表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/25

第十六話 竜が喰らって糧にしたもの。そして、得たもの。上

 

 さてさて、なんというかとっても晴れやかな気持ちです。

 まさに、『腑に落ちた』って気分ね。

 と感じながら目を開けると、


「あの、大丈夫ですか? お嬢様」


 不審者――いいえ。

 名を知らない()()が不安げな表情で私の顔を覗き込んでいた。

 彼女の事は確かに知らない。

 顔も声もティティにそっくりだけど彼女はティティじゃない。

 魔法で姿を偽ってるとかでもない。


 なんで、気付かなかったのかしら?

 まぁいいわ。でもね。


 汗ばんで髪を頬に張り付けた彼女の顔手を伸ばして触れてみる。


 ――――やっぱり。


「ねぇ……あなたのお名前は?」

「え? あ、っと。リンティストセレネです」

「そう。愛称とかあるのかしら?」

「あーはい。リンティって呼ばれてます……」

「なら、私もあなたの事リンティって呼んでもいいかしら?」

「え、ええ。それはもちろん。願ったり叶ったりですが……どうされたのですか?」


 不安げな表情を更に色濃くした彼女――リンティの顔を見ながら、私は最後の仕上げに取り掛かる。


 先ずは……服ね。このままだと破れちゃうし。


「え? え? お嬢様? 何故にお召し物を?」

「ん? だってこの服お気に入りだし……破れたら嫌じゃない?」


 脱いだ服を彼女に渡す。

 それから、靴も靴下も脱いで最後にパンツも脱いで、私は青空の下、すっぽんぽんに。


 なにかしら……この圧倒的開放感は!

 これはなんというか――癖になる類だわ!!


 と新たな扉に手をかけた私をリンティの声が待ったをかける。


「ちょ! お嬢様っ!? 何故全裸にっ!?」


 さっきまでぼーっと私の脱衣ショー見ていたリンティが再起動する。

 あわあわ慌てながら、なぜか右手に私の脱ぎたてパンツを握りしめて。


「えっ……とね。リンティ。貴女の趣味をとやかく言うつもりはないのだけどね……。できれば私の目が届かない場所で……やってね?」


 顔を赤らめてパンツを握りしめる彼女に一応、釘を刺しとくが、


「え!? 見えない場所でならいいんですかっ!?」


 と詰め寄る彼女にドン引きです……。



 ◇◇


 いそいそと私の着ていたものを、嬉しそうに自分の影に仕舞うリンティを見つつ私は溜息を零す。

 あれは精霊魔法だそうで、影にいろいろ収納できるんだとか。便利ねー。


「パンツは……まぁ諦めるとして。他はあとで返してよ」

「――え?」


 目を見開き、まさにこの世の終わりだと言わんばかりの顔になるリンティ。


 おい。パンツやるつってんだから他は返せよ。


「え? じゃないわよ! そのワンピース気に入ってるんだからねっ」

「では、靴下と靴は貰ってもいいんですね! あとパンツも!」


 ……私もその、元は『男』から始まったわけでそういった気持ちもわからなくは、ないが!

