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第十五話 短気は損気。そして、怪我の功名。下

 

「それじゃ頑張ってこのエナジーボールをよけてねっ! 掠っただけでも大惨事だし、運悪く当たって死ねなかったら、この世に生まれてきた事を後悔するかもよ! その辺留意しといてねっ!」


 と告げた後に、頭上のエナジーボールを不審者に向けて発射する。

 これの狙いは不審者に死の恐怖を体感させ、自発的に情報提供してもらう事。


 て考えたんだけど……やっぱり趣味じゃないわねぇ。こういうの。


 など、思いつつポンポン放つ私。

 地面に着弾するたびに響く爆音で何言ってるかまでは聞き取れないけど、叫びながら避け続ける不審者の姿を眺めながら、


「回避性能が高いわねぇ。ほぼ、瞬間移動してるみたいに避けるわ……でもあと五分ね。素直に喋ってくれると楽なんだけど……問題は聞き出した後よねぇ」


 とつらつらその後について考える。そこでふと、そもそも、情報を聞き出してどうしたいの? と疑問が浮かぶ。

 なにを今更って思うけど……。


 最初はなめた事する連中を根絶やしにしようと思っていたけど、よくよく考えたら私がそこまでする必要性ってあるのかしら? 

 そういう事は鉄壁と殲滅のハウスキーパーである、セバスとかティティとかこの家に使える人のお仕事よね?

 と順に浮かんだ思いを並べる。


 確かに、家族の危険性を未然に防ぐのは大事な事だと思う。


 だけど、私がそれをしていいの?

 それはこの家に仕える彼ら彼女らやるべき事なんじゃないの?

 それは、この家――お母様、お父様、カナリア、そして私に仕える者たちの秩序であり誇り、使命なんじゃないの?


 それを私なんかが横取りしてもいいものなの? 

 竜なんて反則じみた存在が、横っ面をぶん殴るみたいに『あなた達の為』とか自分勝手な感情でそういったモノを蔑ろにしていいの?


 段々と自分の立ち位置そして、自分が何であるかを、よく思い出せばある事に気付いた。


 家族を守りたい。

 家族を愛したい。


 確かにこれは私の想いであり願いだわ。

 でも、私は彼ら彼女らの世界に触れちゃだめだ。


 人と同じように守れない。

 人と同じように愛せない。


 だって私は――竜だから。


 今まで家族を守りたいだの思ってたけど、結局のところ私が守りたいのは家族じゃなくて。



 ――人であり続ける事。


 浅ましくも、竜でありながら人として生きて、


 ――人と同じように守られたい。

 ――人と同じように愛されたい。


 なんて、もうあの時、捨てた事を、カメリアって少女を免罪符して、ここれぞとばかりに得ようとしてた。


 竜のくせに、だ。

 そんな事できっこないのに……。

 それらを代償に、竜を選んだくせに。


 それに気付いた瞬間、私から先ほどまで感じてた怒りだとか憤りなんかがスッと消えていく。

 なんだろう、ユラユラ揺れてる天秤がガクンと傾いた感じ? 

