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素直な言葉

今回は最初以外翻訳を()でつけていません。

先日とあるご令嬢に素敵なお庭を拝見させていただいたので、感想を述べた。


「先日、あなたの鼻を天狗にさせているお庭を拝見しましたわ。恐ろしく派手なところでしたわね。(訳:先日あなたのご自慢のお庭を拝見しましたわ。とても華やかなところでした。)」


口に出してから「またやってしまった…」と思った。どう聞いても褒め言葉ではない言葉が唇からするする出てきてしまう。ただ単に綺麗なお庭で感心しましたという感想が述べたかっただけなのに。

私に声をかけられたご令嬢は案の定真っ赤になって怒った。


「まあ、なんて失礼な方でしょう。ロレッタ様にお庭など見せるものではありませんでしたわ!」


怒って立ち去ってしまった。……ああ、また怒らせた。どうして私にはこんな悪癖がついているのだろう。直そうとしたことは何度もあったが、どうしても直らないのだ。私の口語言葉はいつも不思議な形で口から飛び出してきてしまう。相手を怒らせてしまったことに凹んだ私はしょげ返った。


「姉上…」


アルトが心配そうな顔をしたので薄く微笑んで見せた。アルトは優しく私を抱きしめてくれた。



***

懲りることなく夜会に出席した。私が夜会に出たところで碌な人脈も作れないし、情報収集など夢のまた夢だということはわかっているが、いつか素直な言葉を口に出せるかもしれないし、私が上手にお喋りできなくても、私の意思を汲み取ってくださる方が現れるかもしれない。淡い希望を胸に夜会へ出かけるのだ。夜会自体もきらきらして華やかでなんとなく心躍る風景で好きだしね。


「今日のあなたの髪飾りはとても派手ね。目に煩いわ。」


私は一人の令嬢の髪飾りに目を留めた。とても綺麗な髪飾りをしていたのだ。カラフルな宝石を上手い具合に調和させてまとめ上げた虹の様な髪飾り。髪に虹がかかっているみたいで、素敵だと思った。私に口を出されたご令嬢は嫌そうな顔をした。


「今の姉上の言葉は『今日のあなたの髪飾りはとても華やかですね。目に楽しいです。』という意味です。」


隣にいたアルトが真面目ぶって解説した。


「ア、アルト…」


私は戸惑った声を漏らす。アルトの解説は間違っていないのだけれど、自分のひねくれねじくれた言葉をストレートに解説され直すのは恥ずかしい。アルトの解説を聞いたご令嬢は戸惑った様子で返事を返した。


「あ、ありがとうございます。テラント通りにある『クラーレス宝飾店』というところの新作なのです。一点物しか取り扱わないお店で、石も厳選された特上品を使っているのです。職人の腕も良くて…」

「まあ。一点物……確かにあなた程度にしか似合わないような奇妙な飾りですわ。」

「今のは『あなたにしかつけこなせないような絶妙な一品ですね』という意味ですよ。」


アルトが解説した。

本当に絶妙なのだ。あんなにカラフルな石を使ったら下品になりかねないのに、そんな印象は全然なくて、綺麗にまとまっていて、更にさらりとしたご令嬢の黒髪にはよく映えている。多分その黒髪こそは最もその髪飾りの似合う髪だと思う。よく似合っている。


「…ありがとうございます。色んな品があって、中にはロレッタ様にお似合いになりそうなものもありましたわ。」

「それならいずれわたくしの身を飾る栄誉ある宝飾品を購入するのも考えないことはないですわ。」

「今のは『そんなに素敵な宝飾品があるのならわたくしも購入してみようかしら?』という意味です。…僕も姉上にプレゼントできるかもしれないお店と覚えておきましょう。」


令嬢はくすくすと笑った。


「ロレッタ様って、ずっと嫌味な方だと思ってましたけれど、実は面白い人ですのね。」

「ふん。どうせわたくしはあなたの思う通り嫌味な人間ですわ。」

「今のは謙遜しているつもりなんですよ。」


アルトの解説を聞いて令嬢がぷっと噴き出した。


「ア、アルト!なんなのです。先ほどからわたくしの言葉を解説したりなどして…!」


私は照れて真っ赤になった。

解説はまさに正しいのだけれど、それを真横に張り付かれてやられるのはすごく恥ずかしい。ひねくれた私の言葉が素直に翻訳され直されてしまうなんて。


「ロレッタ語を布教しようかと思いまして。姉上はこんなに可愛らしいご令嬢なのに喋る言葉がみなと違うから誤解されて傷ついて。悲しむ姉上はもう見たくないので、姉上が本当はどんなに素敵で可愛らしいご令嬢か、みんなに知ってもらうつもりです。」

