第十三話 謎の黒きお嬢様
「いやー、この前の日曜日は楽しかったねー」
「確かに楽しかったけど、色々と疲れた……」
休日も明けて、いつものように学校へと通っていた俺達。
アッカート家での出来事を思い返すと、休めたが、疲れた感じもある。
「申し訳ありません。途中から熱くなってしまい、おもてなしができず……」
「気にするなって。エステルの気持ちは伝わってるよ」
それはもうバッチリと。しかし、そんな気持ちに俺は応えられていない。やはり、昔のことが原因なんだろうな……。
「ありがとうございます、竜牙さん。ところで、今日はジョンさんやミリアさんは、どうしたんですか?」
「二人は今日、大事な用事があるとかで」
「大事な用事?」
これだ、と俺は一枚の紙をエステルに渡す。
「……特売日?」
そう。二人の大事な用事とはスーパーの特売品を買いにいくことだ。あれだけ大きな家に住んでるが、かなりの庶民派。
普通に安売りの店とかに行ったりしている。
今回の狙いは、牛バラ肉だ。
「お母さんも今頃頑張ってるだろうなぁ」
「俺達も助太刀するって言ったんだけど、ここはあたしの戦場よ! ってさ」
昔から母さんの戦場は、スーパー。
特売品がある日は特に戦いの激しさが増す。確実に俺とゆあは、母さん似だよな。
父さんはバリバリのインドア男だし。
「スーパーの特売品ですか……そういえば、聞いたことがあります。普段は大人しい者達を、凶暴化される代物だと」
まあ、間違っては、ないか?
しかし、どこからそんな誤報を聞いたのか。
「僕も参加してみたいです! スーパーの特売日!」
戦場を求める戦士のように目を輝かせるエステル。
けど、もう遅いんだ。
「今から行っても間に合わないぞ。まあ、次の特売日を狙うべきだな」
「はい! アッカート家の総力を挙げて調べ尽くします!!」
な、なにもそこまでしなくても。
「ホーホッホッホッ! やはり、堕ちましたわね! 我がライバル!! エステル・アッカート!!」
「この声は……」
なんだ? やたらと甲高い声が……それにエステルのことをライバルって。
「お兄ちゃん。あそこ! ジャングルジムの上!」
「ジャングルジム?」
そういえば、丁度公園の前を通ってたな。
公園のほうに視線を向けると、本当にジャングルジムの上に誰が立っていた。
漆黒のストレートヘアーで、前髪はぱっつん。
赤いカチューシャからは、鬼のような角が二本生えており、全体的に黒いドレスを身に纏っている。
「誰だあの子?」
「わたくしの名は、リンゼ・ダークロード! そこに居るエステルさんの永遠のライバルですわ!!」
ダークロードって、凄い名前だな。
絶対本名じゃないだろ。
「それで、誰?」
「彼女の名前は田中リンゼ。僕の友達です」
「誰が田中ですか!? ダークロード! 良いですか? もう一度言います! ダークロードです!!」
へえ、田中リンゼか。
結構いい名前じゃないか。俺的には、ダークロードよりマシだと思うんだけど。
「というか、エステルさん! 先ほど友達と言いましたが、訂正してください! わたくしとあなたはライバル! そう! 今回もあなたに戦いを挑みに来たのですわ!!」
など言って指を鳴らす。
するとどこらかともなく、全身黒タイツの変態達が現れた。数にしてざっと、十五人か?
……なんだこいつら。
「懲りないですね、リンゼちゃんも」
「ちゃんはお止めなさい!! ふふん! 凝れませんとも!! わたくしは、あなたのライバルであり続ける限り、何度でも挑み続けますわ!! さあ、お行きなさい! お前達!!」
「クェー!」
まさか、エステル。お前は、こんな連中とよく戦ってるのか?
「仕方ありません。ゆあちゃん! 手伝って!!」
「おうさ! なんだかヒーローになった気分だよ!」
襲ってきた黒タイツの集団。それを、十二歳の美少女達が次々に蹴散らしていく様は、なんとも言えない光景だった。
普通に考えたら、黒タイツの集団が中一の美少女達を襲ってるやばい光景にしか見えないけど、二人だと全然違うな。
「な、なにをしてますの!? もっと真面目に戦いなさい!」
「ですがお嬢様。あの二人、無茶苦茶に強いんですが……」
「そんなの見ればわかりますわ! だからこそ、あれだけ特訓したのでしょう?! さあ、今日こそエステルさんを倒すのですわ!」
「く、クェー!!」
気合いを入れたリンゼだったが、結局二人には敵わず、一分も経たない内に、全員が撃退された。
いつもは子供達の元気な姿が映る公園だが、今は全身黒タイツの変態集団が倒れている妙な光景が視界に映っている。その中央に立っているのは、二人の格闘少女。
悪党の親玉であるお嬢様は、いまだにジャングルジムの上に立っており、唖然としている。
「どうするのかな? リンゼちゃん」
「だから! ちゃんおよしなさい!! くっ! 府抜けていると思いましたが、一段と強くなりましたわね。エステルさん」
「恋する乙女は、日々強くなるんだよ?」
そんな言葉聞いたリンゼは、ふん! とそっぽを向き、ジャングルジムからようやく降りる。
そして、倒れている黒タイツ達に立ち上がるように伝え、捨て台詞を残していった。
「次こそは、あなたをコテンパンに倒してあげますわ! 最後に笑うのはわたくしですわ! オーホッホッホッ!!」
「お嬢! 待ってくださーい!!」
結局なんだったんだろう、あの子は。
「えっと……聞いてもいいか?」
「はい。構いませんよ。いつかは話すことになっていましたでしょうから」
あんなことをされたのに、普通に見逃すなんて……いったい二人の間にどんな因果関係が?




