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第二話 女の子な僕はどうですか?

「いってきまぁす」

「いってきまーす!!」


 エステルに出会った次の日。俺とゆあはいつものように仲良く二人で、自宅を出て行く。

 二人ともはよくある制服を身に纏い、通学路を仲良く進んでいく。俺達が通っているところは中高一貫校だ。

 私立鷲永高等学校。俺が高等部の、ゆあが中等部一年生になる。


「ゆあ。昨日は、随分と話しこんでいたみたいだな」

「うん! エステルちゃんってすっごい物知りだから、色んなことを教えてもらっちゃった! 外国のこととか!」


 そういえば、エステルは、いつから日本に住んでいるんだろう。俺が始めてであったときには、もう悠長な日本語で話していたし。

 少なくとも幼稚園児ぐらいから、こっちに来ていれば、小学五年生の時にはあれほど悠長な日本語を喋れるようになっている、はず。それとも生まれは外国で、育ちは日本ていう感じなのか。


「それに、エステルちゃんって楽器も演奏できるんだって!!」

「どんな楽器なんだ?」

「バイオリンとか、ピアノとか、最近だとギターにも挑戦しているんだって」


 バイオリンにピアノと、気品ある楽器から、ギターって。でも、あの美形っぷりだからなぁ……普通にギターを演奏している姿を想像しても、違和感がない。

 ちょっとビジュアル系のギターリスト、みたいな。


「まだ始めたばかりだから、素人当然なんだけどね」

「あっ! エステルちゃん! おはよう!!」

「うん、おはようゆあちゃん。竜牙さんも、おはようございます」

「お、おう。おはよう」


 丁度住宅地から出ようとしたところで、エステルと遭遇する。昨日の男装とは違い、学校の制服を身に纏い、髪の毛も下ろした女の子らしいエステルが、そこに居た。

 とはいえ、その美形っぷり変わらず、雰囲気が柔らかくなったというか。

 やっぱり、服装や髪型が違うと雰囲気も変わるんだな。


「どうですか? 女の子な僕は」


 その場で、制服姿を見せ付けるようにくるりと回って見せるエステルに、俺は頬をぽりぽりと掻きながら口を開ける。


「……ああ、可愛いと思うぞ」

「ありがとうございます。竜牙さんも、制服姿かっこいいですよ」

「さんきゅ。でも、やっぱネクタイを締めると身は引き締まるが、窮屈なんだよな」

「制服ってそういうものですから。苦しいなら、学校につくまで緩めちゃえばいいんですよ」


 そう言ってエステルは、俺に急接近してネクタイを少し緩めた。


「これで、大丈夫ですよね?」

「まあな。俺は、あんまり気にしないが、周りから見たらだらしない格好だって思われるだろうな」


 俺以外にもネクタイを締めている人達は居る。俺と一緒の学校に通っている学生に、会社へと向かうサラリーマン。

 俺は、しっかりしないとだめだと思って家に帰るまではずっとネクタイをしっかり締めていたけど。エステルに緩められたら、このままでもいいかなと思ってしまっている。この子は、確実に男をだめにするタイプの女の子だ。


「大丈夫です。だらしない格好の竜牙さんも、僕は好きですよ」

「私も! 私も! そもそもお兄ちゃんは基本だらしなかったから、そのほうがいいと思う!!」


 だらしない格好がいいって……男としては、ちょっと複雑な心境なんだが。

 まあ、不良チームの頭を張っていた頃は、服装とかは色々だらしなかったからな。相手に舐められないようにって、着崩れさせていたり、基本一張羅は忘れずに着込んでいたり、鍛えた筋肉を見せ付けていたりと……昔と比べれば、かなり真面目になったなぁ、俺。


「ゆあ。今の俺はそんなにだらしなくないだろ?」

「そうだね。メガネをかけるぐらい真面目さんになっちゃった! でも、やっぱり私としては昔のお兄ちゃんのほうがいいなぁって」

「そういえば、竜牙さん。あの稲妻のメッシュを染め直しちゃったんですね」

「まあな。【威那頭魔】の頭から下りたし、真面目になろうって」


 あの稲妻感を出すのは、結構考えていたから、最初は染め直すかどうかと、めちゃくちゃ悩んだのを今でも思い出す。


「なあ、エステル。俺からもひとつ聞いていいか?」

「なんですか?」


 丁度横断歩道の信号が赤になり、信号待ちとなったところで俺はエステルに問いかけた。


「ゆあとはどうやって友達になったんだ?」


 ゆあは、俺にべったりだったからあんまり友達と遊ぶことはなかった。だから、小学校に、クラスにこんな子が居たよ! みたいなことはほとんどと言っていいほど聞かなかった。

