第三話 6歳児のから始める現状把握と今後の行動方針のすす――以下略。
あれから俺こと私、新生カメリアちゃんが奇跡の生還を果たして10回目の朝を迎えようとしていた。
柔らかな寝具の上で全身を使っての惰眠から、可愛い我が声を聞いて目を覚ます。
「――ンゴッ。おぅ、鼻から声が……これは驚き!」
とテンション高めに起き上がる。
なんというか、物凄く寝起きがいいのだ。こうすっとぱっち! で具合に目が覚める。
これは俺のキャラ設定の所為だと思われる。
「んっ――くぅー。こうボキボキって骨のなる感じ。いいねぇ……でもさすが6歳児。あんまりならないな」
とくっと背を伸ばし、独り言をこぼし、もぞもぞ移動しながらバカでかいベッドの端に向かう。
キングサイズはあるわ、と思うぐらいデカいので小さな我が身ではベッドから離脱するのも一苦労である。
そうこうしながら、これまた柔かな絨毯を素足で踏みしめ、これ窓なの? て疑問に思うぐらいでかい窓のカーテンを思いっきり左右へと開く。6歳児の体なので結果は想像できるだろう。
それでも開けた場所から光が差し込み、くっと目を細めてしまう。
やや時間をおいて、光に目が慣れてきたとこでゆっくりと目を開け、白を基調した、かなりオシャンティーなバルコニーに出る。素足をペタペタ鳴らして手すりに近づき――。
「いやぁ、何回見ても、ゴルフ場だよなってぐらいひっろい庭だこと」
やや、呆れ気味に関心していると部屋に誰かが入ってくる気配を感じる。
まぁ敵ではないんで警戒はしないが、一応その方向に体は向けとく。
ややあって俺が全力で僅かに開けたカーテンが全て開けられ、エプロンドレス姿の女性たちが見えた。
その内の一人が俺の下までくると、姿勢を正して見本のようなお辞儀をする。
「おはようございます。お嬢様」
「おはよう。ティティ」
とお上品に返答するのは勿論、俺だ。
ティティってのは目の前のべら別嬪少女然とした、金髪碧眼のメイドさんの事である。
本名、ティティストセレスさん。御年467歳です。
ん? 見た目と年齢おかしくない? そりゃ彼女、エルフだもん。
長寿種、または妖精種と呼ばれる種族ですからね。この世界でもエルフと呼ばれてます。
さて、人が来たことだし一人称を私にして猫かぶりますか。
俺俺思ってるとぽろっと人前で言っちゃいそうじゃん?
なんて切り替えてると――。
「お嬢様。私どもがくるまではベッドからお離れになるのは控えていただけませんか?」
と困ったわやれやれ、と言った感じの微妙なる笑みで私はお小言貰ってしまう。
「それはごめんなさい、と素直に謝るのだけどね。見て、この天気と景色! こんなモノが近くになるって知ってしまったらベッドで上でじっとしてられないわ!」
と満面の笑みで言い訳する私。
それを聞いたティティはというと。
ティティは口に手を当て、もう片方の手でスカートを握りして涙声交じりに――
「――ッ! やはり記憶の部分的消失でこんな些細な事ですら……お忘れになっているのですね」
。
あ、ヤベ。ちょっと過剰にやり過ぎた……。
と慌てるが、それを表に出さないようにティティに語り掛ける。
「そんな顔をしないで。私を想っての事だと分かっていても、ティティのそんな顔を見てる方が悲しくなってしまうわ……それにねティティ。私は今がとっても楽しいのよ?」
「――楽しい、のですか?」
「ええ! だって目にするモノ全てが目新しいのよ? 毎日が新鮮だわ! それに家族やこの家にいるみんなの事を忘れたわけじゃないもの。私はそれだけで十分よ」
と、なんとか軌道修正して記憶に関しては気にしてないよ、と強調したのだが……。
私の声が届いたティティ以外の三人のメイドさんたちの有様は次の通りである。
まず、ティティと同じく手を口に当て自分のスカートを握りしめるメイドさん。
次、眼鏡を外し、目頭を押さえて顔を上げ、何かが零れるのを必死に耐えてるメイドさん。
最後に、顔を両手で覆いその場にへたり込み、わんわん泣き声を上げるメイドさん。
以上、完全な葬儀状態である。
どうやらカメリアちゃんは、メイドも含めこの家にいる使用人全員から愛されてた――いや愛されてるようで、あれから回復してから十日ほど経過したが、油断して令嬢ロールプレイングに興じると度々こうなる。
高熱により部分的な記憶障害がある、て設定にした私の所為でもあるが……こう、罪悪感半端ないよね!
まぁ、それも一時の事で、直ぐに立ち直ったプロメイドの彼女たちに風呂場へと連行される。
私は今から全自動洗濯機ようにメイドたちのされるがままとなるので、その間に私の設定と現状を確認をしようと思う。