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プロローグ

 昔、俺こと冴野(さえの)竜牙(りゅうが)は、不良チーム【威那頭魔いなずま】の頭だった。

 中学一年生ながらも、人間離れした強さを誇り、無駄な喧嘩をせず、悪党だと思った奴らをぶっ飛ばしてきた。

 歳が離れている高校生の不良にだって一歩も引かず一人で何十人もぶっ飛ばした。

 チームの奴らもいい奴らばっかりで、年下な俺を頭だと認め、どこまでもついてきてくれた。


 だが、俺はある事件をきっかけに不良の頭を降りた。

 妹が俺達の喧嘩に巻き込まれ大怪我を負ってしまったのだ。妹のゆあは不良である俺を正義の味方だと思ってくれていた。

 そんな俺を応援するために、わざわざ危険なところまで後を追ってきて……。


 幸い命には別状はなく、安静にしていれば後遺症もなく、また外を自由に動き回れるようになると医者は言っていた。

 そして、俺は誓ったんだ。

 もう二度と喧嘩はしない。妹を危ない目には遭わせないと。それからというもの俺は妹にずっと付き添うようになった。


 この度に、今日は正義の味方の活動はしないの? と。

 俺は、正義の味方じゃない。

 大事な家族を守れず、危険な目に遭わせてしまったんだ。


 が、家族のために、妹のためにとやった行動だったが……逆効果だったらしい。

 ずっと妹は俺が正義の味方で、どんな悪い奴でも倒す。そんな兄だったからこそ、責任を感じて……。


「ほわちゃあっ!!」

「お、おぉ……」


 なんだかとんでもなく強くなってしまいました。俺が正義の味方をやらないなら、自分がなる! 兄が正義の味方を辞めたのは自分のせいだ! と。

 俺はそんなことを気にしなくていいと何度も言ったのだが、ゆあは体を鍛え続けた。

 しかも、独自の格闘術まで編み出してしまい、もう止まらない。

 現在、俺は高校一年生で、妹は中学一年生なんだが、もはや同年代の男子にだって喧嘩では負けなし。その身体能力から、運動部には入ってくれと勧誘が引っ切り無し。

 

 俺もそうだったが、俺の場合は不良チームの頭を張っていたので、かなり近寄りがたく、勧誘などは来なかった。不良チームと言っても、普段は地域活動なんかをやっていたなんちゃって不良だったんだけどね……。


「見てみて!! 丸太に穴空いたよ!!」

「す、すごいじゃないか! ゆあ!! よしよし!!」

「えへへへ」


 ゆあは、俺に頼ってほしくて、俺に褒めてほしくて、いつも何かを成功すれば俺に報告してくる。

 まだ幼さが残っているが、体も順調に女らしく成長してきて、薄い白シャツにスパッツといういつものトレーニング着は、体のラインを強調するため、周りの男どもが欲情しないか兄として心配だ。

 ゆあは俺から見て、美少女だ。

 綺麗に切りそろえられた髪の毛は、肩にかかるかかからないかぐらいの長さで、よく鍛え上げられた健康的な体つきに、丁度よく日焼けした肌。

 なにより、子犬のように俺に近寄ってくる姿と眩しい笑顔はもう反則的だ。別に俺はシスコンだと言われても構わない。それが兄と言うものだ。


「ふう。いい汗かいたぁ! お兄ちゃん、今から一緒にお風呂はいろ!!」


 子供過ぎるというのも考えものだ。

 中学生になった今でも、ゆあは俺と普通に風呂に入ろうとしてくる。体も十分に成長してきているため、俺も拒否しているのだが、全然止めない。

 父さんや母さんも、兄妹仲がいいなら大丈夫! と、俺達なら絶対間違いを犯さないとかなり信用しており、止めようとしない。


「悪いな、ゆあ。俺はこれから勉強しなくちゃならないんだ。それにあんまり汗を掻いてないしな。だから、今日はお前一人で入りなさい」

「えー!? ……しゅん」


 あぁ、ゆあよ。そんな悲しそうな顔をしないでくれ……! これは、兄として当然の選択なんだ。俺だって、可愛い妹の頼みを断りたくはない。

 しかし、風呂はだめだ。

 もう俺達はそういうことを平気でできるような歳じゃない。少しは大人にならなくちゃならないんだ。

 

 そう大人にならなくちゃならない。

 だからこそ、この後起こった衝撃的なイベントに、俺はどう受け止めるべきかとかなり悩んだ。

 それは、四月の中頃。

 普段のように帰宅部である俺は、真っ直ぐ自宅に帰ってきた。


「お? お客さんか」


 ゆあの靴と一緒に見慣れない靴が並んでいた。どうやら男物の靴のようだが……まさか、と俺に衝撃が走る。

 ゆっくりとリビングへと近づいていく、そっとドア越しから様子を窺う。


「……ま、マジか」


 視界に映ったのは、楽しそうに笑うゆあと、それを静かに聞いている……男の子だった。

 しかも、銀髪の美少年!?

