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ハリエットの回想1

「ハリエット嬢、遂に姉上と婚約できました!色々助言してくださり、ありがとうございます。」


アルト様が輝くようなお顔でお礼を述べてきた。


「良かったですわね。」


私は幼子を見守る母のような目線でアルト様を見た。



***

私の名はハリエット・シリエル。ロマンス小説の愛読が趣味の18歳。ある程度自我が芽生えてきた頃はがっかりしたものだわ。私は酷い丸顔で、実際はそんなことないのにポチャッとして見える令嬢だったから。私の憧れるロマンス小説のヒロインには到底遠い顔。髪は茶色で、瞳は榛色。ほんの少しだけそばかすがある。まあ自分のことは早々に諦めたけれど、代わりに他人の恋愛相談にはよく乗るようになった。恋愛のお手本はロマンス小説。くっつけた男女は数知れず。ついたあだ名は『やりて婆』。酷いあだ名ですこと。『恋のクピド』と呼んでくださればよいのに。男性の、あるいは女性の、恋の相談に乗って、そのリアルなロマンスを楽しむのが何よりの生き甲斐。

最近密かに注目している男性はアルト・ディナトール様。ディナトール侯爵家の御嫡男。亜麻色の美しい髪に、神秘的な紫と緑のオッドアイ。目鼻立ちはくっきりと美しく、均整の取れた凛々しい体つきをしている。まだ16歳で、もう少し身長に伸びしろがありそう。品の良い素敵な貴公子。まさにロマンスノベルズのヒーローに相応しい男性。何故私がアルト様に注目しているか。勿論私が恋してしまったから……なんていう理由ではない。アルト様はどうやらご自身のお姉様に片思い中なようですの。いつも瞳で追っては切ない溜息をついていらっしゃる。これが血の繋がった姉弟でしたらこの国では婚姻できないので悲恋コースですけれど、お二人は血の繋がらない姉弟。なんて萌えるシチュエーションなのでしょう。そりゃあ、実のご姉弟でしたらそれはそれで禁断愛チックな雰囲気で萌えますけど、私はハッピーエンド至上主義なもので。読むなら悲恋もアリですが、リアルなら断然ハッピーエンドですわ。

このアルト様、大変嫉妬深い性質の男性なようですの。お姉様のロレッタ様が他の男性と親しくしていると、射殺さんばかりの視線で見るのですわ。それならそれで、ロレッタ様にアプローチされればよいのに…と思うのですけれど、どうもロレッタ様の操る言語が特殊過ぎてすっかり嫌われていると思い込んでいるよう。少し目線を高く持ってみればロレッタ様の吐く言葉など可愛い悪態にしか思えませんのに。

いつかお節介を焼くぞ。焼くぞと思っていたのですが、ここにきて急展開。

アルト様が仮面舞踏会でまぐわった仮面の女性に恋に落ちてしまったそうな。その仮面の女性を探しているようだ。お姉様は!?

結局、仮面の女性は見つからずアルト様は意気消沈。

夜会でアルト様に声をかけた。


「アルト様。お初にお目にかかります。ハリエット・シリエルですわ。どうぞよしなに。」

「宜しく。」

「アルト様が恋に落ちた女性というのはどのような方なんですの?名乗り出ていらっしゃらないというのは既婚者であったとかではなくて?」

「彼女は、処女はじめてだったよ。シーツには血がついていたから。」


あら、やだ、生々しいですわね。ロマンス小説も好きですが、官能小説も少し興味がありますわ。アルト様は回想するように目を閉じた。


「彼女は美しい焦げ茶色の髪をしていた。艶やかで緩く波打つ…姉上の髪のように。そして姉上のようなぱっちりした美しいサファイアブルーの瞳をしていた。鼻筋はすっと細く通り、ぷっくりした薔薇色の唇は誘うように濡れて…姉上のようなむっちりとした胸に細く括れた腰の、官能的な肢体の少女だった。姉上のような豊かな柔らかいお声をしていて…」


…………おい。


「……アルト様。あなた意中の女性のお姿とお声を表現するだけなのに4回も『姉上のような』って仰いましたわよ?」

「え…?」


アルト様は色違いの瞳をパチクリさせた。自覚ないのか、この男…!!


