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第十五話 山の中で

「ふう、空気がうまいな……」

「んー!! やっぱり山っていいよね。なんだか駆け回りたくなってきたよ!」


 エステルの誘いを受け、俺達はアッカート家の敷地内にある山へと訪れていた。

 どうやら、エステルが先に帰ったのは、山の様子を確認するためだったようだ。特に、熊や猪のような野生動物が付近にいないかどうか。

 時々、密漁のため無断で入ってくる者達も居るようだ。

 その確認を終えたので、ピクニックでもどうかと。


「それにしても、ジョンさんは来れなかったようですね」

「兄さんなら、ママに捕まってるっす」

「どういうことですか?」

「突然部屋の模様替えをしたいって言い出したんすよ」


 二人の母親であるミオンさんは、突拍子もなく思いついたことをやるからな。ジョンもジョンで、ミオンさんはなかなか逆らえない。

 昔からそうだ。

 不良チーム【威那頭魔】だった頃も、よくミオンさんの思いつきに付き合って、喧嘩に来れない事が多々あった。


「ミリアさんは」

「うちは、なにも言われなかったから、遠慮なくこっちに来たんすよ。だって、ピクニックっす? 部屋の模様替えをするよりも、何百倍もいいに決まってるっしょ! ……それで、エステルん。ひとーつ聞きたいことがあるんすが」

「なんですか?」


 楽しい気分のミリアだったが、目の前の現実に足を止めてしまっている。

 まあ、ミリアの気持ちはわからなくもない。

 ただ山でピクニックをするだけかと思っていたからな。


「この……いかにも飛び跳ねるために、作られた丸太の道はなんでしょう?」


 山を登って、しばらくすると拓けた空間が広がった。

 そこには、一定の距離を取って、地面に突き刺さった丸太の道が現れたのだ。高さもバラバラで、飛び跳ねながら移動するのは、なかなか骨が折れそうだ。


「え? 普通の道じゃないですか。こうやって!」


 探検家のような服装のエステルは、さもこれが普通とばかりに丸太の道を飛び跳ねて移動していく。

 そして、中央まで辿り着いたところで、こちらへ手を振る。


「さあ! 皆さんもどうぞ!!」

「どうぞじゃないっすよ……」

「無理に通らなくてもいいんじゃないか? ほら、こっちに普通の道があるみたいだし」


 丸太の道の横に、平地もある。

 無理に同じ道を通る必要はない。


「……いえ! うちも兄貴の妹分っす!! この程度の道!!」


 ミリアも動けないわけではない。スカートの下には、スパッツを履いてきているようで、思いっきり飛び跳ねる。


「おりゃりゃりゃりゃあ!!!」

「うおー! わたしも負けてられないぞー!! お兄ちゃん、先に行くね!!」


 そして、一人になった俺はしばらく考えた後、足に力を入れる。


「俺も!!」


 高いもの、低いものの位置を見極めて、一番飛び乗れそうなところを移動する。


「おっと……」


 一瞬バランスを崩しそうになる。やばいな、やっぱり体は思うように動かない。三年のブランクだ。無理をしない程度にやっていこう。

 一歩ずつ、確実に。

 

(こうしていると、やっぱり思い出すな。あの頃は、ひたすら強くなるために特訓に明け暮れていた。今冷静に考えれば、漫画みたいなことをしていたな……)


 それが周りにも影響して、こんな訓練場を作るほどまでになるなんて。


「到着っと」


 三人が待っているところへ、着地した俺は一度通ってきた道を見詰める。


「俺、どれくらいで到着した?」

「そうですね……四十秒ほどでしょうか?」

「四十秒か」


 道の距離から考えて、もう少し早く到着できたはずだ。別に運動不足というわけではないけど、三人に比べたら一番遅いだろう。

 

「気にすることないよ! 十分速かったから!」

「ありがとう、ゆあ。それで、ここから先は何があるんだ? エステル」


 ゆあに励まされた俺は、気持ちを切り替え、エステルに問いかける。もう誰もが気づいているだろう。今日がただのピクニックではないということを。

 

「秘密です。それを考えなるのも今日の楽しみのひとつですから」

「なるほど。そういうことなら、楽しませてもらおうか」

「さあ、それではピクニック再開です!」

「こんなのピクニックじゃないと思うっすけど……」


 確かに言えてる。


「散歩をしながら、特訓をする。立派なピクニックです」


 普通は散歩をしながら、食事をしたり、風景を楽しむのがピクニックなんだけどな。

 

「それにしても、山がこんなことになっているとはな」

「はい。やっぱりハイテクなトレーニング機具でやるのも良いですが、こういう自然の中での特訓をするのも気持ちが良いですから」

「うんうん。自然の中で特訓すると気持ちいい! でも、自然での特訓は天気のことも考えないといけないから大変なんだよねぇ……」


 トレーニング機具は、室内に持ち込める。そのため天気に関わらず特訓ができる。

 スポ根漫画とかでは、よく雨や雪の中でも訓練をしているようなシーンがあるけど、体調のことも考えて、ゆあにはあまりやらないように教えていた。

 最初は、俺もやってたから自分もやるって随分と粘ってたなぁ……。


「さて」


 しばらく話しながら歩いていたと、突然エステルが止まる。

 おそらく次の特訓場に辿り着いたんだろう。

 さっきの場所と違って、高い高い壁が立ちはだかっている。


「壁登りです」

「た、高すぎじゃないっすか?」

「ご安心を。ちゃんと安全のために命綱を装着しますので」


 とはいえ、登るにはかなりの高さだ。だが……なんだか久しぶりに高ぶってきた。


「ほらほら! ミリアちゃん! 早く行かないと、日が暮れちゃうよ!!」

「わ、わかってるっすよ! うおー! テンション上げ上げで行くっすー!!」

「ふふ。さあ、竜牙さんも」

「ああ」


 エステルから命綱を受け取り、俺は先に登っていった二人を追っていく。なんだか、エステルも嬉しそうっていうか。

 笑顔が眩しいな。

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