第十八話 不穏な動き
「おー! 懐かしの威那頭魔文字!! 昔はよくこの文字を見て、興奮してたっすねぇ」
「本当に懐かしいです……あ、あの着ても良いです?」
「なにを言ってるっすか! これは兄貴だけの一張羅! 兄貴以外が着るなんて」
「でも、わたし着たよ?」
「マジっすか!?」
釣りの途中で、ゆあが何気なく俺が一張羅を久しぶりに出していたことを伝えると、二人は目の色を変えて、今すぐ見に行こう! と言い出した。
今回は収穫があったのでよしとしようということで、現在は自宅に居る。
「じゃ、じゃあうちも」
「いえ、僕が先に」
「何を言うっすか! この中で、ゆあっちの次に付き合いが長いうちが先に着るのが普通っすよ!!」
「ですが、竜牙さんを好きと言う気持ちなら、僕のほうが上です」
「なにを! そういうことならう、うちも……えっと……ちょいやー!!」
何かを言いかけたが、それを誤魔化すように俺の一張羅を着るミリア。
「ミリアさん! なに着てるんですか!?」
「うちが着るって言ったじゃないっすか! こういう時は、先輩を立てるものっすよ!!」
「むう……」
珍しく言い返せないエステルを見て、俺は笑みを浮かべる。
なんだかんで、エステルもまだ子供なんだな。
エステルにとっても、あの一張羅は思い出深いもの。
俺が知らないだけで、彼女は俺達の活動を陰ながら見ていたんだよな……。
「おー! なんだかこれを着ているとテンション爆上がりっす!!」
「ははは。その気持ちわかるよ。俺もそうだったからな」
あの一張羅を身に纏って、俺はいくつもの不良グループと戦い勝利を収めてきた。一度たりとも、振り向かず、後退せず、ただ真っ直ぐに。
俺達の誇りである威那頭魔の文字。
これを汚すことなく、電光石火の猛攻。例え、刃物を向けられても怯むことなく前に前に……。
「ミリアさん。もうそろそろ良いんじゃないですか?」
「いやいや。後四時間はこのまま」
「長過ぎますよ!」
「あー、一張羅がうちから離れないっすー」
「そんなはずありません!」
何度目だろう。こうして二人が睨み合っているのを見るのは。今回もまた喧嘩が始まるのか? と思っていたところ、エステルのスマホが鳴り響く。
「……すみません、少し失礼します」
さすがに無視をしなわけにもいかず、エステルは一度冷静になり、ポケットからスマホを取り出す。
「もしもし。……え? それは何かの間違いじゃ。……わかりました、僕が直接確かめます。それまで、勝手な判断は許しません」
なんだろう、なにかあったのか?
かなりシリアスな表情だけど。
通話を終えたエステルは、スマホをポケットに仕舞うと、俺達に頭を下げる。
「申し訳ありません。急用ができたので、僕はここで失礼させていただきます」
「なにかあったの? エステルちゃん」
俺達を代表して、ゆあがエステルに問いかける。
エステルは、しばらく考えた後、その重い口を開く。
「実は、リンゼちゃんが率いているあの黒タイツの人達が、一般人に危害を加えたという情報が入ったんです」
「え? それって、うちらのことじゃなくて?」
確かに、俺達も一般人ではあるが。
「いえ。僕達以外の一般人です。偶然、僕の家で働いているメイドの一人が見かけたらしくて。二人ほどで、二十代の男女を襲っていたと。怪我は無かったようですが」
「でも、今までは一般人には絶対危害を加えなかったリンゼがってのが問題か?」
「……はい。だから、これから僕はリンゼのところに言って事情に聞きに行こうと思います」
やっぱり必死だな。ずっと信じていた友達が、間違いを犯してしまったかもしれないのだから。
「そういうことならわかった。行って来い」
「ありがとうございます」
「なにかあったら連絡してね! すぐ駆けつけるから!!」
「無理するんじゃないっすよ!!」
今一度、頭を下げて部屋から出て行くエステル。
窓から外を見ると、すでに迎えの車が来ていた。家から出たエステルは、すぐに車に乗り込み去って行く。
「大丈夫かな? エステルちゃん」
「心配だけど、今は待つことしかできない。リンゼのことを一番知っていて、信じているのはあいつなんだからな」
「……先に着せてやればよかったっす」
エステルが先に帰ったことで、俺の一張羅を脱ぎながら後悔し始めるミリア。
「次来た時に、着させてやれば良いだけだ。それよりも、今は入ってきた情報が真実じゃないことを祈ろう」
俺達が今できることと言えば、それぐらいだ。
けど、気になるなやっぱり。
まさかいつもの襲撃の後に、問題が起きるなんて。まさか、いつまでも勝てない腹いせに一般人を? けど、エステルに比べて付き合いの浅い俺でもわかる。
リンゼは、そんなことをするような子じゃないと。
じゃあ、黒タイツの単独で?
いや二人だって話だから、複数人の犯行? もしかして、リンゼのやり方や考え方に付き合いきれずに……そんな様子はなかったと思うが。
やられていたが、なんだかんだで黒タイツ達も楽しんでいた様子があったし。
「お兄ちゃん?」
「そろそろ良い時間だ。ミリア、家まで送っていくぞ」
「マジっすか!」
「ああ」
「じゃあ、わたしも行く!!」
ついでに、街の様子も見ておきたいしな。待っていようって自分で言ったけど、やっぱり気になるからな。




