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宝物が増えた日

翌日いつものようにやってきたシェイラ様はディナトール家の門番に止められた。いつもは顔パスの素通りだったのでシェイラ様は驚いているようだ。門番は槍を翳してシェイラ様を威嚇している。


「アルト!?」


どうして自分がこのような扱いを受けるのかがわからずに、アルトを呼んでいる。

アルトは門から大分離れたところからシェイラ様に声をかけた。


「シェイラ嬢。あなたには失望しました。」


アルトの口調は冷たく、他人行儀だ。視線も肌がひんやりするほどに冷たい。


「ち、違うよ。なんか誤解してるよ…!ロレッタ様に騙されてるんだよ!」


シェイラ様が必死に言い募る。シェイラ様は自信があったのだろう。アルトがロレッタより自分を信じる自信が。


「シェイラ嬢。昔のあなたは可愛い妹の様でした。シェイラ嬢。今のあなたは僕の最愛の人を傷つける敵です。」


アルトの声は冷え冷えと響いた。


「アルト…思い出して!わたくしと過ごした日々を!」

「あなたと過ごした過去は、柔らかいものでしたが、あなたが土足で踏みにじってくれたので、もう僕には必要ないです。僕は最愛の人との未来だけを見つめます。出来ることなら、もう二度とお会いしたくない。」

「アルトぉ…アルトぉ…!」


シェイラ様がアルトを呼んで手を伸ばしている。門番がシェイラ様を通らせない。アルトはシェイラ様に背を向けて去っていった。私は屋敷の窓からそれを見ていた。

アルトが屋敷に入ってきた。私は駆け寄ってアルトの頬にキスした。

アルトが微笑む。


「傷付いてないですよ。少し、疲れただけです。」



***

夕食時アルトがお父様に尋ねた。


「父上。もしかしてプチリーズ家から縁談など届いてませんでしたか?」


お父様はニヤッと笑った。


「ようやくアルトもそれくらい考えるようになったか。シェイラ嬢の露骨なハニートラップで骨抜きになっていたらぶん殴ろうと思っていたところだ。縁談、届いてたぞ?アルトとシェイラ嬢をってな。ついでに言うとプチリーズ家は領地で大飢饉があったらしくて瀕死状態だ。もうあの家に売れるものはシェイラ嬢しかない。アルトが駄目ならどっかの大富豪の妾なんだろうな。うちはもうロレッタちゃんで決まってるから要らんと言っておいた。」

「そういう情報はもっと早く教えてください。無駄に姉上を傷付けました。」

「馬鹿。惚れた女に悲しい顔をさせたのはシェイラ嬢じゃなくて自分だ。弁えろ。」


アルトがフォークとナイフを置いて私に向き直った。


「…………すみませんでした。姉上。」

「あら、それくらい許せないほどわたくしが狭量だと仰いたいの?(訳:許すから気にしなくていいよ。)」

「姉上……後ほど、僕の部屋にご足労願えませんか?」

「うん?うん。」


久しぶりに安心して食事をとった。最近なんだか食べているものの味もろくにわからないような状態だったから。張りつめてたんだなあ…と今なら思う。シェイラ様は可愛くて、素敵な思い出をいっぱい持ってたから、もしかしたらアルトが私じゃなくてシェイラ様を選ぶかもしれないって不安で。10年もアルトと一緒にいたのに幸福な思い出って最近のものばかりだものね。幼少期はアルトが気になって仕方がない癖に口が悪いからいっぱい嫌われた思い出しかない。



***

夕食後、お茶を頂いてからアルトの部屋へ行った。

アルトの部屋をノックする。


「どうぞ。鍵は開いてます。」


中に入った。整理整頓された、青を基調としたアルトの部屋。


「姉上…」


ベッドに腰掛けるアルトはどこか神妙な顔をしている。なんか真面目な話だったりするのかな。さっき謝ってくれたし、別れ話ではないと思うけど。


「姉上に、行き場のない思い出の片付けを手伝ってもらいたいのです。」

「?」


アルトは立ち上がると自分のベッドの下から箱を引きずり出した。茶色のレザーのちょっと大きめの箱で、箱を開けると中にはぬいぐるみやら綺麗な髪飾りやら、年頃の少女の好みそうなものがたくさん入っていた。

なにこれ?

アルトとあまり縁のなさそうな品々だ。

ふと目を留めたぬいぐるみに既視感を覚えた。手に取ってみる。やや大きめのふわふわのクマのぬいぐるみ。つぶらな黒い瞳がなんとも可愛らしい。


「それは姉上が子供の頃、店先でじっと見ていたぬいぐるみです。姉上の9歳のお誕生日プレゼントにするつもりで購入しました。」

「え…」

「本当は姉上に差し上げて喜んでもらいたかったのです。けれど、こき下ろされて突き返されてしまいそうな気がして、渡す勇気が出ずに、渡しそびれて、でも捨てるのが嫌で、僕がずっととっておいたものです。」


ぎゅっとぬいぐるみを抱きしめた。ほんの少しだけ埃の匂いがする。


「こちらは真珠のイヤリング。姉上の10歳のお誕生日プレゼントにするつもりでした。当時姉上は『真珠の森の人魚姫』という童話を好んでいらして、その中で出てくる桃色の真珠のイヤリングに憧れてらしたので、父上にねだって探してもらったのです。でもやはり当日になると渡す勇気が出なくて…」


箱の中身はみんなみんなアルトが私に贈ろうと用意してくれたものばかりだった。それも当時の私の好むものばかりが吟味してある。アルトは丁寧に丁寧に当時の私の事と自分の心境を語りながら紹介してくれた。


「姉上は今更って思うかもしれませんが、全てが僕の姉上に対する思い出なのです。どうか姉上の手で適切に処置してやってください。」


私はくしゃくしゃに泣いてしまってうまく返事が出来なかった。


「姉上。何にもなかったなんて仰らないでください。すれ違ってはいましたけど、思い出は沢山あります。僕は10年間姉上を想ってきたのです。」

「アルト…アルト…」


アルトに抱きついてわんわん泣いた。幸福で胸がいっぱいで涙が出る。私がアルトを想ってきたようにアルトも私を想ってくれていた。さり気ない優しさがたっぷり込められたプレゼントは全部私の宝物になった。





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