第七話 今更だけど、自己の再認識って大事よね
メイドさん一同が件の魔道具の危険性より私のお目目に危険性を感じた先の一件について追及したところ、皆鋼の意志で黙秘を貫かれた。
解せぬ……私の顔の方が怖いだなんて。
確かに、ちょっとお目目はキリリと……ごめんなさい。キリリとか可愛いモノではないですね。
がっつり鋭いですね。そりゃ怖がるわな! はっはっはっ――……やっぱり解せぬ。
前世同様に、目で相手を殺せる鋭さを宿した我が眼に慄き且つ、自虐的になりつつも無事にお着換え完了した私は現在朝食を喰らう為に移動中である。
流石貴族! 流石公爵家! 広い! 広すぎるわ!
ちょっとした移動だけで、わざわざ外でウォーキングに励まなくてもいいぐらいだ。
しかもだ。床とか壁とか些細な所まで行き届いた雅さ。前世は庶民男児から転移してワイルドなドラゴンガール生活をしていた身としては落ち着かない。
だって、少しでも力入れたらぶっ壊れうじゃん? てか粉々になるわ。
いくら、六年間の令嬢記憶や体感があろうとも、これは慣れない自信がある。
そんな事を思っていた所為か、ふと思う。
前世のように竜の姿に戻れるのかと。
竜としての力は確実にある。が、今は奥の方にしまっている。
多分、それを引っ張り出せば竜の姿に戻れると思う……けど。
僅かに奥から漏れてる力だけで軽く人間を辞めてるぐらいなのだ。怖くてできないよね!
でも戻れるなら戻りたい――と思ってしまう。
私は人だと思う。
でも前世と交じり合った結果、どうしても自分は竜だ、という気持ちのほうが強い。
『人である前に竜である。故に竜である事そして、その誇りを軽んじる事はできない』
今の私の根底にあるもの、そして根源はこれだ。
そう再認識すると同時にある言葉を思い出した。
『竜は竜の輪廻がある』
それが呼び水になったのか、私の中で霞みがかった記憶が幾つか鮮明になる。
特に、前世でどうやって竜になったのか、とかその辺がはっきりと思い出した。
簡単に説明するなら、転移してすぐ死んで、それから竜として蘇った。
詳しく説明するなら、まだ『俺』だった頃に遊んでいたゲームからログアウトしたら、自分の部屋じゃなく、見た事もない場所にいた。そして、目に映るモノ、鼻で感じる匂い、耳で聞く音、肌に感じる感覚。
それら全てが理解できず、知覚できうる全てを流し込まれて……ここで記憶が途切れている。
多分だけど、ここで死んじゃったのでは? と思う。
いやね? 次に意識がはっきりした時に『彼女』が「人の魂でありながらここまでくるとはな」とかいってたからね。
で、あれこれと彼女と喋っていたら彼女がこう提案してきた。
「竜以外の輪廻に戻すことはできぬが、竜の輪廻にそなたを加える事はできる。どうする?」
と。
私は物心ついた時からドラゴンに物凄く憧れていた。孤高で気高く何もかも圧倒する強者として。
親がいなくとも寂しくも羨ましくも思わなくて済む存在。
なぜそんなものに憧れていたかと言うと、私は孤児院で生活していたからだ。
両親はいたんだろうけども全くなにも、知らない。そもそも、端からいないとすら思っていた。
同じ境遇、似た境遇の子が周りには沢山いて友達になれたけど、いずれはみんなバラバラになって一人で生きていかなくてはならない。と物心ついた時には何となく、そう思っていた私にとって、当時絵本で読んで知ったドラゴンという存在はとても輝いて見えた。私もこんな強い存在になりたいと。だから憧れた。
そんな幼少期を経て、社会人になって一人でも生きていける様になってもその思いは色褪せなかった。
そして、私はあるゲームと出会い、そのゲーム内で子供の頃から憧れたドラゴンとして生活し、大いに楽しんでいた。
そんな私の目の前に、ゲームではなく本物、現実のドラゴンになれる機会が目の前に転がってきたのだ。
私は、この提案に二つ返事で飛びつこうとしたところで、彼女はその提案こう付け加えた。
「だが、一度竜になってしまえば未来永劫。なんど朽ちようが竜としてあり続ける。それは人のように前世などと、区切りなどされぬ。ずっと其方は其方のまま不変であり続ける。これはな。最初から竜であれば問題ない。が……人の魂は脆弱だ。その心はもっと脆弱だ。力に溺れ、孤独に殺される。故に人として始まった其方はこれに耐える自信はあるか? 狂いたくとも狂えぬ。終わらせたくとも終わらぬ事に――其方は耐えられるか?」
それを聞かされ悩んで、考えて、覚悟を決め、私は人を辞める事にした。
で、今だ。
なんのいたずらか知らないが、もう一度人を始めたわけだけど。
この事をはっきりと思い出した今、私は人だ、という当初の考えは綺麗になくなった。
人じゃなくて――竜だ。
それに、カメリアとして転生したのにも関わらず、竜の姿になれる、ではなく戻ると思っている時点で答えは出てるよね。
と、自信の再認識に夢中になってた所為でどうやら私は立ち止まっていたようだ。
ティティを始めとしたメイドさん一同がこちらを見ていた。
「――様! お嬢様っ!」
付け加えるなら何度もティティに呼ばれていたようで、私は慌てながらも心配させないように落ち着いて返事をする。
「大丈夫よ、ティティ。ちょっとぼーっとしちゃって……みんなも心配しなくても大丈夫よ」
「まだ、お加減がよろしくないのでは?」
「ううん。本当に大丈夫よ。ただ……いろいろ思い出してね。それでぼーっとしてただけよ?」
みんなの顔が安堵に変わるの見て、ほんと愛されてのね、としみじみ思う。
でも、私が竜だってここにいる全員が知った時、その顔に浮かび上がるのはきっと恐怖なんだろうな。
そう思うと心が痛む。
だって初めて家族だって思える人達なんだもん。
いくら竜とはいえ、大事な存在にそんな顔されたら悲しいじゃん。
こういうところが、『彼女』の言っていた『人の脆弱さ』なのかな。と思いながら案内された部屋に足を踏み入れた。