 いざ、自分がその迸る熱いパルスを向けられる側になると…………くるものがあるわね。


「好きになさい……」


 言質頂きましたぁぁ、とビブラートを利かせながら叫ぶ彼女は文字通りに小躍りして喜ぶ。

 私はその姿に精神的疲労を感じ、今からする事をさっさと終わらせよう、と気持ちを切り替える。




 一応はさっきの彼女――カメリアと邂逅果たし、彼女の全てを喰ったんだけど……実はまだ一つ残ってる。


 私は彼女の想いと勇気と誇り、そしてそれらを内包する気高く強い優しい魂を喰った。

 ならば、彼女が彼女であると知らしめるこの体も喰らう。

 せっかく彼女が用意してくれた『殻』だ。

 この体を証としよう。

 幼くも愛するものを守るために竜を打倒した勇者がいたという証。


 私は目を瞑り、体をゆっくり包むように力を侵食させる。


 今度は『俺』が殻となろう。君から得たモノを血肉と変え俺は君のような最強へと至ろう。

 そして、君が守ったモノを見守ろう。

 君が愛し愛された者たちが輪廻に還るその時まで。


 まぁせいぜい百年ぐらい。怒られんだろう。


 これから『俺』は『私』としてこの世界を楽しむよ。

 君であり俺であり――私だ。


 今度こそ、一切合切何もかも、余すことなく彼女を()()()()()()()私はゆっくりと目を開ける。


 私の喉を暖かく、熱く感じる彼女が通り、ストンと胸の奥へと沈んでいく。


 トクントクンと重なる鼓動を聞きながら――


「おやすみ――カメリア。あと貴女が起きるまでの少しの間、この名前を借りるわ」


 と私は自分の胸に手を当てそう告げた。



 ◇◇◇


「ふぅー……久々ねこの感覚」


 と私は頭に二つ、額に一つ、背中に五つ感じる感覚を懐かしむ。

 頭の感覚は角、額は竜玉。

 背中は勿論! 翼と尻尾。

 私の翼は二対、計四翼ある。

 で、今の私の姿は『擬人化』した姿。第二形態ってやつね。


 幼女の頃より高くなった目線。

 それを自分の体に向けて見下ろせば、


「よかったっていうのはお母様に失礼かしら?」


 とたわわな双丘を見てそう零す。

 ついでに下から救い上げる様にして揺らしてみる。


「おお――竜だけにDってやつ? 一応この体はお母様の遺伝情報を内包してるから不安だったけど杞憂だったみたいね」


 さすが竜。お母様の呪い『ちっぱい』を跳ねのけたようだ。


「あとは前、幼女の頃との違いは……模様みたいに生えれる鱗かしらね。下乳から脇腹に、それから足の付け根の外側……あと腕にも。タトゥーみたいな感じでかっこいいわ」


 と擬人化した体の確認をする。


「声も変わってるわね。大人の女性って感じかしら? ちょっとハスキー?」


 それから、尻尾とか翼を動かすが違和感など一切感じられなかった。



 それから、顔立ちはどうなってるのか確認したくてリンティに鏡を持ってないか聞こうと彼女の方を見たのだけど……見なきゃよかったわ。


 こうちょっとシリアス目で、カメリヤちゃんの勇気だとか強さだとかを得て、これから私の物語は始まるんだ! みたいな新しい門出に胸膨らませるいい感じだったのが一瞬で壊された。


「ああ……尊い。あの幼気で無垢で白い蕾のようだったお姿が今はその残り香も残さす完成された女性へと花を咲かせていますしかもですただの女性ではありません咲き誇り醸し出す噎せ返る様な美の香り! 綺麗な花には棘があると言いますがあの目が瞳が眼差しがまさにその棘なのでしょうか美しい故に恐ろしい恐ろしいが故に美しいのかああ、私は自分の語彙力恨みますただ美しいとしか言えない私が憎らしい……。ああ、ですが私は息をするのもままならなくなりただただ香り高い艶やかさは軽くいいえおもっきり絶頂してしまいます! その香り! その艶姿! 見て感じる度に脳が体が腰が股が――」


 これ以上は危険と判断してシャットアウトです。

 彼女に詰め寄っていろいろと垂れ流している口に指をあてる。


「リンティ。お黙り」

「――はい…………お姉さま」

「……お姉さんはティティじゃないの?」

「あ、はい。ティティ姉さんはあたしのお姉さんです。ですが今この瞬間からお嬢様はあたしのお姉さまですっ!」


 目をトロンさせさっきよりも更に顔を赤くしてそうのたまう。


「……鏡持ってる?」


 無視だスルーだこの類は気にしたらキリが無いわ。


「え? あ、はい持ってますよ」


 そう言って一瞬で我に返ったリンティは胸の谷間に手を突っ込んで手鏡を取り出す。

 ああ、谷間の影から取り出すのね。


 彼女から受け取った鏡を覗くと、そこにはカメリアちゃんが成長して色気ムンムンの女性になった顔立ちがこちらを覗いていた。

 まぁ私なんですがね。髪は銀髪なんだけど、光が当たると赤く瞬くわ……綺麗ねこれ。


 髪をいじりながら額の真ん中、縦にやや伸びた楕円形の竜玉に触れる。

 ルビーのような鮮やかな赤い竜玉。

 カメリアちゃんが成長したらこうなるだろうという顔立ち。


 ――よかった。

 

 とちょっとしんみりして暖かい気持ちが広がった……んだけど。


「……美しい。そして、尊――い」


 横目でその声の発生源を見れば……やっぱ見なきゃよかった。

 涙をこぼして神に祈る様に手を組むのはいいのだけど……


「――リンティ。私の姿を見てそう言ってくれるのは嬉しいわ。でもね……。両手でっ。私のっ。パンツをっ。握りしめ、且つ! 口元に押さえつけながら言わないで! それはハンカチじゃないのよ!?」


 と怒鳴ればさっと恍惚とした表情と涙を引っ込め、舌をチロっと出しながらなぜか照れ臭そうにして私のパンツを胸の谷間にしまい込んだ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