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第三話 銀の意思

「では、次の問題を出席番号……」


 現在、数学の授業をしている。真面目に教科書を見ている者や、ノートに書き込んでいる者、欠伸をしている者などが密集する教室で、俺は後ろでなにかひそひそ話している二人に気づいた。

 耳はかなりいいほうだったので、真面目に教科書を見詰めがら耳を傾ける。


「なあ、見たかよ」

「なにを?」

「中等部の女子だよ」

「はあ? お前、また一目惚れしたから告白するって言い出す気か?」


 どうやら後ろの席の男子は、惚れっぽいようだ。


「ああ。しかも今度の女子は一味違うんだ」

「どう違うんだ? これまでだって、すげぇ巨乳だとか、すげぇ腰つきだとかそんなばかりだっただろ?」


 どうやら後ろの席の男子は、女子は性格や顔より体派のようだ。


「まあ、今回は体もそうだが、全てを見て一目惚れだった」

「へえ。珍しいな。お前にそこまで言わせる女子って。どんな子なんだ?」

「中学一年なんだけどさ。銀髪の子なんだよ」


 ……エステルか。

 まあ、目立つよなエステルは。あの銀髪だし、美形だし、スタイルも結構いいし。男子にもだが、女子にだってモテるだろう。

 

「おいおいマジか。今年で、十三になるとはいえ、今はまだ十二だろ? ちょっとやばめじゃね?」

「ふっ、恋に歳なんて関係ないんだ!」


 興奮した男子生徒は思わず、声を張り上げてしまった。そのせいで、先生にも聞こえてしまい、結構難しめな問題を解いてみなさいと指名されてしまう。

 そんな男子生徒の悩んでいる後ろ姿を見詰めながら、俺は考えていた。


 エステルはモテる。

 絶対にモテる。ただそこに居るだけで、ただ歩いているだけで、惚れる者達は多いだろう。そんな子を、俺はふった。

 そんな子が、ふったのにまだ俺のことを好きで居てくれている。

 また付き合ってくださいって言われたら、俺はどうするんだろう。またふる? それとも昔の罪の意識から付き合う?


 ……わからない。決して、エステルが嫌いってわけじゃない。付き合いたいと思っていないわけじゃない。

 本当にわからないんだ。

 昔もそうだったが、今でも恋愛というものが、誰かを愛するってことがわからない。そういう経験がないからって言えば全てが解決するけど。


(一目惚れ、か)


 問題を解けずとぼとぼと戻ってきた男子生徒。

 彼は、おそらくエステルに告白しに行くかもしれない。どうやら、一目惚れしたらすぐ行動するようなタイプみたいだからな。


「それで、この問題を……冴野くん」

「はい」


 エステルは、他の男子の告白をどう対応しているんだろうか。いや、エステルだけじゃない。ゆあだってそうだ。

 女子は、男子から告白されたらどう対応するんだ?


「正解です。さすが、冴野くんね」


 難なく問題を解き終わり、周囲の視線を気にせず俺は席に戻った。


(あっ)


 こんな問題もできないのか? と思っているわけじゃないけど、どうやら数人には思われてしまったようだ。

 

(あんまり考え事をしながら、問題を解くもんじゃないな……)




・・・・・☆




「ふっ、見事に玉砕しちまった……」

「だから無理だって言ったじゃんか。あの子には想い人がいるってもっぱらの噂だぜ?」


 どうやら、後ろの席の男子生徒はエステルにさっそく告白したが見事に玉砕したようだ。

 それにしても行動が早い。

 まだ告白すると言って、一時間も経っていないぞ? 俺もさすがに気になって、授業終了のチャイムと同時に出て行った男子生徒を追いかけて確かめたが……あれは無理だな。


 まず、男子生徒は中等部に恥ずかし気も無く突撃していった。

 そして、さっそくエステルを見つけるなり、話があると校舎裏へと連れて行った。校舎裏とは、またベタなと思いつつ、なぜかゆあも参加して、エステルの様子を窺うことに。


「一目惚れをした! 付き合ってくれ!!」


 なんて前置きもない、ストレートな告白だろうかと。

 だが、悪くはない。

 むしろその言葉がすぐ出てくる辺り、かなりの勇気の持ち主だ。とはいえ、今のエステルにはびくともしなかったらしく、笑顔で頭を下げた。


「申し訳ありません、先輩。僕には想い人が居ますので、その告白を受けることはできません」


 ここまでなら普通だ。

 しかし、この後の行動がなんとも衝撃的だった。


「見えましたか?」


 突然、男子生徒の顔横に拳を突き出し、すぐ何事もなかったかのように戻した。今朝のゆあよりは遅めだ。


「え? な、なにが?」


 だが、男子生徒にはいったい何をしていたのかが理解出来ていなかったようだ。おそらく、そよ風が吹いたとかそういう風にしか感じていないだろう。


「かなり遅めだったのですが……失礼しました。では、友達と約束がありますので。ここで」

「あ、ああ」


 男子生徒は、その後しばらく放心状態。

 ちなみに友達というのはゆあのことだ。

 俺はなんだか顔を合わせるのが、気まずかったのでゆあに覗きをしていたことを口止めして戻ってきたのだが……


「僕には想い人がいるので」

「あれって俺のこと、だよな」


 もしかして、ずっと誰かに告白された時は、ああやって断っていたんだろうか。当人の俺は、彼女の気持ちに応えず、ふったっていうのに。


「あー……もやもやする……!!」


 休み時間ももう終わる。

 次の授業は体育だったか。さっさと着替えて、移動するか。

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