第十二話 お背中を
「久々にいい汗をかいたなぁ」
「だな。それに、人の家に遊びに来たのに、まさかこんな広々とした風呂に浸かれるなんてな」
トレーニングルームで、汗をかいた俺達はアッカート家の大浴場に浸かっていた。
まるで、外国にでも居るような感覚だ。
いや、実際に行ったことはないんだけど。テレビやネットとかで、見たことがあるってだけなんだ。
第一、日本から一歩も出たことがないからな、俺。
大理石のような壁に囲まれており、湯もなんか竜の口から流れてる。普通はライオンじゃないのか?
こういう大浴場に湯を流すのってライオンだと思っていたから、最初見た時は、衝撃的だった。
まあ、アッカート家の全てが衝撃的なんだけどな。
「なあ、聞いた話だとサウナもあるらしいぞ。行ってみないか?」
「いや、俺はもうちょっと浸かってるよ。後で行くから先に行っててくれ」
「了解。んじゃ待ってるぞ、竜牙」
この大浴場に、サウナまであるとは。
軽い温泉宿だな、ははは。
浴場だけで軽く三十人は入れるんじゃないか? こんな大浴場に、現在は俺一人か……。
「そういえば、三人はなにしてるんだろ」
俺達から先に入ってくれと言われたから、先に入ったんだけど。なんだか、嫌な予感がする。
何かが起こる前にジョンの居るサウナにでも行くか。
「お待たせしました、竜牙さん」
「は? ……え?」
丁度湯から出た時だった。
タオルを体に巻いたエステルが大浴場に入ってきたではないか。あれ? でもゆあとミリアがいない。まだ着替えているのか?
「まだ入ってるんだけど」
「存じていますよ。だから、お背中を流そうかと。どうやら、ジョンさんはサウナに向かったようですね。では、仕方ありません。竜牙さんだけに特別サービスとして、体の隅々まで」
「待て待て! そういうのはいい! というかすでに体は洗ってるから!!」
くっ! まさかこんな手をうってくるとは。こういうことだけは、やらないと思っていたんだが……やっぱり、この三年間でエステルは大人になったということか。
まだ十二歳だけど。
というか、よく考えれば中学一年とはいえ、まだ十二歳の子と風呂に入ってるってやばくないか? ミリアも相当だったが、エステルもエステルで、良い体つき……いやいや! なにを考えてるんだ俺は。
「と、とりあえず俺は、サウナに」
「あっ、サウナは現在使用不能です」
「なっ!?」
じゃあ、ジョンはいったいどこに。
はっ!? あ、あいつまさか、エステルとグルだったのか!?
そういえば、俺はジョンがどこに行ったのか言ってなかったのに、サウナに行ったって。エステル。そのさわやかな笑顔の下にはいったいどんな企みを隠しているんだ!
「ささ、遠慮なさらず、ここに座ってください」
どうあっても、背中を流すつもりなのか。バスチェアをぱんぱんっと叩いている。
悪意はない。エステルは、百パーセント善意でやっている。俺のために、いったいどんなことをすれば喜んでくれるのか、一生懸命考えたんだろう。
その善意を無下にしたくないけど……。
「……わかった」
まあ、背中を流すぐらいなら。
エステルの純粋な気持ちを受け取ろうと、俺はバスチェアに腰を下ろす。
「では、精一杯頑張らせて頂きますね」
タオルで泡を立てて、エステルは俺の背中を洗い始める。初めはゆっくり優しく、満遍なく洗ったところで、少し強めになってきた。
「どう、ですか? 痒いところはありませんっか?」
「いや、大丈夫だ」
こうして誰かに背中を洗ってもらうなんて、ゆあがまだ小学校二年ぐらいの時だったかな。
あの時は、全力で背中を擦られて、危うく背中の皮が剥げそうになったっけ。
「では、次は」
「ん? 次?」
「前のほうを」
は? え? 背中だけじゃ……若干恥ずかしそうに頬を染めながらも、エステルは俺の目の前に移動してくる。
「ま、待て待て!! 背中だけって約束だっただろ!?」
「いえ。せっかくですので、前も」
「前はいいって! 自分で洗えるから!!」
というか、見下ろす形になったから、胸の谷間が……中一にしては、やはり大きい。
「ちょーっと待ったっす!!!」
「ミリア!?」
妙な色気を出して、俺の肌に触れたところで、ミリアが大浴場へと登場する。
「やっぱり抜け駆けしてたっすね!!」
ぬ、抜け駆け? いったい二人で何を話していたんだ。
「抜け駆けではありません。それに、僕はちょっと失礼しますと言いましたよ?」
「そういう意味に聞こえなかったっすよ! とととというか! 兄貴になにをしようとしてるんすか?!」
「なにって、体を洗ってあげようと」
いや、背中を流すだけって話だったんだけど。
「あ、兄貴の体はうちが洗うっす!」
「いえいえ。ここは僕が」
「うち!!」
「僕です」
おっと、なんだか睨み合いに。
「こうなったら、勝負っす!! この前は引き分けで終わったっすけど、今度こそ決着をつけるっすよ!!」
勝負の申し込みを出しながら、何かを投げつけるミリア。
エステルの手に収まったそれは……水鉄砲だった。
「望むところです。ミリア先輩……お覚悟を!!」
ノリノリなエステルは、即座に水というエネルギーをチャージ。ミリアも、水風呂からタンクへ注ぎ込み、銃口を向ける。
「上等っすよ!!」
かくして、金髪美少女と銀髪美少女の戦い第二幕が始まったのであった。
というか、タオル一枚だからそんなに激しく動いたら。
「お兄ちゃん!」
「お、おう。どうした妹よ」
二人が激しい戦いを繰り広げている中、ゆあがなぜかスクール水着を着て現れた。
「二人が勝負をしてるから、私が体を洗ってあげるよ!」
「いや、だからもう体は」
「させない!」
「させないっす!!」
「おっと!」
激しい戦いを繰り広げていたはずの二人が、同時にゆあを狙って水を噴射。
余裕で回避したゆあは、風呂桶に下になぜかあった水鉄砲を手に取る。
「こうなったら、私も参加しちゃうよ!」
「上等!」
「楽しくなってきたね!!」
……今のうちに上がるか。とりあえず、ジョンを問い詰めるとするか。どうせ、楽しそうに笑ってるんだろうな。




