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第十八話 竜が喰らって糧にしたもの。そして、得たもの。下

 

 号泣するリンティを宥めつつ、鍛錬場を包んでいた竜殻を消すとすぐにティティがやってきた。

 リンティは姉であるティティの姿を目にすると、パッと泣き止み彼女の方を向いて手を振る。


「やっと来た! 可愛い妹が大ピンチだったというのに!」

「黙りなさいっ!」


 頬を膨らませて怒る妹に姉は目尻を吊り上げ一喝。

 そして、妹は顔を引きつらせて震え出す。


 ……ティティも怒った時って人のこと言えないぐらい目つきが悪いわよね。と二人のやり取りを眺める。


「状況説明!!」

「はいっ!!」


 リンティは背筋を伸ばして返事をした後、ティティと額を合わせる。

 すると、二人から不思議な魔力の流れを感じた。


 何してんのかしら? 魔力共有みたいだけど……ちょっと違うわね。


 なんて、二人が何をしているのか考察している内に、そう時間をかけずに二人は離れた。

 目を瞑りじっと考え込むような様子のティティ。

 そわそわとするリンティ。


「――なるほど。貴女の懸念通り、だったわけですね」

「え? 信じてくれてたんじゃないの!?」

「いえ、全く。お嬢様と一緒に寝たいが為の口実だとおもってましたから」

「ひどっ! 流石にそんな……事で……いやあたしならありえるか?」


 この二人って本当に姉妹なのかしら? リンティ見てると不安になってくるんだけど。

 それより、懸念ってなによ?


 それを聞こうと思い、口を開こうとしたところでティティに話しかけられる。


「お嬢様」


 真っ直ぐ私を見つめて『お嬢様』と呼ぶティティ。


「――私が誰だかわかるの?」


 とまた震えそうになる声を抑えて――


「……この場には私達しかいませんし。まぁ今日は特別です」


 そう言ってティティは僅かに笑みを零して再度、私を見みつめる。

 でもそこには笑顔はなく、見つめると言うより射貫くような視線だった。


「リンティの記憶を覗きましたので、何がどうなったかは理解できてます」

「そう……じゃ」

「――カメリアっ!!」


 私はティティの言葉に顔を伏せそうになったが、彼女の鋭い声に思わず顔を上げ背筋を伸ばしてしまう。

 彼女は目の前まで来て……私の頭を抱き寄せる。

 柔らかな感触。いつも淹れてくれる紅茶の香り。リンティに似てるけど違う、優しい彼女の匂い。


「言いたい事は妹が言ってしまってるので多くは言いません。ですが、これだけはハッキリ言葉にしましょう。私も貴女の家族です。妹が母というのなら、私も貴女の母親です。それだけでは妹と同じなので……貴女も私の妹にします。もちろんカナリアも、です。あなた達がどう思おうが、私の愛する妹であり娘です」

「という事は。あたしの妹でもあるわけですねっ!」


 と後ろからリンティの声が聞こえ、背中に熱が伝わってくる。


 あぁ――もうっ! 私の完封負けじゃない! 何度泣かせば気が済むのよっ! この姉妹は!

 と号泣しかけた私だったが――


「ちょぉぉぉぉっっとぉ!!まぁぁった!!?」


 と空気をビリビリ揺らす様な大絶叫が響き何事かと驚いて涙が引っ込む。

 それからその発生源の方に顔向けると、一瞬白い物とふわふわとした波打つ金色が見えたがあっという間に私の視界は白く塗りつぶされると同時に、頭と胴体を締め付けられる感触。


 それから、広がるティティとリンティ以外の優しい匂い。

 流石にこれは誰だかわかるわ。あとこの締め付け感はなじみがあり過ぎるし。


「ティティにリンティ! この子は私がお腹を痛めて、命をかけて産んだ子よ!? 真の母親は私よっ!!」

「えーでも、おっぱいあげたのはあたしですよ?」

「テレジアには黙ってましたが、私も飲ませましたので」

「なんですって!?」

「いえ、悪いとは思いましたが。妹がカメリアに乳を飲ませる姿を見ていたら……段々と胸が。それでもしや、と思ったら出たので」

「出たからって! そんな……」

「いいじゃないですかぁ。テレジアはお腹の中でカメリアちゃんを育んだんですから。それに恨むなら、辛うじて膨らんだかな? てぐらいにしかならなかった哀れなソレを恨んでください」

「リリリリ、リ、リッンティイイっ!!」


 とりあえず、この三人の母親による訳の分からない張り合いを止めましょうか……。

 特に黒い母親が小さい金色の母親を煽ったせいで私の頭と胴体が危ないわ。


「お母様。その辺で」


 と声をかけてから、腰に手を回し、激おこ寸前のお母様の小さなお尻に腕を添えて、トントンと背中を叩くと頭の拘束が解かれる。


「この格好は……普通なら逆なのでは?」

「仕方ないでしょ? カメリアちゃんすんごく大きくなっているんですもの」


 と言った後に視線が下がるお母様


「すんごく……大きく……なって」


 お母様の大きな目から輝きが、消えかけのロウソクのように、段々と……。


 そして、追い打ちかけるように、


「「似なくてよかってですね」」


 と声を揃えて言い放つ妖精姉妹を見て、思った。



 あ――こいつら本当に姉妹だ、と。





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