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第十四話 悪役になった少女

「彼女とは、竜牙さんと出会う前からの付き合い。所謂幼馴染みの関係なんです」

 

 公園のブランコに座りながら、エステルは語り始める。先ほど襲ってきた田中リンゼとの関係を。

 ブランコは二つしかないので、俺はフェンスに腰かけている。


「あの頃の僕は、アッカート家の娘として、恥ずかしくないようにと色んな習い事をしていました。リンゼちゃんも同じ習い事をしていたから、よくコンクールとかで勝負を挑まれていたんです」


 なるほど。あの感じだと、いつもエステルが勝ってしまうからムキになって勝負を挑み続けているってところか。


「それで、どうしてあんなことを?」


 勝負を挑もうにも普通に考えて違和感がある。

 なにか他に理由があるに違いない。


「ああなってしまったのは、僕が竜牙さんに相応しい女の子になるために猛特訓を始めて一年が経った頃でしたね。どこから聞きつけたのか、僕がいつものように自宅でトレーニングをしていると、リンゼちゃんが現れたんです」

「それでそれで?」

「うん。一言だけ吐き捨ててすぐ帰っちゃった。あなたがヒーローになるならわたくしは悪になりますわ!! って」


 ……ん? どういうことだ。


「え? どういうこと?」

「……もしかして、リンゼはエステルが特訓を始めた理由を勘違いしているんじゃないか?」

「まさにその通りです。どうやら僕が悪さをしている人達を倒しているところを見ていたらしくて」


 エステルの話によると、廃工場を舞台にアッカート家の使用人達を悪者として、特訓をしていたようなのだ。それを見たリンゼが正義の味方になるために特訓をしていると思い込んでしまったようだ。

 元から、大人しかったエステルが突然変わったことを疑問視していたようだ。

 

「それからです。何度も何度も、間をおいてはああやって遊びに来てくれるんです」

「あ、遊びにって」

「楽しかったよねー」


 この二人にかかれば、遊びになるだろうな。それに、あんな集団が頻繁に襲ってくるってことは、それだけ戦いの特訓になるってことだよな。

 あっちも猛特訓をしているようだけど、エステルのほうが上手だった。


「それに悪と言っても、それほど悪い子ではないんですよ? 今回だって、この時間帯は子供達が公園に居るはずですよね?」

「そういえばそうだな」

「おそらくリンゼが根回しをしたんだと思います。周りに迷惑をかけないようにと」


 周りに迷惑をかけないようにと言われてもな……あの黒タイツ集団が居るだけ、ある意味迷惑がかかるような気がするんだが。

 少なくとも、近づきたくはないよな。


「あくまで、悪役、ですから。リンゼちゃんは、本当は優しい子なんです」

「ははは。そういうことか」


 すると、エステルのスマホがメールを受信した。

 

「……リンゼちゃんです」

「なんて?」

「ちゃんはおよしなさい! って」

「聞こえてたのか……」


 いったいどこで見ているんだ? 目に見える範囲にはいないようだけど。


「あっ! 兄貴ー! ゆあー! それにエステル!!」

「よう。公園でなにしてるんだ?」


 おっと、ジョンとミリアが特売品を持って姿を現した。てことは、母さんも今頃家に帰っている頃か。


「ちょっとな。それで? 戦利品はどんな感じだ?」


 買い物袋には、コロッケやとんかつ。他にも野菜などがたくさん詰まっていた。特売品も結構変えているみたいだし、十分な収穫だな。

 けど、ミリアの表情はなぜか暗かった。


「たくさん買えたっすけど、やっぱり兄貴のお母さんは強敵でした……」


 あー、なるほど。


「ははは。母さんも容赦ないからな」

「お前が言うか?」



・・・・・



 今日は、珍しくエステルがいない。今回は家の都合で、速めに帰って行ったらしい。やっぱり、お金持ちのお嬢様となると、俺達一般市民にはわからない用事がいっぱいあるんだろうな……。


「エステルは、なんて言ってたんだ?」

「えっと、すごく急いでいたから、用事があるとしか」

「そっか。……ん? あれは」


 帰宅途中、見覚えのある人物を発見した。

 鬼のような角を二本生やしているカチューシャに、漆黒の髪の毛とドレス。先日エステルを襲ってきた子だ。

 確か名前は、田中リンゼ。


「あっ、リンゼちゃんだ」

「むっ!?」


 あっ、こっちに気づいた。

 そして、猛ダッシュでこっちに。


「そこのあなた! ちゃんはつけないでくださいまし!!」

「えー? でも、可愛いよ?」

「ありがとうございます! ですが、わたくしはもう立派なレディ! ちゃんをつけられるほど子供ではありませんの。そこのところご理解できて? ……って、あなたよく見たらこの前エステルさんと一緒に居た」

「自己紹介がまだだったね! 冴野ゆあって言うんだ。よろしくね、リンゼちゃん」

「だからちゃんは!!」


 このままじゃ話が進まないような気がしてきた。


「あー、えっと、リンゼ。ちょっといいか?」

「あら? あなたも見たことがありますわね」

「ああ。俺は、ゆあの兄の竜牙だ。この前公園で襲ってきた時に一緒にいた一人だ」


 彼女には、俺はほとんど見えていなかったと思うけど。


「そうでしたの。それで、わたくしに何かご用事が?」

「特にってわけじゃないんだけど。何をしてたのかなって」

「なるほど。まあ、隠すようなことではありませんので、お教え致しますわ。大したことではありません。この辺りの地理を把握していましたの」

「地理を?」


 まさか、その理由って。


「ええ。今度は、どうやってエステルさんを襲おうとか考えておりましたの。そのためには、地理を把握しておかなければ作戦の立てようがありませんから」


 ちゃんと計画的なんだな。てっきりその場その場で考えて、行動しているのかと思ったが。


「それより、あなた方」

「俺達?」

「ええ。エステルさんがいらっしゃらないようですが? ご一緒ではありませんの?」


 やっぱりそういうことか。だが、彼女でも今日エステルが何をしているかは知らないようだな。嘘をついている様子もないし。


「エステルは、なにか大事な用事があるとかで、先に帰ったんだよ。君は、何か知らないのか?」

「大事な用事? ……ふむ。わかりましたわ、情報の提供ありがとうございます」


 そこまで大した情報じゃなかったと思うけど。まあ、彼女も悪い子じゃないから、これぐらいの情報はいいよな? エステル。


「ねえ、リンゼちゃん」

「ちゃんではなく、さん! もしくは、ダークロードをお呼びなさい!! それで、なんですの?」

「せっかくだから、お友達にならない?」

「お、お友達!? 冗談じゃありませんわ! わたくしにお友達など不要! 失礼しますわ! これからエステルさんを倒す作戦を考えなくてはなりませんので」


 いそいそと去って行くリンゼを見て、ゆあは首を傾げる。

 

「怒らせちゃったかな?」

「いや、普通に嬉しかったんじゃないか? じゃなければ、あんな反応はしないって」


 時間はかかるだろうが、いつかはなれるはずだ。

 それまでは、彼女の悪役っぷりを見ているのも良いだろう。

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