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第八話 人から始まった竜がもっとも恐れるモノ

 

 朝食を食べ、昼食も食べた事でちょっとおセンチな気味になってた気持ちを持ち直した私は、現在自室でぼーっとしております。

 ……する事がないんです。


 貴族令嬢ならそこそこやることあるだろ? と思うじゃん? でもね、今はないの。

 それは何故か。

 起死回生を成してまだ、そんなに日にちが経っていない為、お稽古などは暫くお休みなのだ。

 よって、私はすることもないので、椅子に座ってぼーっと窓から見える風景を眺めている。


 ああ――平和だ。

 あの慌ただしかった竜生活が嘘のようだ。


 ――……そうだ。どうせ、する事もなく暇わけだし、それに今、私の周りには誰もいない。

 ティティ達は日がな一日私に侍っているわけではない。各々、私のお世話以外にお仕事がある。

 それでも、一人は誰かしらいるのだが、今回は誰もいない。

 我が家の使用人の人数は他の貴族に比べると少ない、とセバスが言っていた。

 後お母様の、というかフリード家の教育方針は『最低限の事は己でやれ』との事で、誰も傍にいない時が間々ある。

 なので、一人で家の中をウロウロしてても咎められない。

 誰かと出くわしても、行き先を聞かれる程度。


「――よし!」


 と声に出し、私はさっき思いついた事を実行するために席を立ち、ある場所に向かう事にした。



 ◇


 テクテクと私は現在これぞ庭園、とまざまざと思い知らされる屋外を歩いている。


「ハー……スゲェ……」


 おっと思わず心の声が漏れてしまった。

 周りに誰もいないから別にいいんだけど。


 でもホントすごい。家の中も大概だが、外は外でヤバい。

 これで、一個人の家なのだから……貴族てか公爵家って凄すぎだわ。


 と改めて自分が生まれた家の凄さに感動しながら、緑のアーチを抜けると微妙に音程のズレた鼻歌が聞こえくる。発生源を探すと、機嫌よさそうに大きな剪定ばさみを動かす男性の後ろ姿を見つけた。


 ハサミから聞こえる音はリズミカルなのに何故か、鼻歌のリズムがズレてる。

 布を巻いた頭から金髪と顎髭がよく似合うワイルドな男性。

 私の中でセバスに続いて思わずキュンと来る男性第二位で、名前はランディスト。通称ラディ。

 ん? お父様は何位かて? それは……――ね?


 と私の個人的な順位を確認しつつ、彼――ラディに挨拶しようと一歩踏み出すと彼はピタッと手を止めこちらを振り向く。


 うーん、きっと彼の間合いはこれぐらいの距離なのね。槍の届く範囲ってやつ? ならラディの使う武器は槍なのかしら? 


 などと竜的思考でつい闘争面の考察をしていると、ラディは一瞬私から目線を外し、直ぐに戻してから挨拶をしてきた。


「おお! カメリアちゃん、ごきげんよう。こんなとこで何してんだ? 元気になったからって、早速おさぼりか?」


 とニヒルに笑うワイルドダンディ。

 その笑顔にいい! すごくいいわ!! と興奮しつつも令嬢ロールを貫き、


「ごきげんよう、ラディ。それと今日はね。お稽古事はお休みなのよ? だから、おさぼりじゃなくてお散歩よ?」


 とラディに負けじと令嬢そして、無邪気な六歳児幼女スマイルで返事を返す。


「ははっ! それならいいんだが? あとで性悪……じゃなくてティティストセレスに怒られても、おじさん庇ってあげられないぞ?」

「まぁ! ……ラディ? これはティティから聞いた事なんだけどね。エルフの耳はとってもいいんですって。特に自分の悪口はどこにいても聞こえるって言ってたわ。だから思っても口にしないほうがいいわよ? ティティが怒っちゃうと私でも庇ってあげられないわ」


 幼女のいたずらっ子スマイルでそう返すと、ラディはあちゃー、と言いながら頭をかく。


「やべぇな。あいつの辞書には手加減とかそんな可愛らしいもん無いからな……カメリアちゃん? あとでいいモノあげるから、この事はカメリアちゃんの宝箱にしまっておいてくれないか?」

「ええ、いいわよ! でもその代わりね。今から私が鍛錬場で燥いじゃう事をラディの宝箱にしまってもらいたいの? いいかしら?」

「燥いじゃうのか? そりゃ鍵かけて誰にも開けられないようにしないとな!」

「でしょ? だから、お願いね。私もティティについての事は、ちゃんと鍵をかけとくわね」


 私とラディは、お互いに悪ガキのようにっと笑い合う。

 するとラディが手袋を外して私の頭を撫でてきた。

 そして、その顔は先ほどとは違う、優しい笑顔になる。


「……ホント、テレジアのちいせぇ頃にそっくりだな。みんなカメリアちゃんの事をジーク似だって言うがガキの頃から付き合いのある俺らからすると、あの頃に戻った気になるぐらいそっくりだ!」


 セバスとは違って荒っぽいけど、これはこれで……気持ちいいわ。

 というか、ティティも似たようなこと言ってたわね

 なんて思い返しながら、若干うっとりしかけた所でラディが手を慌てて引っ込める。


「すまねっ! つい汚れた手で撫でちまった!」


 ラディは申し訳なさそうに、それにちょっと寂しそうな顔で頭をかいていた。

 その顔見ていたら、朝食前の事を思い出して私はちょっと怖くなった。


 ――家族にこんな顔をされたくない。

 怯えた顔も、悲しい顔も、寂しそうな顔も見たくない。

 竜に恐れるモノなどありはしない。

 実際竜になってから怖いと思ったことなどない。

 ひやってしたりとか、命の危険を感じた事はあるけど、べつにそれが怖いと思った事は一度もない。


 でも、これはダメだ……とっても怖い。


 だから、ラディに私はその恐怖を吹き飛ばす様に笑顔で言ってやった。


「気にしなくてもいいのよ? それに……。例え、汚れていようともこんな素敵なお庭を作ってしまう手を、私は汚いとか、汚れてるなんて絶対に思わないわ! だから……はい!」


 私はラディに頭を差し出し――


「気が済むまで思いっきり撫でていいわよ?」


 と上目遣いでそう告げた。








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