそうだろ?」


 銀髪なエステルもそうだが、金髪で高身長、イケメンと目立つ三拍子と言ってもいいものを持っているジョンは、注目の的だ。

 俺のクラスの女子生徒の何人かも、ジョンの話題で盛り上がっていた。

 金髪イケメン先輩ってな。


「俺はもう慣れたよ。だから、視線なんて全然今では気にならない」

「そういうこと一度でもいいから言ってみたいもんだな」


 普通ならば、先輩後輩の間柄になるが、こいつとは同じチームで暴れていたから、上下関係という概念がなくなってしまっている。

 年上だが、元右腕であり、戦友だからな。今更、敬語とか考えられない。


「竜牙だって、十分目立ってただろ?」

「それは【威那頭魔】の頃だ。今じゃ、ただの一学生に成り下がって目立つことなんてなくなったよ」


 ゆあは、成長する毎に目立っていったけど、俺は不良を辞めてからは髪だって染めなおしたし、あまり目立たないように生きてきた。

 不良チーム【威那頭魔】がなくなって、もう三年。俺が頭を降りたと同時にチームも解散。もう俺のことなんて忘れているだろう。


「だな。まさか、こんな大人しそうな男が、この辺りを占めていた不良チームの頭なんて言っても、信じる奴らはほとんど居ないだろうな」

「だろ? もうすっかり牙を抜かれた獣だ、俺って」

「そんな獣さんは、今では恋愛にお悩みってか?」


 ……やっぱりすごいな、こいつ。


「もしかして、あの銀髪の子って。お前がふった子か?」

「……まあ、うん」


 エステルのことは右腕であるジョンには話していた。というか、近くで見ていたんだ。喧嘩帰りだったからな。当然右腕であるジョンは俺の傍に居た。

 あの時は、金と銀に挟まれて、ここは日本か? って一瞬思ってしまったのを覚えている。


「変わったずいぶんと。あの時は、かなり女の子らしかったのに。今じゃ、表情とか雰囲気がキリッとして。男装なんてさせたら、男ですら嫉妬するイケメンが完成するんじゃないか?」

「もう嫉妬したよ。エステルと再会した時、一度ゆあの彼氏だって勘違いしたからな」


 俺は先日の出来事をジョンに話した。エステルが、振られたのにも関わらずまだ俺を諦めていないこと。俺のために、俺の隣に居ても恥ずかしくない女の子になろうと努力をしたこと。


「そうだったのか。……それで?」

「それでって……なんだよ」


 いや、言うまでもないか。ジョンの言わんとしていることは、わかっている。


「噂では、その子には想い人が居るんだろ? それって、お前だよな、竜牙」


 もう結構広まっているのか……自分で広めているのか、それとも誰かが広めているのか。高等部まで広まっているって相当だな。


「多分」

「多分って、確実にそうだろ? あの子は、お前のために自分磨きをしているんだし」

「……俺だって、わかってるんだ。でも、どうしたらいいか。あー……昔の俺だったら、どうしてたんだろうな……」

「まあ、ゆっくり悩めばいい。彼女のこれからの猛アタックを受けながらな」


 こいつ、絶対楽しんでるな……イケメン笑顔が眩しいぜ。


「あっ、そうだ。話は変わるが、今日ミリアはどうした?」


 ミリアとは、ジョンの妹。中等部二年で、ゆあのようによく【威那頭魔】の活動を近くで応援したりしていた。


「風邪でノックダウンだ。お前に会いたくて、無理に学校に通おうとしていたが、ベッドに縛り付けてきた」

「……本気じゃないよな?」

「それぐらいじゃないと、あいつは止まらないからな。本当に風邪を引いているのかってぐらい元気だったからな」


 なんだか簡単に想像がつく。風邪を引いたからって、あの元気のよさは簡単には止まらないだろうな。


「じゃあ、見舞いに行かないとな。丁度、借りていた物も返さなくちゃならなかったし」

「そうしてくれると妹も喜ぶ。それじゃ、そろそろ昼休みも終わるから、俺は先に戻る」

「ああ、話を聞いてくれてありがとうな」

「気にするな」


 とはいえ、全然解決していない。これからの猛アタックか……。

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