幼馴染襲来
4部構成。
①幼馴染到来
②思い出のクッキー
③ダイヤの指輪
④宝物が増えた日
シリアスタッチの4話です。
「アルト様…わたくしのこと覚えていらっしゃる?」
私とアルトの婚約が広まり始めた頃、夜会でアルトに声をかける令嬢がいた。私は一目見てはっと息を飲んだ。あまりにも美しかったからだ。淡い淡いプラチナブロンドに美しいアクアマリンの瞳。抜けるように色が白く、唇だけがぱっと花が咲いたような桃色。小ぶりな鼻に弓型の眉。優しげで、儚げで、触れれば溶けてしまいそうな淡雪のような乙女。身体も全体的に華奢な印象だ。淡くてふんわりとした水色のドレスが良く似合う。
「……もしかしてシェイラ?」
「良かった。覚えててくれたのね。アルト。」
急に言葉が砕けた。二人で名前を呼び捨てにしあって再会を喜んでいる。
二人は一気に親しげな雰囲気を醸し出す。どういう関係か知らないが、随分と仲が良さそうだ。
「シェイラ、どうしたんだい?領地で暮らすって聞いていたのに。」
「ふふ。王都が懐かしくて…アルトに会いたくて…来ちゃった。勿論パパも一緒だけど。」
シェイラ様が魅力的な笑顔をアルトに見せて二人で仲良さそうに喋っている。おねーちゃんは無視されてちょっと面白くないです。アルトが、はっと気づいて私を紹介してきた。
「あ、シェイラ、紹介するよ。僕の義理の姉で、婚約者のロレッタだよ。姉上、こちらは生まれてから僕が5歳くらいまで近くの屋敷に住んでた幼馴染のシェイラ。僕と同い年だよ。」
「婚約者…」
それを聞いた瞬間、シェイラ様はぽろぽろと涙を流して泣き崩れてしまった。
「シェイラ!?」
アルトが慌ててシェイラ様を支える。シェイラ様はアルトの胸に縋って泣いた。その泣き顔の美しさに私は思った。…………ああ、この令嬢涙の出し入れ自由なタイプだわ。自分が泣き崩れるときどうすれば一番美しく泣けるか計算しているタイプだ。好きになれない…一瞬でそう感じた。
「ごめんなさい、急に泣いたりして…ちょっとショックだったから、つい…」
シェイラ様は悲しげな顔で微笑んだ。「悲しいけど無理して笑ってるよ」感がすごい。演技派だと思う。私は偽物臭い表情だと思ったけれど、アルトはちょっと心に響いたような顔をしている。
「宜しくお願いします。お姉様。」
アルトの胸に縋りついたままという失礼極まりない体勢で挨拶してきた。今婚約者だって紹介されたばかりなのにね。
「……馴れ馴れしくお姉様って呼ばないでくださる?(訳:私あなたのおねーちゃんじゃないし、義姉でもないよ!)」
「ご、ごめんなさい…!」
シェイラ様は「ショックです!」という顔で涙をこぼした。この程度で伝家の宝刀『女の涙』を見せるのはズルいと思う。まるで私が苛めて泣かしたみたいじゃない。周囲の人々もちらほらと私に非難の目を向けている。
「あ、姉上…シェイラは気が弱いからあまり…」
アルトはシェイラ様を庇って私に苦言を呈した。アルトは私の口調が普段からこうであることくらい知っているはずなのに。
「なんですの?アルト。わたくしがシェイラ様を脅してるとでも言いたいんですの?それともシェイラ様はアルトの特別だからわたくしにも特別扱いしろと言ってるの?(訳:その子アルトにとって特別な女の子?おねーちゃん面白くないです。)」
「そう言うわけでは…」
アルトはへどもどした。シェイラ様がずっとアルトの胸に縋り付いているのも気に入らない。婚約者の目の前で、お相手の胸に縋りつきっぱなしってどうなの?すごく失礼だと思うし、私はムッとした。煮え切らないアルトの態度にも腹が立つ。そんなに幼馴染というのは大切な存在なのだろうか。
***
翌日から私にとってストレスのたまる日々が始まった。シェイラ様が突然屋敷にやってきて「来ちゃった。」とペロッと舌を覗かせたのである。
3人でお茶をするが、シェイラ様とアルトはず―――――――――っと小さな頃の思い出話をしている。「~~ってことがあったよね。」って。私その話知らないし。
「その時メリッサ様の作ってくださった焼きリンゴの味が忘れられなくて…」
「二人で食べたんだよね。半分に切ったのにシェイラが『そっちの方が大きい気がする…』って何度も見比べて…」
二人でクスクス笑っている。とても居心地が悪い。私は5歳前の記憶なんて全然うろ覚えだが、この二人は本当によく覚えている。
「それでアルトが誕生日にカメオのブローチをくれて…あれ、わたくしの宝物よ。今も大切にしてるの。」
「ありがとう。すごく嬉しいな。誕生日と言えば…」
「楽しい?」
私は尋ねた。二人がはっと顔を上げた。ようやっとこの席に私がいることを思い出した顔だ。多分元々私に対して良い感情を持っていないシェイラ様はともかく、私を愛していると言って憚らないアルトまで私の存在を視界から抹消していたのが酷く面白くない。「私以外を見ないで!」なんて言えないけれど、それにしたっておざなりにし過ぎではないだろうか。
「二人にしかわからないお話はさぞや楽しいでしょうね。(訳:無視されてとても寂しいです。)」
「ご、ごめんなさい…つい懐かしくて…」
シェイラ様が怯えた様子でぷるぷる震える。そのさも「ロレッタに苛められてます」というポーズも私の神経を逆撫でする。
「ご、ごめんなさい、姉上。あ、姉上の話も……」
というところでアルトが言葉に窮した。私はそれを見てふんと鼻を鳴らした。
「…どうせわたくしにはアルトと楽しく語れるような過去の思い出なんてありませんわ。」
ずっとアルトに嫌われていたのだもの。「大嫌い」って言われたし、私が話しかける度に苦虫噛み潰したような顔してたよね。私、アルトに誕生日プレゼントなんて貰ったこともないし。何でも良かったのに。飾りボタン一つでもくれていれば私だって宝物にしたのに。自分で言ってて自分で傷付いてしまった。ああ…とてもつらい。
「……部屋に下がらせていただきますわ。ごゆっくり。」
私は席を立った。
「あ、姉上…!」
狼狽えたアルトの声が聞こえる。アルトのばか。おねーちゃん、もう知らない。




