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第5話

「何故なのです!ロレッタ嬢。」


婚約の申し込みを断ったので、夜会でアドヴァンス様に詰め寄られた。大仰な素振りで嘆き悲しんでいる。


「わたくしは大人の嗜みには理解を示さない女性なのですわ。婚後もその調子でしょうと見極めがついたのでご辞退させていただきますわ。」


ほほほと笑った。浮気者はお呼びでないのよ。私は私だけを愛してくれる男性に嫁ぎたいです。


「このわたくしに求婚しておいて、他の女性とも関係を持つなどと舐めているのではなくて?わたくしはあなたの仰る『愛情』をしっかり認識しましてよ。(訳:浮気者は嫌いです。)」

「ロレッタ嬢は思った以上に夢見がちなのですね。」


アドヴァンス様は困った顔をした。聞き分けのない子供でも見るかのような態度に更にイラっとする。


「あら、乙女が結婚に夢を見てどこが悪いんですの?わたくしを手にするのに『一番』じゃ足りませんことよ?『唯一』でなくては。」


アドヴァンス様は私に熱心に言い寄る割に「今後はあなた以外との女性と結びません。」とは言わなかった。女遊びする気満々である。確かに私も純潔は失ってますけれど、それにしたって下半身にルーズな男って嫌ですわ。アドヴァンス様は肩を竦めて私の前から去って行った。

会場でシャンパンを飲んでいると、ジョセファン様が近づいてきた。


「やあ、ロレッタ嬢。今日も美しいね。」

「ご機嫌麗しゅう、殿下。」

「婚約は断られてしまったけど、あなたが心変わりしてくれないかとアプローチしに来ましたよ。」

「時間の浪費ですわ。(訳:心変わりの予定はありません。)」


シャンパンを味わう。上品な泡が舌を撫でる。アルコール分は薄めなので酔い癖が出るほどではないだろう。


「ロレッタ嬢。以前よりあなたを好いておりました。この胸に咲く赤い薔薇をその白い指先で摘み取ってくださいませんか?」

「最後まで飼う予定のない犬に餌をやるつもりはありませんわ。(訳:責任とれないから無理です。)」


ジョセファン様は悲しそうな顔をした。多分ジョセファン様は浮気はなさらないタイプの男性だ。それはすごく好ましいけれど、王太子でさえなければねー…その地位が私にとっては重すぎる。もしかしたらベアトリーチェ様にとっても重かったのかもしれない。そう思うとジョセファン様もお可哀想だとは思うけれど。


「殿下は、私のどこを好いていらっしゃるの?」

「素直じゃない優しさが愛おしいと思っていますよ。ユニークで可愛く、また、魅力的な方だ。」


うーむ…

しっかりと私のことを見てくれてるんだよなあ…つくづく惜しい方。


「僕がせめて第二王子であればあなたも僕の手を取ってくださったかもしれないのにね。」

「仮定の話は無意味極まりますわ。」

「せめて今夜は一緒に踊ってください。」

「仕方ありませんわね。(訳:喜んで。)」


ジョセファン様と共に踊った。ジョセファン様はお素敵な男性で、確かに第二王子として、他所に家を建てるなら一考の余地あったな…と思った。

一曲踊り終わってジョセファン様は去って行った。彼もいつまでも手に入らない女性に拘っていられる立場ではないのだ。

私も顔はいくらか美しいので、男性には言い寄られる。

何度も何度も違う男性と踊り明かした。


「ロレッタ嬢。お初にお目にかかります。ジークムント・エドウィンと申します。どうぞお見知りおきを。」


エドウィンというと伯爵家だな。頭の中の貴族名鑑をめくる。


「ロレッタ・シェルガムですわ。」


私は母の連れ子で、養子縁組もしていないのでディナトール家の御令嬢ではない。シェルガム伯爵家の血筋のものという扱いである。父の家は父の不正で改易してしまったので、シェルガム伯爵家は母の実家だ。父は不正がバレたとき母に見苦しい言い訳をして母に愛想をつかされたのだ。父が私を引き取っても継がせる家はないので母に引き取られた。父のその後はわからない。元から優しい父ではなかったので、さほど愛着がない。私が自分のお父様と認めているのはミカルドお父様だけ。

ジークムント様は素晴らしく美しかった。浅黒い肌に銀の御髪をなさっている。ぱっちりとした翠の瞳はエメラルドの様。目鼻立ちがくっきりとしていて生きた宝石のようにきらきらとしている。美しく、そして少し野性的な、魅力ある男性。見た目は満点に格好良い。


「良ければ一曲。」

「光栄に思いなさい。相手をして差し上げるわ。(訳:喜んで。)」


一緒に踊るとジークムント様はぴかりと光るようなダンス上手だった。こちらをその気にさせるのがお上手だ。楽しくてすっかり高揚してしまった。


「ダンスはいかがでしたか?お姫様。」


ジークムント様が微笑まれた。


「まあまあ楽しめましたわ。(訳:すっごく楽しかったです!)」

「なら良かったです。少しお喋りいたしませんか?」


テラスに出て二人でお喋りした。月に照らされたロマンチックなテラス。

ジークムント様は素敵な殿方な上、ロレッタ語の翻訳もお上手だ。すごく会話が弾む。


「ロレッタ嬢はアドヴァンス殿の求愛も、ジョセファン殿下も求愛も断ってしまわれたそうですね。誰か意中の方でも?」


私はぽやんと頭に浮かんだアルトの影を手早く片付けた。


「おりませんわ。」

「では、僕などいかがでしょう?」


うーん。

素敵な方だと思ったのは確かだけど…


「ちょっと顔の良い男性に言い寄られたからと言ってほいほい頷く安い女ではなくってよ。誠意をお見せなさい。(訳:ジークムント様は素敵な方ですが、少し考えさせてほしいです。そういうのはお互いをもっとよく知ってから…)」

「そうですね。」


まだお会いしたばかりの方だし即答は避けた。お互いをもっとよく知って、その上でジークムント様に恋い焦がれたら、その話はお受けしたいと思う。失礼ながら素行の調査などもさせていただきたいし。アドヴァンス様みたいなのは困るから。

ジークムント様は自宅で薔薇を育てるのを趣味とされているそうで、庭師に教わりながら四苦八苦しながら薔薇を育てているようだ。

私は絵画鑑賞などが趣味で、気に入った絵画をお父様にプレゼントしてもらっているという話をした。

とても話が弾んで楽しい。



***

アルトは機嫌が悪そうだ。帰りの馬車ではむっつりと黙っている。


「何を不機嫌にされてますの?一緒にいる私まで不機嫌がうつりそうですわ。(訳:何か嫌なことあったの?)」

「……姉上が易々と他の男性に尻尾を振るのが良くないのです。」


ジークムント様のことを仰ってるのかしら?


「何故、わたくしが尻尾を振りたい殿方を弟如きに決められなくてはならないのかしら?わたくし、あなたのものではなくってよ。(訳:おねーちゃんだって気になる人の一人くらいはできるのです。)」


アルトは悔しそうな顔をした。アルトは最近情緒不安定な気がする。おねーちゃん心配です。




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