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第十七話 懐かしの一張羅

毎日が暑すぎて、倒れそう……指がなかなか動かんですたい……。

 久しぶりに引き出した。

 本当に久しぶりだ。なにせ、不良を辞めてから一度も出したことがないから。とはいえ、大事に仕舞っていたので埃一つ被っていない。


「あっ! お兄ちゃん、それって」


 風呂上りのアイスを片手にゆあが部屋に入ってくる。

 相変わらずパジャマのボタンをちゃんと留めておらず、目のやり場に困る。


「ああ。俺が着ていた一張羅だ」

「やっぱり! わー! 懐かしいなぁ。この背中の威那頭魔の文字! お兄ちゃんが一生懸命自分で縫ったんだよね!」

「ははは。本当懐かしいな」


 あの頃は、不器用ながらも自分で一張羅に威那頭魔の文字を縫っていた。

 よく見れば、若干歪な部分がある。

 最初に縫ってから一度も手直しをしていないのは明白。

 懐かしさのあまりゆあが俺の一張羅を着ていた。


「お? 私にぴったりだよ!」

「俺が中一の時のものだからな」


 若干大きめのものだが、あの頃の俺はそれなりに小さかった。中二の後半辺りから一気に伸び始めた。

 とはいえ、それでもギリギリ百七十を超えていないけど。

 ゆあの身長が現在百四十六センチメートルだったはずだから、俺はそれよりもちょっと大きな百四十八センチメートルだったか?


「それで、どうしてこれを? あっ! もしかしてまた」


 と、期待の眼差しを向けてくるゆあだったが、俺は首を横に振る。


「いや、不良には戻らないよ。ただエステル達と特訓していて、昔のことを次々に思い出したから。ついな」


 それに今更、不良グループ【威那頭魔】を復活させても、集まってくれる奴らが居るかどうか。すでに街から出て行った奴らも居るし、俺みたいに真面目になっている奴らも居る。

 威那頭魔の活動は、確かに街に貢献した。

 最初は、どうせ不良の集まり、なんて言われていたけど、今では街を護ってくれた正義の不良グループとして知られている。


 昔と比べれば大分不良達は居なくなった。

 まだ悪さを続けている連中は居るけど……やっぱりそういうのは警察の仕事。

 いくら正義の不良と言っても、一般人ができることには限度がある。

 もしかしたら、やり過ぎてこっちも捕まってしまうことだって……。


「そっかぁ。もし復活したら、入ろうと思ってたのに」


 一張羅を着たまま、残念そうな表情で椅子に座るゆあ。

 ゆあは昔から、俺達と一緒に正義の活動をするんだ! って言い続けていたからな。今のゆあだったら、十分活躍できること間違いなし。

 

「エステルちゃんも、ミリアちゃんも、ジョンさんだって絶対わたしと同じこと言うよ!」

「そうか?」

「そうだよ! あっ! どうせだったら、四人で新しいグループ作っちゃう?」

「新しいグループか……」


 確かに、そういうのもいいとは思うけど。


「ね? 絶対楽しいよ!」

「お、落ち着けってゆあ。お前の気持ちはわかったから。ほら、アイスが溶けてるぞ?」

「わっ!? ほんとだ……」


 危うく床に零すところを、慌てて舌で舐め取っていく。

 

「それよりも、それ早く脱げよそれ。アイスを零したら大変だからな」

「はーい」


 

・・・・・



「く、クエー……」

「ふう。今日もお疲れ様でした」

「きー!! 今日も負けましたのぉ!! 覚えてらっしゃい!!」

「うん。また遊ぼうね、リンゼちゃん」

「だからちゃんはおやめなさい!!」


 また田中リンゼと黒タイツの集団が襲ってきた。この前は公園だったが、今回は港。

 あの山での釣りが印象に残っていたのか、ミリアが今度は海釣りをしようと誘ってきたのだ。

 やはり、一匹も釣れなかったのが悔しかったんだろう。

 エステルもその提案にノリノリで、釣り人のような格好で登場。

 釣竿も人数分を用意してくれた。


 天候も快晴。

 風も強くなく、波も静か。絶好の釣り日和だと張り切っていたところへリンゼが登場したのだ。

 ミリアは、空気を読め! とエステルとゆあに加わって黒タイツ達を撃退した。


「まったく……なんだったんすか? あの黒い連中は。マジ空気読めって感じなんすけど」

「すみません。彼女は、僕の友達なんです。昔から僕のことを敵視しているようで」

「友達なのか敵なのか、どっちなんすか?」

「うーん、そうですね……お友達であり、良きライバルってところですね」


 あっちは、友達だとは思っていないようだけど。


「エステルんも大変っすね。あんな変態集団に襲われ続けて」

「いえいえ。結構楽しいので、問題ありませんよ。それに、リンゼちゃんは悪い子じゃありませんから。これまで警察沙汰になったことがないぐらい」

「いや、あんな変態集団に襲われたんだから、こっちが通報すれば一発で警察沙汰になるんじゃ」


 確かに、それは言えている。が、エステルは一度も通報をしたことがないようだ。リンゼもリンゼで、周りに迷惑をかけないように、毎回根回しをしているようだし。

 もしかしたら、エステルが通報しないとわかっていて、遠慮なく襲っているんじゃないか? そうでなければ、普通は警察沙汰になってもおかしくないことをやるはずがない。


「大丈夫ですよ。リンゼちゃんなら。信じてますから」

「お人よしっすねぇ、エステルんは」

「そこがエステルちゃんの良いところだよ」

「僕は、竜牙さんを見習っているだけ。竜牙さんに比べたら、僕なんてまだまだだよ」


 え? 俺ってそんなにお人よしだったか?


「それは言えてるっすね」

「うんうん」


 喜んで良いところ、だよな? これって。


「あっ! 兄貴! 釣れてるっす!!」

「なに!?」

「竜牙さん! 焦ってはだめです! よく見て、魚との駆け引きを!!」

「そんなことを言われても!」

「頑張れー! お兄ちゃーん!!」

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