表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

初めてのモンスターその2

「ちょ、ちょっとアルク君!いきなりどうしたのっ!」

「…モンスターが泣いてる」

「えっ?」

「モンスターが泣いてるんだっ!だから助けてあげなきゃ!」


 人ごみをすり抜けながら俺はエレナを連れて走っていく。

 声がどんどん大きくなり、徐々に声の元へと近づいているのが分かる。


「この方向って…」

「エレナ!心当たりあるのっ!?」

「う、うん、この先は…」


 モンスター市場を走り抜けた先に大きな門とその奥に建物が見えてきた。

 建物の中から大きな歓声が響いて伝わってくる。


「もしかして、ここ闘技場か?」

「はぁはぁ……えぇ。アルク君のお父さん、セルゲイさんも活躍してた場所ね」


 俺に連れられて走ったせいで息が上がっているエレナが答えてくれた。

 ここが闘技場。父ちゃんがパートナー達と一緒に戦ってた場所。そう聞くだけで早く入ってみたくなる。

 でも、俺は今そのためにここに来たんじゃない!


「ふぅ…それでアルク君、声が聞こえたって本当?」

「うんっ!もうすぐ傍のはず……こっちだっ!」

「ちょっ!着いて行くから引っ張らないでー!」


 エレナの声もちゃんと聞こえていたけど、俺はすぐにでもそこにたどり着きたかった。あんな声で鳴いているモンスター、俺は初めてだ。だから……!


 たどり着いたそこは、闘技場の裏手で建物の影となっており、人通りが殆どない場所だった。


「この役立たずっ!いくらでてめぇを買ったと思ってんだっ!!」

「ピィッ………ピィッ…」


 そこには一匹の鳥獣族モンスターが横たわっており、1人の男に蹴られていた。 

 遠めにしか分からないがモンスターは所々怪我をしており、血も出ているようだった。


「おいっ!!お前何してんだっ!!」

「あぁ…?なんか用か、ガキ?」

「そのモンスターが泣いてる声が聞こえた!だから俺はここに来たんだ!」

「はぁ?何訳のわかんないこと言ってんだ?」


 俺はその男の言葉を無視してモンスターの元へと近づいた。

 近づいて傷を見てみると、全身の切り傷と打撲痕が目立つ。息も荒くなっており、弱っているのがよくわかる。


「っ…酷い傷だ…早く手当てしないとっ!」

「おいっ…人のもんに何手つけてんだ?ゴラッ!」

「ぐっ…」

「きゃっ!?」


 男から突然蹴りを入れられ、エレナのいるほうへと飛ばされた。

 エレナが駆け寄ってきて俺の肩を支えてくれる。


「貴方達、こんな子供にまで手を出して恥ずかしくないのっ!」

「あぁ?そのガキがたまたま俺が躾してたコイツの前に転がり込んできただけだろ?別にソイツを蹴ろうと思ったわけじゃあねぇんだ。許してくれよ、おじょうちゃん!ははははっ!」

 

 男は俺達へと話しかけながら、醜い顔で笑っていた。その態度にエレナの表情も強張っている。俺も…自然と握っていた拳に力が入った。


「そんな方便通用するとでもっ!」

「おじょうちゃん知らないのか、人のモンスターに手を出しちゃいけないって?モンスター持ってるやつの一般常識だろ?」

「それは……でも、そんな方法が躾だなんてありえません!」

「それはおじょうちゃんが勝手に決めたことだろ?てめぇの理屈を人様に押しつけんじゃねぇよ」

「っ……」


 その男の剣幕にエレナがおびえているのが分かる。手も足も震えている。だけど、エレナは一歩も後ずさったりはしていなかった。


「…あなたもブリーダーならモンスターと共に生きる大切さは分かるはずでしょ!彼らがどれだけ私達を信頼してくれているか!どれだけ私達に力をくれるか!」

「……はぁ…話になんねぇな。モンスターなんてただの金稼ぎの道具だろ?」


 その言葉が俺の中で何かがぷつんと切れた気がした。立ち上がり、一歩ずつ男の下へと進んでいく。


「……道具?」

「あぁ、道具だよ!闘技場で戦って、勝って、賞金を稼いでもらう。ただの道具だ。だから……」


 そう言って男は右足を一歩下げて蹴りの体制に入った。足元に横たわっているモンスターへと向かって。


「コイツみたいに弱いやつはいらねぇんだよ!」

「やめてっ!」


 ゴスッ


 鈍い音が響く。が、モンスターへと蹴りは当たっていない。

 俺はモンスターへと蹴りを入れられる前に自分の身体を滑り込ませた。

 

「アルク君っ!?」

「てめぇ……邪魔しやがって!……っ!?」

「おい……お前今コイツのこといらないって言ったよな?」


 蹴りを防いだ左の腕が痛む。

 だがそれも気にせず俺は左手で相手の足を掴んで握り締める。


「あぁっ!?」

「モンスターの事、道具って言ったよな…?」

「ぐっ…」

「父ちゃんは言ってた!モンスターは俺達の大事なパートナーで家族だって……決して道具なんかじゃない!」

「いででででっ!」


 握りしめた手にどんどん力が入っていく。握り締めても握り締めても足りないくらい。それだけ、この男の言葉には腹が立った。


「それに、弱いモンスターなんていない!俺達がちゃんと愛情を持って育てて、一緒に戦っていけば、モンスターは必ず応えてくれるって!」

「ぐっ…わかったわかったっ!分かったから手離せ!」

「アルク君っ!」


 エレナが肩をつかんで呼んでくれている。俺はまだまだコイツに言いたいことがあったけど、このまま掴んでいてもしょうがない。ぱっと手を離し、その勢いで倒れた男の前に立った。


「お前がいらないとか言うんだったら、このモンスター、俺がアンタから買う」

「はっ?」

「このモンスターは俺達が責任持って育てる。だから、ちゃんと大会を見に来い。アンタが間違ってるってコイツと俺達で教えてやる!」

「……ちっ……商売ならいいだろうよ。だがちゃんと金は払えよ」

「うるせぇ、いいから早く売ってどっか行け」

「くそっ……」





 男に言われたとおりの金額を払うと、男はそのまま一瞥もせず立ち去っていった。

 金に関しては母ちゃんから貰っていた金で事足りた。ってかそれでもまだ余っている位だから結構な金額だったんだろう。


「アルク君、大丈夫?ごめんね、私何も出来なくて」


 エレナが申し訳なさそうな顔で俺を見ていた。


「なんでエレナがそんな顔してんのさっ!エレナだって大人の男相手に引かずにちゃんとはっきり言っててかっこよかったよ!」

「アルク君…ありがとう」

「あと、ごめん、エレナ!勝手に決めちゃって!でもどうしても俺我慢できなくて…」

「…ううん、いいのよ。そんな、モンスターを大事にしてくれる真っ直ぐなアルク君だから私もお手伝いをお願いしたんだし」

「へへっ、そっか」

「それより、早くこの子の傷を治してあげましょ?」

「そうだった!じゃあ急いで連れてかなきゃな!」


 俺はそのモンスターを担ぎ上げるとエレナの方向へと向き直った。エレナはその様子に少しぎょっとしていたが、すぐにくすくすと笑い始めていた。


「エレナ、どこに行けば良いんだっ!?」

「ふふっ、こっちよ!ついてきて!」


 こうしてエレナの案内する場所へ、初めてのモンスターと一緒に俺達は向かっていった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