第十一話 幼女乱舞
対峙する私と私。
なにやら、哲学っぽいけどただ単に自分の分身と向き合ってるだけ。
さて、確認作業の締めに、現状の私がどの程度戦闘をこなせるか、試す為に作り出した私の分身――カメリアちゃんダーク。
褐色肌ってなぜあんなにもエロいのかしら? と余計な事を思っている内に、相手が先に動き出した。
カメリアちゃんダークの立っていた場所が軽く爆ぜたと思えば、既に目の前にいるカメリアちゃ……面倒ねもうダークと呼称するわ。
それから左から感じた猛烈な殺気に合わせ、剣を添えると結構な衝撃が伝わってくる。
それを上手く流し、追撃に備える。
ダークにとって受け流されるのは想定内だったようで、その証拠に流れる様に剣を振るってくる。
そうだった……カメリアちゃんってば四歳くらいからお母様の主体で剣術の英才教育受けてるんだった。
しかもだ。その頃から私ってば物覚えも良くてお母様が狂気乱舞して教えくださったのよね……。
で、今のダークちゃんは余計な考えとかないく、その時得た技術を最大限利用して私を仕留める事しか考えてない状態だ。
ヤバいわ……ちゃんと設定すべきだったかしら?
などと考えつつ、ダークからの猛攻を凌ぐ。
剣を受ける度に生まれる衝撃波で、地面が抉れ、小石が舞う。
ゆっくりと舞い上がる土と小石の中を私たちも常識を逸脱した速度で、剣を片手に舞う。
一定の技量持った剣士の動きは舞に通じるものがあるって事をふと思い出す。
いわいる、剣舞と呼ばれるやつ。今まさに私たち二人はそれだと思う。
予定調和。ある種の決められた行動。こうすればこう返ってく。そんなやり取りの繰り返し。
まぁ確認作業なのでこうなるのは仕方ないわよね……て考えてた私が悪かったわ。
横なぎを放って後ろに飛ぶダーク。
私は追撃しようと、一歩踏み出そうとしたのだけど、ダークは着地と同時に上空に。
そして、ある程度まで上昇したダークはその場にピタリと止まる。
ちなみだが、私の今日のお召し物は姫袖のワンピースドレスっぽいのも。
故に私の分身であるダークも色は黒だが、同じ服装。
上空で翻るダークのスカート。
「ちょっ!! パンツが見え……え?」
スカートが翻れば、同然私の愛らしい下着がお目見えする。ましては上空いるのだ。下から見てる私からだと翻らなくても、見えるが……ダークの下着は見えなかった。
そもそも見える見えないの話ではなく――
「パンツ穿きなさいよっ!!! 丸出しじゃない!!」
なんてこと……さして考えもせずに作ってしまったから? いやでも、ノーパンは――と再び余計な事を考えていると、全身にこの場にいては危険だ、という稲妻のような直感が脳に伝わり、即座にその場から飛びのく。
と瞬きもする間のなく、私の立っていたその場所がズンと重い音を上げ、抉られたように切り裂かれる。
「……なにしたのっ!? あんた!?」
とダークに叫びながら聞くが勿論返答はない。
代わりに無造作に振り下ろされる剣。
同時に先程同じ感覚に襲われ、すぐさま横に飛ぶ。
ダークが振り下ろした剣の軌跡をなぞる様に切り裂かれた地面を見て私は理解する。
「あんた!! 剣で竜爪を――っ!」
ダークは最後まで私の言葉を聞かずに淡々と剣を振るう。
さっき剣の攻防から、遠距離からの一方的な蹂躙劇へと早変わり。
「だぁあぁっ! もうッ――! よけ――っるのが! 大変じゃないの!!」
魔力による斬撃ならそこまで避けるのに苦労しないのだが、竜爪は違う。
あれは別に斬撃を放ってるわけではない。振るった結果がその場に起きてる。
だから、時間差なしの遠距離攻撃。
「なんて質の悪い攻撃なのよ!」
と悪態付きながら躱す。
私はそれから散々叫びながら躱し続けた。何回躱したかなんて数えてないからわからないけど。
そして、テンポよく放たれてた竜爪が止まる。
そのテンポに慣れた所為なのか私の動きが僅かにずれてしまった。
それが決定打となり、なんとかしよう慌てるが遅かった。
私の手足に光で出来た輪っかに縛られる――これは拘束魔法ね。
その場に張り付けにされた私は、ダークがこちらに向けた手の先に浮かび上がるモノ見て、驚愕する。
縦や横に広がる幾つもの魔法陣。それは人が使う魔法とは違い、幾何学模様に見える精巧で緻密で、ある種の芸術のような魔法陣だ。
「うっそっ!! まさか竜砲ぶっ放す気なの!?」
そう、竜が最強であると言わしめるモノ、竜の息吹を収束させ放つ技。
竜砲――私はブレスと呼んでて、唯一竜が力を使う時に陣が浮かび上がる技だ。
それをダークはぶっ放すそうとしてる。
いやいやいや! 我が家どころか、王都が更地になるわ!!
