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アルコールは桃の香り

婚約はいち早く発表された。結婚式への招待状は後日送るということで。まだどこの誰を招くか目録も出来てないし。婚約披露宴とかはやらないお家が多い。うちもやらない。ぶっちゃけて言うと、貴族の婚約なんて、家の指針で容易く破棄されてしまうものなので、仮決めである『婚約』で披露宴など開いてしまうと破棄しにくいからだ。婚約披露宴に招いて、更に結婚式にも招くと二度ご足労願うことになるし。王都に居を構えている貴族なら2度呼ばれるくらいいいかもしれないが、領地に住んでいらっしゃる方は出席するのも一苦労なのだ。


本日はヴェルモンテ家主催の夜会。

会場でお会いしたバーベナ様が婚約を祝ってくれる。


「おめでとう。」

「わたくしも遂に人生の墓場への片道切符を手にしましたわ。(訳:結婚のお約束が貰えたんだよっ!)」


私は左手の薬指に光るダイヤの指輪を見せた。これがまたきらきら光って綺麗なんだ。婚約した者は売約済みであることを示すために左手の薬指に指輪をつけるしきたりがある。勿論婚約者から送られたもの。


「素敵じゃない!」


バーベナ様も意中の方から無事プロポーズが頂けたそうだ。左手の薬指に指輪をしていた。「切符が無駄にならないと良いですわね。(訳:無事結婚できると良いよね)」と話し合った。私はバーベナ様を結婚式に招待するつもりでいるので、お互いの結婚式が被らないように調整しましょうね、という話をした。


「でも弟君の童貞チェリーが食べられなかったのは惜しかったですわね?」


バーベナ様が茶化した。


「あら。わたくしは美味しくいただきましたわよ?」


ふふと笑う。甘くて熱くて激しい美味しいチェリーでしたわよ?


「え?え―――――…アルト様が探していたのってロレッタ様でしたの?」

「ええ。」


アルトに嫌われてると思い込んでいたから名乗るつもりはなかったけれど、もう秘密にする必要もないだろう。婚前で貫通している情報が回ってしまうことになるが、責任とってもらえるようなので構わない。


「さっさと名乗り出てあげれば良ろしかったのに。してロレッタ様の股にはどんな秘密が?」

「馬鹿ですの?そのような秘密をペラペラ喋るはずがないでしょう?アルトとわたくしだけ知っていればいいことですわ。」

「確かに。」


暫く他の男性と踊り、暴言に引かれつつ夜会を楽しんだ。

踊り疲れると再びバーベナ様と合流した。バーベナ様は軽食を召し上がっていた。食べにくそうな軽食を器用につまんでいる。


「まあ、以前もっと痩せたいと仰っていたのは妄言だったのですわね。まるで上品な豚ですわ。(訳:痩せたいって言ってなかったっけ?そんな食べにくそうな軽食上手に食べるもんだね?)」

「少しくらいなら大丈夫ですわ。こちらのお肉は美味しくてよ。」

「食い意地の張ったバーベナ様の御推奨なら頂こうかしら。(訳:グルメのバーベナ様が美味しいって言うならさぞ美味しいんでしょうね。)」


遠火でじっくりローストされたお肉を頂く。しっかりと火が通っていながらレアな感じの食感でとても美味しい。ソースもほんの少しだけ酸味があって食べやすい。


「まあまあですわね。(訳:とても美味しいですわ。)」

「ここはお食事が美味しいことで有名なお屋敷だから色々食べてみましょうよ。」

「まあ、あなたもたまには知恵を働かせることが出来ますのね。(訳:ナイスアイディアです。)」


2人で品が悪くならない程度摘まんで食べた。どれもこれも絶品。


「良い食べっぷりだね。」


20代前半の若々しい紳士が声をかけてきた。


「レディの褒め方がなってませんわ。(訳:お恥ずかしいです。)」


私はツンとそっぽを向いた。


「すまないね。本当に美味しそうだと思ったんだ。僕もそれを頂こうかな。」


三人で軽食を食べた。この男性は本当によく食べる。健啖家だ。


「僕はロジェ・ニューバーグ。レディたちは?」

「バーベナ・コロンネですわ。」

「ロレッタ・シェルガムですわ。」


ロジェ様は茶色い御髪に青い瞳の、中々の好青年だった。割と逞しい体つきをされている。


「実は食べるのが趣味でね。今夜の夜会は楽しみにしてたんだ。」


ざっくばらんに話す。食べるのが趣味だけど食べてばかりだと太るので体も鍛えているそうだ。かなりがっちりした体格。好む女性は多そうな気がする。

飲み物を勧められてクイッと飲み干した。桃のような味のジュースだと思った。


「ロレッタ様、これお酒みたいですけれど、そんなに一気に飲み干して大丈夫?」


バーベナ様が心配そうに尋ねてきた。


「ん?んー…」


胃がポカポカする。お酒?でももう飲んじゃったから吐き出せないし~

暫くするとアルコールが回ってきたらしい。とても愉快な気持ちになる。


「そうなんだあ…わたくしはぽたーじゅのすーぷがすきで…」

「美味しいですよね。カボチャも旨いですが、ジャガイモのポタージュなんかも。」

「うん。」


にこぉと微笑むとロジェ様が頬を赤らめた。


「ロレッタ嬢はお美しいですね。」


ロジェ様がどこか熱のこもった視線で見つめてくる。


「ありがとぉ。」


私は笑顔の大盤振る舞いだ。ロジェ様がますます赤くなる。


「ロレッタ様、罪作りですわね…」


バーベナ様が呆れたような声を出した。バーベナ様もくいっと行けばいいのに~


「姉上。」


アルトがやってきた。


「あるとぉ。」

「お酒を召されたのですか?」


アルトはちょっと厳しい顔だ。


「ジュースと間違えたみたいなの。」


バーベナ様が肩を竦めた。


「早く連れて帰って。哀れな恋の奴隷が出来上がる寸前よ。」


アルトがロジェ様を見て顔を顰めた。


「姉上。帰りましょう。」

「あるとぉ。だっこ。」


私は両手を伸ばした。アルトは困った顔をした。


「ご自分で歩けませんか?」

「わかんないけどだっこがいい。ぎゅってして?」


アルトは悶絶しながら私をお姫様抱っこした。私はギュッと首筋に抱きつく。アルトのいい香りがする。夢見心地だ。家に帰ってからはお母様に叱られたけど。




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