第十話 アッカート家へ
「……なんだこれ」
「ほへー……」
約束の日曜日がきた。
二日前の金曜のことだった。エステルから俺達へ朝の九時に来て欲しいと言われて、教えられた道順に移動したところ……。
「街から離れたところにあるから、どんな家かと思ったが……ははは、こりゃあ俺達の家より大きいんじゃないか?」
「ぱねぇ……マジぱねぇっす。他に言葉が出てこないっす……」
俺の家から、バスに乗って十五分。そこから、しばらく歩いて十分。
周囲には、ほとんど建物がなく、本当に家があるのかと疑い始めた時だった。
見つけた。
一瞬、どこかの学校か? と思ってしまうほど、敷地が広く、住宅は巨大。ここは、本当に日本なのかという衝撃が俺達を襲ったのだ。
「お待ちしておりました。皆さん」
俺達が唖然していると、一人のメイドさんが門を開けて現れる。
だが、そのメイドさんに俺達は見覚えがあった。
当然だ。
なにせ、そのメイドさんはエステルなのだから。髪型もツインテールにしており、ロングスカートのメイド服に身を纏い、スカートを摘んで、頭を下げる。
「すみません。本来なら、こちらから迎えを送るはずでしたが、皆さんに驚いてほしくて」
「いや、うん。すごく驚いてる」
家が大きいなんて、ジョン達の家で慣れているつもりだったが、ここは別格だ。
まさか、俺達が住んでいる街の近くにこんなにも大きな家があったなんて。
なんで今まで気づかなかったんだ?
まあ、こっち方面には全然来ないから仕方ないと言えば、仕方ないけど。
「ところで、なんでメイド?」
「皆さんをもてなすためです」
「さ、さいですか」
「なんてメイド力……!」
ミリアよ。なんだ、メイド力って。しかし、良いところのお嬢様だと、最初に出会った時に思っていたけど、本当にお嬢様だったとは。
こんなことが現実にあるんだな。
ジョンのところは、ただ単純に他の稼いでいるだけで、大金持ちってわけじゃないからな。メイドとか家政婦とかもいないし。
けど、ここは違うんだろうな……。
「さあ、どうぞ。お入りください」
笑顔で、俺達を中へと導く。
若干入りにくい様子で、俺達は踏み込む。
家まで、しばらく徒歩で移動。
ジョンの家は、結構すぐだったが、エステルの家は玄関まで、二分? いや三分? とりあえず歩いた。
「ようこそ、アッカート家へ」
玄関の扉が開くと、視界に広がったのは、なんか漫画で見たことがあるような光景。
玄関先だけで、俺の家全体ほどはある、んじゃないか?
さ、さすがにそれはないか。
しかし、そう錯覚するほどに広かった。上を見れば、よく金持ちの家とかにありそうなシャンデリアというものがぶら下がっていた。
階段も横に広く、長い。
そして、中には本物のメイドさん達が数人並んで待っていた。
「いらっしゃいませ。竜牙様、ゆあ様。ジョン様、ミリア様」
「は、はい。お邪魔します」
「メイドさんがいっぱい! お兄ちゃん、ここってメイド喫茶かな?!」
たぶん違うと思うぞ、妹よ。
・・・・・
アッカート家についてからは、衝撃を受けるばかり。
エステルやメイドさん達に導かれ、俺達はエステルの自室へとやってきた。
スマホで見ていたから、広いとは思っていたけど。
実際に訪れて見渡すと、本当に広いとわかる。ガラス張りの大きな窓からは、自然豊かな素晴らしい景色が見え、ベランダもあり、優雅に紅茶でも嗜めそうだ。
四人分の布団を敷いてもまだ有り余るほどだ。部屋には、ピアノやギターなどの楽器。大型のベッド、エステルが毎日勉強しているであろう机も置いてある。
そして、その机には……。
「おいおい。妬けるなぁ、竜牙さんよ」
「な、なんだよ」
俺が【威那頭魔】だった頃の写真が飾ってあった。いや、今の俺の写真まで飾ってある。
それを見たジョンは、肘で俺の横っ腹を突きながら、絡んでくる。
「昔のお前と今のお前を毎日見ながら、お前をどうやって振り向かせよう! とか考えてるんだろうな。どうなんだよ? 毎日あれだけ熱いアタックを受けて。気持ちは変わらないのか?」
「さ、さあな」
「今は、俺達だけだろ? 教えろって」
「知るか!!」
そう。今、エステルの部屋には俺とジョンしかいない。ゆあ、ミリア、エステルの三人は、部屋に到着するなり、メイドさん達と一緒にどこかへと行ってしまったんだ。
なにやら、ミリアは気合いを入れていたようだけど……。
「けどさ、エステルちゃんって本当に健気だよな。だって、車に乗っても街まで結構かかるんだぜ? それを毎日のように迎えに来てくれるんだろ?」
急に真面目モードになったジョンは、窓から景色を眺めながら語り出す。
それは俺も思っていた。
エステルは毎日のように俺達のところへ来てくれている。家が近いのかと思っていたが、実際自宅に来ると、エステルがどれだけすごいのかがわかる。
「竜牙さん。ジョンさん。お待たせしました」
そんな時だった。どこかへと行っていたエステルの声がドアの奥から聞こえてきた。
「いや、全然。それより、どこに行って……お?」
「おぉ、なるほど。そういうことだったのか」
部屋に入ってきたのは、三人のメイドさん。
エステルに加えて、ゆあ、ミリアまでもがメイド服を身に纏っていた。しかも、エステルと違ったメイド服だ。
ゆあは、腰に大きなリボンをつけているような可愛いを重点的にしたデザイン。
まるで、不思議の国からやってきたかのような。
メイド服というよりも、そういう洋服にしか見えない。
そしてミリアだが……これまたすごい。
三人の中では、一番露出度が高いというか、エロい。
ミリアはまだ十三歳だが、体はそれ以上。張りのある胸を寄せ、谷間を見せ付けるようなデザイン。肩も出し、スカートもかなり短い。
しかも、兎耳をつけている。ミリア自身もかなり恥ずかしそうにしているが、呪文のように我慢我慢と呟きながら、俺の前に立つ。
「ご、ご主人様。お、お待たせしました、ぴょん!」
「ぴょ、ぴょん?」
兎をイメージした語尾と、ポーズ。
兄であるジョンは、ぷふっと顔を逸らし、吹いていた。ど、どうすればいいんだこの状況。なんだかミリアも、俺の反応を待っているようだし。
……やるしかない。ミリアがここまで体を張っているんだ。俺も男として、褒めるべきだろ!
「すごく可愛い兎のメイドさんだな。よしよし」
俺もかなり動揺していたんだろう。普通に褒めれば良いだけなのに、頭まで撫でてしまった。ハッと我に返った時は、もう遅い。
ゆあとエステルが、羨ましそうに見詰めている中、ミリアは顔を真っ赤にし。
「感無量っす……」
満足げな表情で、気絶した。




