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手紙の真相

マリディ様はお父様に呼び出された。「遂に婚約が正当なものと認められる!」とマリディ様はウキウキである。そんなはずはないわけで、私は白い目で見ているけれど。

リビングにはお父様、お母様、アルト、私、マリディ様が着席している。


「まずマリディ嬢。あなたとアルトとの婚約はあり得ない、と明言させていただく。」

「なんですって!?」


お父様の発言にマリディ様が目を剥いた。元々マリディ様との婚約が認められるなどと、誰も思っていなかったので、マリディ様以外の誰も驚かない。


「マリディ嬢。調べさせてもらったが、あなたは一昨年までサンズクロス家の御子息と婚約されていたね?15年間アルトと婚約するために花嫁修業をしていたというのは嘘だ。」

「……。」


マリディ様が顔を顰めた。


「メリッサがハンナ夫人と友人関係にあったというのも甚だ疑わしい。メリッサの生前の日記を読んでみたが当時のハンナ夫人のことを『驚くほど厚かましい、品のない田舎令嬢だわ』と記していた。」

「母を侮辱するつもりですか!!」


マリディ様が怒りで顔を染めた。私はマリディ様のことを「驚くほど厚かましい、品のない田舎令嬢だわ」と思っていたので、きっとマリディ様はお母様とよく似ていらっしゃるのだろう。


「侮辱しているのはどちらかな?」


お父様は紅茶で唇を湿らせた。


「メリッサは用心深い女性だった。誰かに手紙を差し上げる際には必ず写しを保管していた。量が膨大だったので、探すのに手間取ってしまったが、マリディ嬢が手にしていた手紙の写しもちゃんとあったよ。」


マリディ様が顔色を変えた。お父様が手紙の写しを開示する。お手紙は便箋二枚に渡って綴られていた。全員で覗き込む。


《ハンナ・ククル様


空からきらきらと慈雨が零れ、紫陽花色づく季節になりました。近頃めっきり筆が遅くなり、ご挨拶もままならぬことが多くなってしまいましたが、ハンナ様はいかがお過ごしでしょうか。

ご懐妊されたというおめでたいニュースは聞き及びました。遅ればせながらお祝い申し上げます。わたくしも先日経験いたしましたが、出産というのはとても大変です。しかし日々お腹の子の胎動を感じては喜びに顔がほころんだものです。産み落とした時は世界で我が子が一番可愛いに違いない!などと親ばかなことを思ったものです。きっと世の母親とは、皆そのように我が子を慈しむものなのでしょうね。

ハンナ様が先日のお手紙でご提案されていたお子の将来について。

ハンナ様はご自身に生まれた子供が娘であれば、将来はアルトの妻にとお望みとのことですね。お話は大変ありがたいことながら、現時点でそれを決断するのは時期尚早と存じます。わたくしは16でミカルドに見初められ、ミカルドと相愛になり結婚いたしました。わたくしは我が子にも多少の家格の差があったとしても愛する伴侶を娶らせたいと考えております。今はお答えが出せませんが、アルトが年頃になった時、ハンナ様のお嬢様と相愛となった暁には、》


そこで一枚目の便箋がいっぱいになってしまったらしく二枚目の便箋に文字が移っている。


《喜んでハンナ様のお嬢様をアルトの妻に迎えたく存じます。ハンナ様のお子であればきっと美しき淑女となられることでしょうし、光栄なお話かと存じます。

子供とは可愛いもの。早めに良縁を見つけてやりたい気持ちはよく伝わりました。

まずは男の子であれ、女の子であれ、無事なお子様を産まれることを心から願っております。

恵みの雨とは申しますが、やや肌寒く感じる季節。どうぞご自愛くださりますよう心からお祈りする次第です。


メリッサ・ディナトール》


と書かれていた。マリディ様は手紙が上手いこと区切られているのをいいことに、2枚目の便箋だけを手に持って「私が認められた婚約者だ」と喚いていたらしい。あまりの厚かましさに開いた口が塞がらない。…………これって詐欺って言わない?


「もとより俺はマリディ嬢をアルトの妻になどとは認めていないが、メリッサも別にマリディ嬢を妻にとは考えていなかったようだな。きちんと『アルトが年頃になった時、ハンナ様のお嬢様と相愛となった暁には』と条件づけられている。アルトの心はロレッタちゃんのものだからこの条件を満たしていない。」


マリディ様は悔しげな顔をしていた。


「俺はハンナ夫人とは面識がないが、このようなことをするあたり、メリッサが言うように『驚くほど厚かましい、品のない田舎令嬢』としか言いようがないな。面の皮の厚さには感服する。……というわけだから、明日には離れを出て行ってほしい。あなたは当家には何の関わりもないご令嬢だからな。」

「ひとでなし!」

「それはこちらのセリフだよ。可愛い息子と娘の一生を台無しにされるところだったと思えば不愉快極まりない。」


お父様が冷たく断じた。マリディ様がギリギリとお父様を睨んでいたが、お父様の冷たい態度が変わらないのを見ると乱暴に席を立った。


「災難だったな。二人とも。」


お父様に同情された。

とりあえず嵐のようにやってきた厚かましい令嬢は追い払えたらしい。ほっと息をついた。



***

「わたくしこそが正当なデミアス様の婚約者!きちんと証拠の手紙がありますもの!おほほほほ。」


マリディ様は田舎に引っ込むのかと思いきや、堂々と社交界に居座って次なる犠牲者をつついている。どうやらハンナ様が持ち得る手紙カードは複数であったらしい。先日アルトの婚約者だと言って回っていた事実はマリディ様の脳内からはさっくり削除されているようだ。なんと融通の利く脳味噌だろう。

次なる標的となってしまったデミアス様は迷惑そうな顔で抗弁している。

うっかり夜這いなどかけられて既成事実を作られないようにね…私はそっとデミアス様の無事をお祈りした。



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