「余計なお世話ですわ。」

「僕はお節介焼きで、姉上に恋する男なので十分にお節介を焼かせてもらいます。昔は姉上が僕以外の誰かと親しく喋るのが嫌で嫌でたまりませんでしたが、今は姉上とは相愛。安心して姉上の良さをみんなに伝えることが出来ます。」


アルトが断言した。

アルトはずっと私の回りをついて回ることにしたようだ。とってもやりづらいんだけど。でもアルトと一緒にいられるのは素直に嬉しくもあって拒否もできない。


「ちょっと!邪魔よ。でかい図体して目が節穴なの!?」


私は体の大きな男性に注意した。注意された男性はムッとした顔でこちらを睨んだ。


「今のは『あなたの周囲に小柄な女性がいるようだから注意してあげて。あなたのような逞しい方にぶつかられたら怪我をしてしまうわ。』という意味です。」


アルトが真面目腐って解説した。アルトの解説を聞いた男性は周囲に背の小さく華奢な女性がいるのに気が付いて、申し訳なさそうな顔をした。


「すまない…気を付ける。」

「人間は出来損ないですわ。」


ツンケンした態度で述べる。


「今のは『人間誰しも失敗はあるものですから、大丈夫ですよ』という意味です。」

「ありがとう。」


悔しいことに…本当に悔しいことにアルトの解説は全て的を射ている。10年間の言葉のすれ違いは何だったのだろう…というくらいアルトはロレッタ語を見事に翻訳した。

アルトが一々真面目腐って解説するのが面白いのか衆目が集まってしまっている。流石にこれほどたくさんの人々に注目されてしまうのは、恥ずかしく、身の置き所もない。


「鬱陶しいわね!こっちを見ないでくださいまし!」


私が真っ赤になって周囲に怒鳴る。


「今のは『恥ずかしいからじろじろ見てはイヤ!』という意味ですよ。」


アルトがにっこり笑って解説すると周囲にいた人たちがどっと笑いだしてしまった。私は恥ずかしくなってますます真っ赤になる。


「なんだか面白いことをしているじゃない。」


ニヤニヤしたバーベナ様がやってきた。


「そんな憎たらしい表情を浮かべていないで、弟の恥ずかしい奇行を止める手伝いでもしてくださいまし。」

「今のは『ニヤニヤしてないでアルトに恥をかかされているわたくしを助けて!』という意味ですが、バーベナ嬢に翻訳は必要ないですね?」

「ええ。勿論。ロレッタ語に関しては私の方がアルト様の先輩ですわ。」

「それはすごく悔しいです…」


アルトが無念そうな表情を浮かべた。

バーベナ様は面白がってアルトと共にロレッタ語を解説し始めた。周囲の人間は面白がって聞いているようだった。「なんと、そんな意味なのか!では以前私がかけられたあの言葉は…」などと過去の発言の推理ゲームまで始まってしまった。

すっかりいい見世物になってしまった。



***

家に帰って椅子に座ってハーブティーを飲みながら嘆いた。


「今夜は散々でしたわ。」

「僕は姉上の素敵なところをみんなに知ってもらえて満足です。」


アルトは満足そうに笑っている。

確かに私の印象は劇的に変わっただろうけれど、恥ずかしいものは恥ずかしい。初めからアルトの解説のような素直な言葉を告げられるくらいなら、こんな悪癖は身についていないのだから。


「アルトのばか。」

「ふふふ。馬鹿でも良いですよ。僕はずっと姉上にイカレた大馬鹿者ですから。」


アルトが私を背中から抱きしめてきた。


「姉上。可愛い。好きです。」


甘く囁く。

私は可愛くないことを言いそうになる口を必死で窘めて言葉を紡いだ。


「アルト…すき…」


ちゅっちゅっと耳にキスされた。とても甘い気持ち。

素直な言葉は舌が痺れるほど甘かった。




一応これでひと段落とさせていただきます。

最後までお付き合いいただき、ありがとうございます。

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