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第十話 私の戦闘力は53ま――以下略 下


魔法で作った壁から私の歩幅で十歩ほど距離を取る。

それから、右手をその壁に向けて無造作に振るう。

さして、音もなく壁に四本の線が斜めに入り、一拍遅れてズズズ、と擦れる音を上げながら崩れ落ちる。


「――ふむ。思いのほか綺麗に斬れたわね。予想では引っ掻きました、みたいになるかと思ってたんだけど……力加減が難しいわ」


とりあえず、もう一枚壁を作って今度は左手で先ほど同じようにやってみる。

すると今度は音を上げながら壁に四本の――削り、抉ったような見事な爪痕が刻まれた。


「今度は予想通り引っ掻いた感じになったわ。……やっぱ人の方が細かい力加減がしやすいわね」


竜の腕と人の腕では力加減に差が出る。これはカメリアとして生まれる前、と同じみたい。

竜って暴力が意思を持ったような存在だから、細かい事って難しいのよね。


「だから、あの頃は基本擬人化して過ごしたのよねー、懐かしいわぁ。……そう言えば力も抑えてたから擬人化してる時はよく絡まれてたわー」


と懐かしい日々を思い出しながら、壁を追加する。

そして、右の掌の上に炎を作り、それを丸く固める様に力を籠める。

すると燃え上がっていた炎が渦を描き、私の掌より少し大きいぐらいの火球となる。


「やっぱ! 初めて使う魔法と言えば、ファイアーボールよね!」


作った火球をさっき追加した壁に向かって放つ。

掌から打ち出す様に放たれた火球は、真っ直ぐと壁に吸い込まれるようにして着弾する。


その瞬間、火球は一気に倍以上に膨れ上がる。

その様を見て、


「――やっば!!」


と慌てて、魔力防壁を自分を中心してドーム状に展開する。

展開が終わると同時に、膨らんだ火球が限界を迎える様に弾けると周囲に向かって炎の波が広がる。

防壁の内側から轟々と燃えながら過ぎ去っていく炎の波を眺めながら、


「……危なかった。私の体が大丈夫でも服が灰になっちゃうのはまずいわ」


と零す。


暫くして、その波が収まる。

炎は鍛錬場から漏れる事はなかったが、地面のほとんどが真っ黒に。

一番ひどいのは火球を打ち込んだ壁があった場所だ。

赤々と煮えたぎる様にぐつぐつ音を立てる地面、焦げるどころか溶けてる。


……障壁はまだ消さないほうがいいみたいね。余熱で服が燃えるわ、これ。


でも、このままにしとく訳にもいかないので、氷結魔法で外気も含めて冷やそうと右手に力を籠めるが、すぐにやめる。


「いやいやいやいや。右でやったらまた惨事になるわ。火炎地獄の次は寒冷地獄は勘弁よ……危うく惨事を繰り返すとこだった」



なので右手ではなく、左手で徐々に冷ますようゆっくりと加減して氷結魔法を周囲に放つ。

その結果は思い通りとなり、周囲に被害を出さないように冷ます事ができた。

火球は完全に想定外だったが、結果としてはやはり、加減というか力の細かな操作は人の形の方がいいみたい。

これなら、力を引き出した状態でも制御がちゃんとできる。

つい、うっかり周囲を焼け野原とか更地にしなくて済みそうね。


「んじゃ。総仕上げと行きましょうかねぇ」


先ずは右腕を覆っている竜鱗を引っ込める。

左腕と差異がないか確認する。

左腕同様白くてツヤプニの柔肌だけど、爪の色が……


「両方とも黒に変化してるじゃん……。よく見たらこれ鱗と同じで黒に近い赤だわ――ま、いいわ。なんかかっこいいし」


桜色で可愛い爪だっけど仕方ないわよね。これ以上目立った変化がないだけマシって思っておこう。



私は早々に爪のことを受け入れ、最終確認の為の準備をする。

壁を作る時、地面に力を流したように今度は自分の影に流す。


足元に広がっていた私の影が前方に伸びて丸く広がる。

ある程度まで広がった所で、私は指をクイッ、と曲げる。

すると、影が湧水のようにうねり、立ち上がり始める。

私の身長と同じ高さまで上がると、次は人の形に変化し始め、それが終わると、影だったモノは私と瓜二つの姿に。


黒髪金眼で肌は小麦色のカメリアちゃん。

カメリアダークネ――いや、カメリアちゃんダークにしとこ。

ラッキースケベの餌食にはなりたくないのも……見る分にはいいけど。

さ、馬鹿な考えは置いといて。


何故そんなモノを作ったか。それはカメリアちゃんダークと戦うためだ。

カメリアちゃんダークは今の私と同等。


で、今の私は引っ張り上げたてきた力はもう奥にしまってある。常時の私だ。

この状態でどこまで戦えるのか知っておきたかった。

もしもの時にってやつね。この状態で手に余るようなら本気を出すつもりだけど、それは私が竜だってばれる時でもある。

だから、今までの確認作業は、なるべくそうならないように努める為の布石だ。


そう、もし私の大切な人たち――家族が命の危険に晒されたら、私は躊躇いなく今の私を捨てる。これは絶対だ。

例え、本当の私の姿を見て、化け物と言われ、恐れられようとも愛してる家族は全力で――守る!


大切な家族に牙を剥く存在は如何なるモノだろうが、一切合切纏めて消し炭してやるわ。

……竜である私が家族に返せるものなんて、それぐらいだもの。


それぐらいしかできない自分が、なんだか不甲斐なくて、悔しくてたまらない。

もっといっぱいいろんなものを、想いを返してあげたいのにっ!


そんな風に思っていると、ギリッという音が聞こえてきた――おおっと、力んで歯を食いしばったようね。

淑女としてあるまじき行為だわ……ティティに聞かれてたら確実に大目玉くらってたわ、危ない危ない。と頭を横に振りつつおどけてみる。


どうにも前に比べて、今の私は、感情の起伏が激しいわね……体が子供だから精神も、そっちに引っ張られてるのかしら? まぁいいわ。それよりも今は――と気持ちを切り替えカメリアちゃんダークと向き合う。


「じゃ、お相手願おうかしら。カメリアちゃんダーク」


と言ってから私は魔力を固めて剣を作り出す。

そして、右手に握った剣を一閃させ、先程力んで周囲に漏れた力を振り払う。




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