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煙の中の真実

シェイラ様とご一緒のお茶会では、シェイラ様のアルトとの惚気話を聞かされ、夜会に行けば示し合わせたようにアルトとシェイラ様も同じ夜会に出席していらして、人目を憚らず、べたべた、イチャイチャ。

見たくないのに見せつけられる。

シェイラ様は相変わらず性格がよろしくなくて、アルトに可愛い仕草で甘える反面、アルトの見ていないところでは私を嘲笑している。絶対に性質の良くない女性だと思うけれど、それをアルトに進言したところでアルトは信じないだろう。

今日の夜会でもイチャイチャと。時々アルトも私を見ているのだが、その視線の意味はよくわからない。


「あら、ロレッタ様、ごきげんよう」

「ごきげんよう…」


4人グループの令嬢に囲まれた。私に進んで話しかけてくるなんて珍しいこともあるもんだ。私は基本的に年頃の令嬢にはあまり好かれていないからね。特にこの4人は比較的シェイラ様と親しいご令嬢たちだし。


「今日のロレッタ様のドレス、素敵ですわね」

「褒めても何も出ませんわ(訳:有難う)」


今日は初夏らしいちょっと涼し気な水色のドレスなのだ。するっとした質感で飾り気は少なめ。エンパイアラインだ。私は体型に凹凸のある方なのでウェストに括れのあるデザインの方が似合うのだが、たまには気分を変えて。髪も片側に束を寄せて緩く編みこんで下ろしてある。ちょっと清楚なイメージ。


「最近ロレッタ様は浮いた話はございまして?」

「皮肉かしら?(訳:私がアルトに片思いしてたと噂なさっていたのは皆さまではないですか)」


令嬢たちはアルカイックな感じのスマイルだ。


「いえいえ。ただ…なんて言うか、ロレッタ様の想いが実らなかったのがご不憫で」

「シェイラ様って最近ちょっと調子に乗っていらっしゃるし」

「随分ぶりっ子じゃありません事? 殿方はああいうあざといのが良いのかしら?」


何この子ら? シェイラ様の友達じゃなかったの? 急にシェイラ様の悪口など仰ったりして。確かに私はシェイラ様は性格が悪いと思うし、大嫌いだけど…


「まあ! あなた方がご友人のことをそのように思ってたなんて夢にも思いませんでしたわ。調子に乗ってるとお思いなら、ご本人に堂々と諫言して差し上げるのが友情ではなくて? それともわたくしに鞍替えして、一緒に陰口を叩きたいというお誘いかしら? 随分素敵な誘いもあったものね」


皮肉を言うと鼻白んだようだ。


「そ、そんなつもりじゃ…ただロレッタ様の立場にご同情して…」

「同情…? 情を同じる? あなた方にわたくしの何がわかるというのか是非ともお伺いしてみたいわね。とても興味がありますわ」


私の気持ちなど毛ほども知らないくせにしゃあしゃあと。しかも集団で陰口をたたきましょうね! という素敵なお誘い。私だって人の陰口をたたくことはありますけれど、相手はちゃんと選びますのよ?


「ロレッタ様って話の分からない方ね!」

「人の気持ちがわからない冷たい方だわ!」


令嬢たちは憤慨して去って行ってしまった。確かにシェイラ様の事は大嫌いだけれど、あのような大勢で一人のご令嬢を貶めて喜ぶようなご令嬢たちと意見を共にする気はない。ああいう令嬢は楽しげに一緒に悪口を叩きながら心の中ではこちらを馬鹿にしてると思うし。