分身魔法を解けば……いやいやダメよ。あそこまで完成した陣はもう消せないし、制御無くしたらどうなるかわかったもんじゃない。
と私が灰色であろう脳みそをフル回転させてる間にも、ダークの形成した竜砲の陣は変化していく。
展開された陣の中央からリング状の陣が伸び、砲身のようになる。
その砲身に収束される赤い光。
でもあれが放射砲じゃなくて単発砲でよかったわ。
単発ならいける! と活路を見出した私は更に思考を加速させる。
現状ダークの性能は常時の私だ。それ以上、それ以下には分身であるダークにはできない。
よって、あれは常時でも放てる竜砲。てか常時でも撃てる事が驚きなんだけど……まぁいいわ。
で、だ。ならこちらも撃てばいい、って話でもない。それだと相殺はできても無力化できない。
ぶつかり合って大惨事になるわ。
現状のクリア条件は相殺ではなく無力化。
今の状態の私では相殺が限界、ならばその上をいけばいい。
私は両腕の肘から先に竜燐を纏い、同時に力もやや強めに引っ張りだす。
準備の整った私は造作もなく拘束魔法を破壊する。
で、改めてダークを見れば、ブレスを打ち出したところだった。
迫る赤い光弾を見つめてニヤリと笑う。
「読み通りね、さて、ここからが正念場よ。なんせブレスを無力化なんかしたことないし、ぶっつけ本番もいいとこだわ。でもやるしかないのよ!」
と気合を入れ、迫る光弾に両手を向け、受け止める。
私の手に重い衝撃が伝わる。でもそれはすぐに消えると、光弾がギュッと勢いよく縮む。
私は縮んだ光弾を間髪を入れず、両手で掴んで、光弾に力を流し込み外と内から抑え込む。
反発し合う力の影響か、周囲に稲妻が迸り地面を抉る。それを横目に移しながら更に力む。
「っんぎぃっ! だ、だぁしゃぁぁっおぅらぁぁぁぁあっ!!!」
歯を食いしばって淑女らしからぬ声を上げて私は仕留めにかかった。
「だぁぁぁぁあ!! お! っんなはっ!! 気合いだぁぁぁあああ!!」
その瞬間、光弾が弾ける様にして消えてなくなり、私の両手がパンッと乾いた音上げながら合わさった。
「よしっ!! 無力化成功!!」
ダークの方に顔を向けると、ダークは先程放った竜砲で力を使い果たしたのか追撃をする事もなくその場で輪郭をぼやけさせながら消えていった。
それを見て、地面にへたり込みそうになるのを我慢する。
「なんとかなったわね……優雅なティータイムと洒落込みたいところだけど」
とドッと推し推せてくる精神的疲労感じつつも辺りを見渡して、私は燥いだ代償の後片付けを開始したのだった。