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敗北

私が手紙を送った後、1ヶ月待ってみたが、アルトから返信が届かない。どうして? 私が「好き」だと書いたから引かれているのだろうか。もしかして事故で手紙が届いていない可能性も考えて、追加でもう一通送ってみよう。



***


 

追加で手紙を送ってからもう1ヶ月待ってみたが、返信はない。やはりアルトの気持ちは「普通程度の好き」で、「魅力的」や「可愛い」はリップサービスだったのだろうか。私がそれと気付かず食いついて、恋愛的な意味で大好きだなどと書いたから引かれているのだろうか。

悲しい。期待しすぎていた。浮かれていた。

少なくとも「嫌いだとは思われていない」のだから、これから好きになってもらえる可能性もある。頑張ろう…とは思うけど、もうお手紙の返事待ちだけで2ヶ月も無駄にしてしまった。アルトは社交界に出てきていないみたいだし、どうやってアプローチしたらいいのだろう。手紙は返事をくれない以上しつこく書いても嫌われそうだし。

どうやって会えばいい? いい案が出ない。



***



ヴェーダ子爵家で夜会が行われるらしい。招待状を貰ったので行こうと思う。アルトは来ないと思うけれど。

シンプルな感じの紫のドレスを身に纏いウェルスのエスコートで夜会に出かけた。会場に着くと、なんだか周囲の令嬢の一部がヒソヒソクスクスとこちらを見て笑っている。とても感じが悪い。なんだというのだ。

疑問に思ったが、すぐに理由が分かった。会場にアルトが出てきている。しかもシェイラ様とべったり。シェイラ様はまるでアルトの所有権を主張するかのように腕を絡めている。

2ヶ月の間にシェイラ様は『妹』から『恋愛対象』へとランクアップされたのだろうか…。アルトが手紙をくれなかった一因に「シェイラ様に対する好意が生まれた」という理由があるのだろうか。

アルトとシェイラ様は何事かお互いの耳に囁き合っている。秘密めいているというか、なんとも仲睦まじい。

周囲の令嬢たちは惨めな私を見て嘲笑している。一時浮名を流したくらいで調子に乗った哀れな道化だと見下している。


「……ロレッタ、帰ろうか?」


ウェルスが気を使ってくれる。アルトと目が合ったが、すぐに逸らされてしまった。アルトも私のことを調子に乗った令嬢だと思っているのだろうか。ちょっとリップサービスしたくらいで図に乗った厚かましい令嬢だと思っているのだろうか。情けなくて、悲しくて、俯いた。


「バルコニーに…」


少し気分を転換できればホールに散らばる悪意にも耐えられると思うのだ。


「わかった」


ウェルスと共にバルコニーへ出た。先ほどのアルトとシェイラ様の仲睦まじげな様子が目に焼き付いて、鬱々としてしまう。今までとは段違いの接触度だったように思う。人目を憚らずにイチャイチャして。


「ロレッタは、あのアルト・ディナトールが好きなのか?」


ウェルスに直球で聞かれた。黙ってこくりと頷く。家でもアルトからの手紙に浮かれる様子を見せていたので、家族からは薄々勘付かれていたようだ。


「でもあいつは妹と…」

「シェイラ様はただの『妹』だとお手紙に…」

「ふふ。どんなお手紙をお兄様から頂戴したかは存じませんが、今のお兄様とわたくしの関係が全てですわ」


私たちの背後にシェイラ様が現れた。

いつの間に…

シェイラ様は余裕綽々の態度だ。


「可哀想なロレッタ様。お兄様は皆に優しいだけなのに、少し優しい言葉をかけられて勘違いしてしまったのね。お兄様の『特別』はわたくしですわ」


シェイラ様の明らかな嘲笑。勝ち誇った顔。


「お兄様のことはお諦めになって? お兄様の髪の一筋から足の爪の先まですべてわたくしのもの。ディナトール家の地位も、財産もお兄様の妻であるわたくしに与えられるのですわ。残念でしたわね、ロレッタ様」


シェイラ様は機嫌良さげに笑っている。アルト本人も、アルトに付随する即物的な価値もシェイラ様が欲しがったものであるようだ。多分現実世界のシェイラ様もそれを望んでいたのだろう。

シェイラ様が高らかに勝利宣言する中、私は押し殺した声で確認をとる。


「……アルトから告白されましたの…?」

「ええ」


シェイラ様がにっこりと微笑んだ。


「『シェイラだけを愛している』と誓ってくださいましたわ」


目の前が真っ暗になる。シェイラ様がアルトから告白を受けている。私の知らない間に、現実世界は『もしも』世界と入れ替わってしまっていたらしい。

私を「姉上」と呼んで慕ってくれたアルトも、幸せそうなお父様とお母様ももう戻らない。

私は…………シェイラ様に負けたのだ。


「そういうわけですから、ロレッタ様も良識あるレディとして、恋人たちの仲を引き裂くような真似は慎んでくださいましね?」


シェイラ様はクスッと笑って勝利者宣言をした。


「そうそう。お兄様はわたくしのものですから、軽々しく『アルト』などと呼び捨てになさらないでくださいませ。他人に誤解されますわ」


シェイラ様は優雅に微笑んで去って行ってしまった。勝者の余裕が感じられた。改めて私が敗北したのだと悟る。

現実世界でのシェイラ様が仰っていたように、私は結局アルトの姉の座に収まっていなかったら、アルトの恋人にはなれなかったのか。同じポジションを得ていたらシェイラ様の方が選ばれていた。シェイラ様はそれを証明して勝利された。勝ち誇った顔が憎らしかった。ぶってしまいたかった。でも今度こそアルトは私を探しに来てはくれないだろう。私はもうアルトの『姉上』ではないのだから。もう二度と『姉上』には戻れないのだ…

いやだ。いやだよ。アルト、私を好きになってよ。私が『姉上』ではない令嬢だったとしても好きだと言ってよ。

ぽろぽろと胸に凝ったアルトへの恋情が頬を伝う。

アルトのあの甘やかな笑みが私ではなくシェイラ様に向けられるのだと思うと胸が張り裂けそうだった。

ウェルスがそっと慰めてくれる。

私のお化粧はボロボロで、俯いてホールに入り、ヴェーダ子爵にご挨拶だけ済ませて、早々に屋敷へ帰った。




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