 で、その天秤に掛けられてたモノは、『人として』と『竜として』だ。

 それから、なぜ私がカメリアなのか思い知らさせる。


 ……あの時私は混ざった、じゃなくて喰ったんだ。


 ――彼女(カメリア)を。


 最初にいた世界は平和な世界だった。

 戦争とかあったけど概ね平和だった。

 夜安心して眠れる優しい世界だった。


 その次の世界は厳しい世界だった。

 いくら竜になれたからと言っても生まれたてだ。

 いろんな奴に喰われそうになった。

 夜なんかおちおち寝てられなかった。

 弱肉強食が絶対ルールの世界だった。


 この世界はどうだろう。

 多分だけど、魔法とか魔物とかいるから前と同じで弱肉強食なんだ、と思う。

 だから、強者である俺は、弱者である彼女を喰ったんだと思う。



 だけど、弱者である彼女は強者である私に、ただ喰われるだけじゃなく一矢報いて見せた。


 彼女は言っていた。

 流石異世界の記憶ね、と。

 それはつまり私のイデアに触れたって事。


 私に喰われて、私の一部となって、それから消えるはずだった彼女は私のイデア(急所)に自分のイデア()を突き立て想いをありったけ流し込んで。


 それから、彼女は自分の体を依り代()にして、私をカメリアとしてこの世に誕生させた。


 なんでかって、それは家族を悲しませない為だ。

 家族の笑顔守る為、幼女は勇者になって、竜を打倒したのだ。

 弱者だの、最弱だの言われてる人が、ましてや六歳の幼女が、だ。


 必死に探したんだろうな、どうにかできないかって。

 必死に足搔いたんだろうな、死ねないって。


 何が弱者だ。何が最弱だ。これのどこが……


 カメリアのどこがっ!? そうだと! 言うんだっ!


 すげぇな、齢六歳の幼女……頑張り過ぎだろ。

 すげぇな、家族を想う力って。


 それに比べて私は――弱者の中でも最も弱っちい竜だ。




『やっと目が覚めたのね!』


 あの時と同じように俺の中で幼女の声が聞こえてきた。

 なので私はゆっくりと目を閉じた。


 感じる世界が反転し、青空と赤い花咲き乱れる世界に変わる。

 そして、私――俺は懐かしの黒紅燐の竜に戻って二対の翼を広げる。


「……よう。久しぶり。小さくて可愛い竜殺しの勇者ちゃん。元気だったか? にしてもすげぇな」

「ええ! 元気だったわ。あと、そんなに凄い事じゃないわよ?」


 と白いワンピース姿の幼女は俺を見上げて顔いっぱいに笑顔を咲かせる。

 銀色の髪を靡かせ、金に見える黄色い瞳を細めて笑う愛らしい幼女勇者だ。


「いや、すごいよ。俺にはできそうもない。で直球ど真ん中で聞くんだけどさ……どうやったの?」

「それはね。すっーーーーごく綺麗で、真っ赤な竜さんが教えてくれたの! あそこにお前のわがままを叶えるの丁度いい、寝坊助で嫁みたいな旦那がいるからそれ使えって」

「あー……嫁みたいな旦那扱いかー」


 と言いつつ彼女――カメリアの横に頭をおく。

 カメリアはおっかなびっくり俺の顔に触れて楽しそうに笑う。


「あら、鱗取れれちゃった!」

「ちょうど生え変わってたんだろよ。それ、自慢できんぞ? 俺の鱗を剥いでやった、てな」

「それだと私があなたから無理やり剥いだみたいじゃない!」


 と俺の鱗を手にして頬膨らませる。


「やるよ。勇者の証ってやつだ」と言えばコロッと表情を変える。

 それから、鱗を掲げる様にして、


「とっても綺麗な赤色ね。ほかの鱗と全然違うわ」


 と嬉しそうに微笑んだ。


 それから、再び邂逅果たした俺たちは雑談に花を咲かした。




「――いっぱいお話したわ! それこそ一生分ね!」

「……もういいのか。」

「ええ。私のわがままを叶えてくれてありがとっ!」

「なんならそのわがまま――」

「いいえ。それはダメ。私はわがままだから……きっとまた甘えちゃう」


 と遮られた。やっぱり強いね。だから彼女は強者で最強の勇者なんだ。


「さ! お口を開けてくれる?」


 俺は彼女の言われるがままに口を大きく開く。

 彼女は何の躊躇いもなく俺の口に入る。


 彼女の姿が見えなくなる。

 ややあって、舌の上に彼女がいるのが伝わってくる。


 そして、


「さぁ! 私を食べてっ!」


 と恐れを微塵も感じさせないむしろ、楽しそうな声を聞いた俺は、




 躊躇わず、口を、閉じた。




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