 もし、ゆあが積極的に友達を作るような子だったら、確実にエステルとは友達になっていただろう。

 やっぱり銀髪だから目立つし、周りの子と比べて一際可愛いだろうからな。


「元々ゆあちゃんのことは知っていますが、僕自身やっぱり皆と距離を置いていたんです。ほら、外人だから色々と近寄りがたい雰囲気があったみたいで」

「私は、綺麗な子だなぁって思ってんだよ。他の皆もだけど」

「ゆあちゃんと友達になったきっかけは……竜牙さんに振られたのがきっかけ、ですね」

「うっ……」


 エステル本人は気にしていないとは言うが、今の俺はどうしても反応してしまう。はあ……本当、色々情けなくなってるな。


「最初はすごく落ち込みましたが、すぐに気持ちを切り替えたんです。もっともっと竜牙さんの隣に居ても恥ずかしくないような女の子になろうって。だから、ゆあちゃんに聞いたんです。竜牙さんは、どんな女の子が好みなのか、竜牙さんはどんなトレーニングをしているのかって」


 なるほど。妹であるゆあだったら、すぐ近くで見ているだろうって思ったんだな。……ん? トレーニング? 


「それからは、猛特訓の日々です。ゆあちゃんに、竜牙さんのことを聞き、それを励みにして、苦しい時も乗り越えてきました」

「私が、強くなりたいって思った時もエステルちゃんが付き合ってくれたんだよ!」

「そうだね。ゆあちゃんは、やっぱり竜牙さんの妹だって思わせるぐらいものすごい急成長をするから、僕も負けてられないって触発されちゃったよ」


 なるほど……秘密の特訓をするって言ってどこかに出かけることがよくあったが、エステルと一緒にやっていたのか。

 

「そうして、竜牙さんに会いたい衝動を堪え続けて三年。もう我慢できなくなって、こうして再会を果たした、という感じです」


 気恥ずかしそうに笑むエステルの笑顔は、まるで草原に咲く一輪の花のように輝いていた。

 これは、女子でも見惚れてしまう。

 実際、近くに居た見知らぬ女子学生が顔を赤くして、エステルを見詰めているのが証拠だ。


「……女の子ってやっぱり強いな」


 信号も青になり、横断歩道を渡りながら俺は苦笑した。あれだけ見事にふったのに、まさか諦めていなかったなんて当時の俺は思わなかっただろう。

 

「そうだよ、お兄ちゃん。女の子は時として、男より強いんだよ!!」

「まあ、それでも竜牙さんには敵いませんけど」


 横断歩道を渡りきり、学校へと一直線というところで、ゆあがにやりと悪戯っ子な笑みを浮かべる。

 何をするかと思いきや。


「そんなことないよ! 私達はまだまこれから!!」


 と、いきなりエステルに鋭い突きを繰り出す。

 丸太に穴を空けるほどの強烈な突きだ。

 これを食らったら、ちょっとした怪我ではすまない。しかし、エステルは余裕の表情で右手を構え。


「そうだね」


 ぱしっと、軽くゆあの手を叩き落とした。


「あちゃー! また叩き落とされちゃったー!」

「ふふ。ゆあちゃんの攻撃は真っ直ぐだからね。でも、こんなところで襲撃は止めたほうがいいよ。周りの目があるんだから」


 その証拠に、さっきのやり取りを見ていたであろうサラリーマンが目を丸くしていた。当然と言えば当然か。

 俺だからこそ見えていたが、ゆあの突きはかなりの速度だ。

 一般人から見たら、何かが動いたぐらいにしか見えていなかっただろう。もしくは何をしたのかがわからない。それをエステルは、表情ひとつ変えずに叩いた。 

 そこで、一般人にはようやく拳を突き出したんだと理解できたはずだ。


「ごめんなさーい!」

「本当に変わったな、エステル。ゆあの突きを簡単に叩くとはな」

「いえ、そんな。一緒に特訓してきたゆあちゃんの攻撃だったからこそ、予測できただけです。僕なんてまだまだ。これからも、たくさん特訓して、強くなりますよ」

「私も私も!!」


 現代において、ある程度の護身術は必要だろうが。護身術以上の強さはあんまり必要……じゃないとは言えないか。

 最近は本当に物騒だからな。俺が【威那頭魔】の頭を張っていた頃に、ぶっ飛ばした連中がまた暴れる可能性だってあるし。それでなくとも、馬鹿な連中が突拍子もなく犯罪を犯すことだってある。

 いくら強くなったと言っても、二人は女の子だ。

 やはり、何かしらの事件に巻き込まれたら……。


「どうしたんですか? 竜牙さん」

「あんまり無茶なことだけはするなよってな。二人は、女の子なんだから。体を大事にしろって思っていたんだ」


 差別をしているわけではないが、女子の体が男子以上に繊細だと思っている。柔肌にたくさん傷なんてついているもんなら、嫁の貰い手が少なくなる。

 女の子としての幸せが、遠のいていくかもしれない。

 俺はそれを心配しているんだ。


「その時は、竜牙さんのところに嫁ぎますので、心配は要りませんよ」

「じゃあ、私も!」

「お前は、妹だろ……」


 でも、この二人なら心配は……いらないか?

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