第十二話 あなたは――だぁれ?
荒れに荒れた鍛錬場をテキパキと元に戻していく私。
別に時間を巻き戻している訳じゃないので、元の状態に近い形に、が正解だけども。
ほんと、魔法って便利ねぇ。
◇
そう、時間も掛からずに修復完了した鍛錬場を見渡し、その出来栄えに納得する。
「いい仕事したわ、私!」
と褒めてくれる相手がいないので自分で褒めておく。まぁ……いない事もないんだけど、褒めてくれないだろうしねぇ。と背後に意識を集中させる、もっと詳しく言うなら出入り口にできた影に、ね。
ん? どういう事かって?
それはさっきのダークとじゃれ合ってる時、厳密に言えば最後の方ね。
あの時強めに力を引き出した所為なのかわからないけど、ちょっと感覚が鋭くなったのよね。
で、ここに来た最初に隠蔽と探知の魔法を全体に展開して今もそれは継続中。
その探知魔法に僅かだけど引っかかる存在がいるのだ。影の中にね。
今の状態の私ならわかる事だけど、確認作業開始前の私では流石に影の中までは知覚は出来なかった。
だがしかし! 常に成長を続けている新生カメリアちゃんはさっきのカメリアとは違うのだよ! まさにメタモルフォーゼ!
現状では、影の中にだろうが、なんだろうが、私のキリリっとして愛くるしい天使のような眼を誤魔化す事なんて人類には不可能よ!!
などと、調子に乗りながら件の影の中に拘束魔法を放つ。
――ふむ、手ごたえありね。
魔法から対象を拘束した感覚が伝わってきたので、そのままズルっと勢いよく影から捕まえたそれを引っ張り上げる。
「さてさて、影の中という特等席でお楽しみだったお客様? 如何でしたか? わたくし主演の演目は?」
私は背を向けたまま、そう語り掛けながらゆっくりと振り向き、拘束した相手を眼中に納めてから口をやや吊り上げニッコリ笑いかけた。
◇◇
さて、早速捕獲した不審者の風貌は、黒いピチッチリとした服でわりと露出度が高い。
見える素肌はカメリアダークのような褐色で、不審者の方がちょっと浅黒い印象を受ける。
着ている服のお陰で性別は女性だとすぐわかった。
だって、リング状の拘束魔法で縛ってるお陰で妙にエロいんですもの……見えてる肌もツヤツヤだし。
でも、残念ながら顔は目元しかわからないように服と同じ色の布で隠してある。
いつか見た、紫水晶を思い出す綺麗で大きな瞳。ちょっと切れ目なとこが可愛いわね、てこの目何処かで――? と目元に妙な既視感を感じていると。
「んーーーんーーー!」
と呻きながら足をバタつかせる褐色不審者ちゃん。ああ、喋れないように魔法で作った猿ぐつわを付けてます。なので余計にエロいわ。
「暴れるのはいいけど、宙に浮かせてるし、ガッツリとスリットの入ったスカートみたいもの穿いてるからパンツが……あら、けっこう攻撃力の高い下着ね。私のお子様パンツとえらい違いだわ。て、ティティも似たような下着付けてるのよね。あのこれぞ清楚って顔で、服の下にベヒモスみたいな下着纏ってるからびっくりよね……今度から妖精種はエロフって呼ぼうかしら?」
「んー!んっんんーー!!」
そう、話しかけると、さらに暴れてだす褐色不審者ちゃん。
ちょっと反応が可愛いね、と私の中に眠るサディスティック幼女がほくそ笑んだ。
さ! 遊んでないで、と気持ちを切り替え、不審者ちゃんの瞳をじっと見つめる。
「……殺意もなければ、敵意もないわね。どっちかと言えば友好? 懇願? 刺客とかじゃないのかしら? でも、そうならなんで影の中にいたのかしら、ねぇ?」
と目から感じる感情を読み取って考察すると不審者ちゃんが首を横にぶんぶん振る。
「ん? 刺客じゃないって言いたいの?」
と聞けば、「ん! ん!」と言いながら、今度は首を縦に振る。
「んー……刺客ってみんなそう言うじゃないの? セバスとかティティが言ってたわ。知らない人の言う事は信じちゃダメだって。あとお母様はね、怪しいと思ったらとりあえず――やっちゃいなさいって」
そう告げると不審者ちゃんは大きな瞳を更に大きくさせる。
「んっ!! っんんーー!!」
「んんーーってばっかりじゃ先に進まないわね……」
このままでは効率が悪いと思った私は、指を鳴らして不審者ちゃんの猿ぐつわを外す。
そして、相手が喋り出す前に――
「ここに来てからの一連を見てたでしょ? ならわかってるとは思うけど……私にあんたたちが使う魔法は無意味だという事を忘れないでね」
と僅かな殺気込めながら警告。
それから、ニッコリと笑顔を作って更に告げる。
「では、惨たらしく死にたくなかったら、私の質問にちゃんと答えくれるかしら? 別に噓をついてもいいけど、竜に嘯く愚かしさを知りたくないのなら――お勧めしないわ。それと、私って同胞から竜のくせに気が短いって言われたの。その辺もよく覚えとくといいわ……じゃ最初の質問ね」
ここで一旦区切って更に笑みを深め小首を傾げて彼女に質問する。
「――あなたはだぁぁれ?」
と。