「い、いや…でも彼女は、姉上と違って、こう素直で、情熱的で、甘えん坊な、可愛い方で…可愛いお声で『あると』『あると』と求めてくださった…」

「……アルト様はその女性とロレッタ様が同時にアルト様に愛を告げ、その心を乞うたら、どちらをお選びになりますか?」

「……。」


沈黙が答えである。アルト様のお心はロレッタ様のものだ。


「いくらロレッタ様に似た女性だからと言って身代わりにするのはその女性に失礼ですわ。」


ズバリと指摘するとアルト様は意気消沈された。


「姉上…」


切なくロレッタ様を呼んでいる。くうううう。やっぱりロマンスはこうでなくっちゃね!一途に愛し、迷い、たった一つの愛を手にするのですわ。

盛り上がる私とは反対にアルト様の表情は酷く暗い。


「…でも……姉上は僕が嫌いなのだ。」

「本当に?ロレッタ様がそう仰ったの?」


ロレッタ様は悪態はつくし、嫌味っぽいし、好きだとは言わないけれど、「嫌い」とも中々言わない。本当に「嫌い」だと仰られたなら、真実お嫌いなのだと思いますけれど。


「『嫌い』とは一度も言われたことはないけれど……どうしてそう突っかかってくるのかと問うと『目障りだから』と仰る。」

「多分それはロレッタ語で『気になってるから』という意味だと思いますわ。」

「ロレッタ語?」


アルト様が怪訝そうな顔をした。


「ロレッタ様は自分のお心を『素直に』言葉で表現できない方とお見受けしました。言葉を額面通りに受け取るのではなく、『何を仰りたいか』推理しながら聞くと全然別の言葉に聞こえますわよ。」

「……。」


アルト様は難しい顔で黙り込んだ。


「あ、ほら、今他のご令嬢に『あなたの髪って無駄にきらきらして目障りね。とても派手だわ。』って仰いましたけれど、あれは翻訳すると『あなたの髪はきらきらしていて、とても綺麗ね。すごく目立つわ。』と仰っているのですよ。」


ロレッタ様が他のご令嬢の綺麗な金髪を褒めていらっしゃる場面を見た。褒められたご令嬢は貶されたと思って嫌そうな顔をなさっているけれど。


「……好意的解釈すぎるのでは?」

「アルト様は本当にロレッタ様の性格がそんなに悪いと思っていらっしゃるの?お家ではそんなに思いやりがない?」


アルト様は俯いた。


「姉上は……優しいです。怪我をした子犬を拾って手当てして里親を探してあげたり、侍女が高価な壺を割ってしまっても許したり。……でも言葉がきつくて。『わたくしの目の前で死なれるのなんて縁起が悪くて堪りませんんわ。なんて迷惑なのでしょう。』とか言って嫌な顔をしたり、『わたくしの気に入らない壺を態々割ってくれるなんて、あなたの粗忽もたまには役に立つのね。』なんて厭味ったらしく言うのです。」


なんともロレッタ様らしくて笑ってしまった。


「それは『死なないで』と『これくらいの粗相気にしなくていいのよ?』っていう意味ではないですかしら?」

「……。」

「アルト様は素直すぎますわ。もっと真意を掴んで差し上げなくてはロレッタ様の真実のお姿を見るのなど、夢のまた夢ですわよ。」

「……。」

「ロレッタ語…レッスンいたしましょうか?」

「お願いします。」


私はアルト様の講師役を務めることとなった。

ところでいくら酔っていたとしてもアルト様のような高位貴族を「アルト」「アルト」と呼び捨てにする女性はどれくらいいるだろう?ちょっとした疑問である。





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