 なんだあの整った顔立ちは。一瞬、女子だと間違ってしまうところだった。念のため、服装を確認したが男物の服に、ズボンを穿いており、髪の毛はちょっと長いが、邪魔にならないように一本にまとめて、右肩に垂らしている。


 なんなんだ本当に、あの少年は。

 まるで二次元から飛び出してきたかのような。同じ男なのに住んでいる世界が違う住人かのように……男の俺でもちょっときゅんっときてしまうほどに美少年!


「……ふっ」


 俺は悟った。

 あの子はおそらくゆあの彼氏。そうじゃなければ、男一人を自宅に連れてくるか? 尚且つあの眩しい笑顔。相手のほうが何かを言うと、頬を赤く染めて恥ずかしがるゆあ。

 ……もはや何も言うまい。

 ちょっと悲しいけど、ゆあは一歩大人の女性への階段を上った。兄として、妹の幸せは祝福せなばなるまい。


「しかも、相手はあんな美少年。お似合いのカップルじゃないか」


 あれだけの美形ならば、学校でもラブレターが多く、告白だって何度もされているはずだ。ゆあだって、中学生になってからもう告白されたと報告している。断ったそうだけど。

 

「さて、勉強するか」


 妹の幸せを祝福しつつ、俺はメガネをかける。

 別に目が悪いわけではなく、集中力が高まるからかけているだけの伊達メガネだ。俺は、不良チームの頭を辞めてから、全力で勉強をした。

 普段からしてなかったわけではないのだが、これでは高校に入れないぐらいだったので、毎日のようにゆあの見舞いに通っている時も欠かさずに、机に向かっていた。

 それが習慣となり、宿題などが出れば家に帰ってすぐやってしまうほどにまでなってしまっている。


「この数式は確か」


 数学の宿題が半分ぐらい終わった頃。

 階段を誰かが上がってくる音が聞こえた。しかも、足音はひとつ。まさかゆあか?


 こんこん。


 ゆあの部屋へと行くと思っていたが、俺の部屋のドアをノックする。

 ゆあではない。ゆあだった場合、ノックをせずに「お兄ちゃん!」とドアを突然開ける。となると残るは母さんのみだが、母さんは確か夕飯の買い物に行っているはず。

 父さんは現在、出張で県外。

 じゃあ、今ドア前に居るのは。


「あの、すみません。少しいいですか?」


 透き通った綺麗な声だ。

 ドア越しでも、それがわかるほどに。


「ああ、どうぞ。鍵は開いてるから入ってきていいぞ」

「失礼します」

 

 入ってきたのは、やはりあの銀髪の美少年だった。それにしても、正面から見ると本当に見惚れるほどの顔つきだ。

 これで、剣とか構えたら完全に銀髪の貴公子とか言っても違和感がない。

 俺は、一度ペンを置き、メガネも外す。


「何か用か? あっ、俺は」


 自己紹介がまだだったので、名乗ろうとしたが。


「知っています」

「え? あぁ……ゆあから聞いたのか」


 俺のことを知っているというので、すぐゆあが教えたのだろうと思った。しかし、銀髪の美少年は首を横に振る。


「いいえ。ゆあちゃんと知り合う前から、僕はあなたのことを知っています」

「どういう、ことだ?」


 俺にはさっぽりだった。俺は、昔この美少年に会っているってことか? けど、こんな美少年と出会っていれば嫌でも忘れないはずだが……銀髪、か。

 そういえば、昔俺の告白してきたあの子も銀髪だったな。


 まだ不良チームで頭を張っていた頃、ゆあと同じぐらいの銀髪の少女に告白された。当然当時ゆあと同じぐらいと言えば、小学校五年生。

 つまり十歳だ。どうやら外人だったため若干大人びていた感じだったが、告白する姿は完全に年頃の恋する女の子。そんな彼女の勇気ある告白を俺は……断った。

 当時の俺は、恋愛など不要だと考えており、且つ相手は小学生。こんな俺と付き合うよりも、もっと他のいい男が現れるさと。


(……なんとなく似てるよな、この美少年と。同じ銀髪だからそう感じるんだろうけど)

「やっぱり、わからないんですね」

「す、すまん」


 記憶力はいいほうだと思っていたんだが、この美少年については覚えがない。そのことを素直に謝ると、美少年は首を横に振り、嬉しそうに笑みを浮かべる。


「いえ。謝らないでください。むしろ嬉しいです」

「え?」

「僕の名前は、エステル・アッカート。昔、あなたに告白して……玉砕した女の子です」


 ……なんだって?

 まるで時間が停止したかのようだった。目の前で、一瞬にして女の子っぽい可愛らしい笑顔を向けるエステル・アッカート。

 彼は、いや彼女は俺が昔ふったあの銀髪の女の子だったようだ。

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