「上手くやったわね。ロレッタ様」


バーベナ様がいらっしゃってニヤッと笑った。


「上手く…?」


何のことかわからず、首を傾げていると、バーベナ様に手を引かれてホールの隅に連れてこられた。完全な密談用のポジション。


「ロレッタ様は気付いていらっしゃらなかったみたいですけれど、あれは戦略の一つですわ」

「戦略…?」

「さっきいた場所を考えてごらんなさい。周囲に人がわんさかですわよ。あんなところでシェイラ様の陰口など叩いた日には『ロレッタが令嬢たちにシェイラの悪口を言っていた』という噂が油だまりに火種を投げ入れるようにサーッと広がってしまうものですわ。恋敵を口汚く罵る令嬢に対する周囲の印象と言ったら? 最悪ではなくて?」


思いの外危うい立場に立たされていたようだ。


「あの令嬢たちはみんなシェイラ様の仕込みですわ。『ロレッタが令嬢たちにシェイラの悪口を言っていた』という火種を起こすための。印象操作ってやつです。令嬢の相手を陥れるのに使う手練手管の一つですわ。ロレッタ様が自覚もなしに華麗に回避なさってましたから感心致しましたの」

「……陰険ですわ」


令嬢の戦略怖いです。私はそういう罠とか策略とかは思いつきもしない人間なので、それを思いつく人間の悪意には感服するばかりだ。他人の足を引っ張る為によくもまあ頭を使うものだ。それをさらりと見抜くバーベナ様は貴族社会に適応しているのだね。


「彼のご令嬢が陰険なことなど、今に始まったことではないでしょう?」


バーベナ様が声を潜めて笑った。それから真顔になった。


「でも、だからこそおかしいですわ。シェイラ様が噂通りきちんとアルト様を誑し込んでいるのなら、川に落ちた犬を棒で叩くようにロレッタ様の悪印象を広める理由がありませんのに」

「ただ単にわたくしのことがお嫌いなだけでは?」


バーベナ様が扇子をぱちぱち閉じたり開いたりしている。


「…………何か、裏があるのかもしれなくてよ?」


裏…知らないうちにシェイラ様に嵌められたりしているのだろうか。私は全然裏が思い浮かばないのだが、バーベナ様は熟考していた。


「アルト様からのお手紙は、何か前兆があってなくなりましたの?」

「わからないわ。その……わたくしが手紙で告白したから拒絶するつもりで距離を置かれている可能性はありますけれど」

「でもおかしくありませんこと? 拒絶する意思があるのなら手紙にそう書いて寄こせばよいではありませんか」


確かに。真剣に想いを告げたのだから、断りの手紙くらい寄こすのが礼儀だ。アルトがそんな不誠実な真似をするのはどこかおかしい気がする。


「もしかしたらディナトール家には手紙が大好物なヤギさんがいるのかもしれなくてよ?」


バーベナ様が仰った。ディナトール家の人間が故意に手紙を没収している? そんなことをしそうな人間はシェイラ様しかいないし、ディナトール家の使用人はシェイラ様のお母様のレネゼッタ派であるらしいから、レネゼッタ様の娘のシェイラ様の御命令なら聞くかもね。


「手紙がヤギに食べられることと、アルト様がシェイラ様とお付き合いされることに関係はないのではなくて?」


私からの手紙がアルトに届かなくて、アルトが私に悪印象を持つのは筋が通っているとして、アルトの心のベクトルがシェイラ様に向かうのは手紙紛失と別問題だと思うのだ。シェイラ様が何らかの方法で好感度を稼いだということなのだろうけど。


「…アルト様って本当にシェイラ様の事がお好きなのかしら?」

「あのようにべたべたされては疑う方が難しいのではなくて?」

「そうかしら? わたくしはここのところ拝見してますけれど、アルト様の視線はどちらかというとシェイラ様よりロレッタ様の方に向かわれてる気がいたしますわ」

「意味が分かりませんわ」


私に気があるというのなら、どうしてシェイラ様とあのように必要以上にべたべたされるというの。


「ちょっと様子を見た方が良いかもしれませんわよ」


バーベナ様はシェイラ様とアルトの交際にちょっと疑問がおありになるようだ。

私は敗北…したの、よね?


なんだかすべてが煙に包まれ、真相が見えない。

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