呪いの始まり
ちょっと連作していきます
ロレッタ視点が全部終わった後、同じ場面のアルト視点を投稿する予定。
なので「同じセリフを二度読む!」という展開に。めんどくせ。と思ったらロレッタ視点だけどうぞ。
それでも意味は通じますので。
アルト視点は本当に「アルトは何考えてたん?」という場面を描くためだけに用意しました。
私は街の曲がり角を曲がったところで小柄な人物に手を引かれた。一瞬誰だかわからなかった。あまりにも濃いお化粧をしていたから。
「シェイラ様…」
「ふふ。ロレッタ様。お久し振り」
私は警戒感を露わにする。シェイラ様はフードのついたお洋服を着ていたので、護衛はまだ気がついていないようだ。
「ねえ、ロレッタ様ってズルいと思わない? 何もかも恵まれて。親の縁だかなんだか知らないけど、アルトに近付いて。口汚く罵るだけでアルトの心を奪うだなんて。」
「わたくしは選ばれた者ですもの(訳:アルトは私を選んでくれました)」
なんだか近くにいるのは危険な気がして、私はシェイラ様から距離を取ろうとする。
「傲慢ね。ねえ、本当にロレッタ様がロレッタ様だから選ばれたと思っているの? もし、わたくしがあなたと同じ立場だったらわたくしの方がもっとうまくやったわ」
「負け犬の遠吠えね(訳:今更言ったところで結果は変わりませんわ)」
「ふふ。そうかしら? わたくしならきっともっとうまくやった。それを証明してみせるわ。今度はあなたが負け犬になる番よ」
カッと腹部が熱くなった。異物感がある。目をやるとシェイラ様が私のお腹にナイフを突き入れているのが見えた。
「な…!」
「わたくしはうまくやるわ。あなたよりもね」
***
私はベッドの中で目を覚ました。
?
いつもと違うベッド…私、どうしたんだっけ…?
「やあ、気分はどう?」
目の前に金色に輝く小さな妖精のようなものが現れた。妖精のような羽の生えたボブカットの活発そうな女の子だ。幻覚かしら? 目を擦る。
「やだなあ。あるがままを受け入れなよ」
「あなたはどなた? ここはどこです?」
カーテンを透かして日の光が差し込んでいるから朝だとは思う。半身を起こして周囲を見る。どことなく見覚えのある部屋だけど、どこだったか思い出せない。
「ボクは勝負の神、バトロール…………様の使い。パトルだよ」
勝負の神バトロール様…神話に出てくるお名前だわ。闘争と公平を司る神様。今でも決闘の前はバトロール様に宣誓を捧げる風習がある。
「ここはシェルガム家の一室だね。家具が揃えてあるからちょっと印象違うかもしれないけれど、君も入ったことがある部屋だよ。」
そう言われてみると壁紙なんかがシェルガム家の客間の様子に似ている。
「説明するね? 君は呪われたんだ。シェイラって女の子に。君がいたポジションにはシェイラって子が収まってるよ。シェイラの両親は離婚して、ミカルドの再婚相手にシェイラの母。シェイラはアルトの義妹になってるね。姓は母方の『パルテル』を名乗ってるね。ここはシェイラが望んだ『もしも』の世界。もしも自分がアルトの義妹としてディナトール家で過ごしていたら…という『もしも』の世界。でも結構強力な呪いでね。このまま呪いが解けなければ『もしも』の世界は現実と入れ替わる。時空と運命を歪めてね」
一瞬で指先まで真っ白になる。失う…アルトもお父様も…シェイラ様にとってかわられる。幸せな日々が奪われる。絶望感に襲われる。
「ところが、我が主バトロール様はそれはあんまりだと思われた。いきなり奪うなどフェアじゃない。というわけで手助けは出来ないけれど君には情報を与えるよ。
①呪いの解ける条件は、『アルトに呪いの件を隠したままもう一度告白してもらう』だよ。
②期限は1年間。今は時間軸で言うと君は17歳、アルトは15歳、アルトは次の王宮での夜会で社交界デビューするよ。
③期限を過ぎたらシェイラの勝ち。『もしも』の世界は現実にとってかわる。
④シェイラがアルトに告白された際もシェイラの勝ち。『もしも』の世界は現実にとってかわる。
⑤君がシェイラに呪われた事実を誰かに打ち明けた場合は君の負け。『もしも』の世界が現実にとってかわる。
そんな所かな? シェイラに有利に聞こえる? これでもシェイラはハンデを負っているんだ。シェイラは強力な呪いを引き起こすのと引き換えに失っているものがある。
『もしも』でない、君が知っている現実世界の記憶がない。『もしも』の世界の時間軸で生きてきた記憶しかない。つまり君というライバルの存在を認識していないし危機感もない。儚い風も装っていないし、義妹になって9年も経つけど、未だに余裕ぶっこいて妹以上恋人未満のポジションに甘んじてるよ。そして何より自分の勝利条件すら知らない」
呪いを解ける手段があるのだけでも朗報ではあるのだけれど、私にとって降って湧いた災難には違いない。本当にアルトに再び告白などしてもらえるのだろうか…私とアルトの結ばれた経緯は運によるところも多い。偶々家族として近いポジションにつけた運。それが大きい。アルトに身近に意識し続けてもらえたからこそ身体を繋いだ後一気に事態が転がったのだから。
「家族や友人の記憶はどうなのでしょう?」
「完全に『もしも』の世界だね。シェイラにはもしシェイラが王都でディナトール家の一員として暮らしていたら出来ていたであろう友人が出来ているし、君には君がもしシェルガム家のロレッタだったら…あんまり変わらないね。君は友人と呼べる存在が殆ど居ないから。バーベナは友人だよ。ジョセファンは知り合い」
「何故ジョセファン殿下が…?」
「シェルガム家の祖母は王妃の母と姉妹だからね。君がシェルガム家の娘でも出会っていた運命だったのさ。君の知っている現実ほど親しくはないけどね。ジョセファンは王宮からは殆ど出ないし、あまり関係ないかな」
バーベナ様という友人がいるだけでも物凄く心強い。どう考えてもバーベナ様がいらっしゃらなかったら孤立してるし。
「そんなとこ。勝負の神の使いとして正々堂々健闘を祈ってるよ」
パトル様はぱっと消えてしまった。
アルト…またアルトに好きって言ってもらえるかな? 私はお父様とお母様とアルトのいる日常に戻りたいよ。




