初めてのモンスターその1
サルサには母ちゃんの手助けをして欲しかったから、カーニュベイルの船着場で別れていた。
だから今はエレナとの二人旅。
昔から一緒だったサルサと別れての旅は少し心細くもあったけど、今はこの先のことが楽しみで仕方がない!
船の上でエレナに色々な話を聞いている間にあっという間に2日が経ち、目的地へとたどり着いた。
「おー!!ここがレルメールかー!!」
船から飛び降りて辺りを見渡す。
人もモンスターも大勢いてとても活気に溢れている。
「こんなに大勢の人やモンスター、俺初めて見たよ!」
「今いる場所はこの街でもにぎわっているところだからね。港だから人や物の出入りも多いし、少し離れた広場では大きな市もやってるのよ」
「そっか!そっちも楽しみだなっ」
グゥ~
「ふふっ、でもまずはご飯を食べようかしら?」
「へへ、そだなっ!」
初めての船旅や周りの景色に夢中になっていて気づかなかったけど、船に乗っている間もそんなにご飯を食べていなかったことを思い出した。
エレナの誘いもあり、まずは二人で食事をとることにした。
「いらっしゃい!あら、エレナちゃん!」
エレナに連れられて訪れた店は、大勢の客でにぎわっている。
サルサ位のサイズのモンスターも一緒にご飯を食べていた。随分美味しそうに食べていて思わずよだれが出てしまう。
テーブル席やカウンター席がある中、カウンターの向こう側からエレナへと声がかかる。
それに応えるかのようにエレナは軽くおじぎをしていた。
「こんにちはマーレさん」
「随分久しぶりねぇ!元気にしてたの?ってあら、そっちの坊やは?」
「紹介します、彼はアルク君。今日から私の牧場を手伝ってくれることになったの」
「こんちはっ!」
「あら、元気が良いねぇ!おばちゃんアンタみたいな元気の良い子は大好きさ!しっかり食べて大きくなるんだよ!」
おばちゃんに頭をぐしぐしとなでられる。豪快だが優しい手でどこか母ちゃんに似ている手だ。自然と俺も笑顔になる。
「うんっ!分かったよおばちゃん!」
俺の返事におばちゃんもにっこりと笑ってくれた。
「はははっ、良い返事だ!…で、エレナちゃんこの子が本当にアンタを手伝ってくれるのかい?元気はいいけどおばちゃん少し心配だよ?」
「あはは…でも、大丈夫です。アルク君は凄い子ですから」
「そうかい。エレナちゃんがそう言うんだからあたしもしっかりと応援してあげるさっ!さっ、アルクの坊やもエレナちゃんも好きなものをお食べ!ご馳走してあげるわ」
「ありがとうございます、マーレさん」
「ありがとっおばちゃん!」
その後はおばちゃんが出してくれる料理を沢山食べさせてもらった。
お腹いっぱいで満足になったところでおばちゃんにお礼を言って外へと出た。
「アルク君、あんなに食べて大丈夫?」
「大丈夫大丈夫!」
「そっ、じゃあ次はモンスター市場に行ってみよっか?」
「モンスター市場?」
エレナの言葉に頭の中に?マークが浮かぶ。
「まぁ名前の通り、モンスターのやり取りをする市場のことよ。牧場で生まれたモンスターがそこにはいて、色々な人がそれを求めてやってくるの。私達みたいに牧場で育てたいモンスターもそこで見つける人が多いわ」
「じゃあこれから俺達が育てるモンスターを見に行こうってことなんだな!くぅ~楽しみだっ!」
「そうね、私にとってもアルク君にとっても大事な子になるからしっかり見てみよっ?」
「おー!」
エレナへとモンスター市場に連れられるまでに色々な話を聞いた。
最初に教えてくれたように、そこにはモンスターが沢山いて、それを売り買いする人がいる。
俺達みたいに、育てて戦ってもらうモンスターを欲しがる人もいれば、普段の生活の助けになるモンスター(例えば、力仕事を行ってくれる、荷を引いてくれる、火や水を出してくれるなど)を欲しい人もいる。
ここで売られているモンスターは、基本的に牧場で育ててから売りに出されていることが多いが、一方で知性の高いモンスター達自身がそこで自分の仕事を探していることもあるそうだ。
「さぁ、ここがモンスター市場よ」
「うぉぉぉっ!モンスターがいっぱいだー!!」
そこは見渡す限りにモンスターがいて、モンスターの鳴き声や商人の声でにぎわっていた。
「今日はここで私達が今後育てるモンスターを探しましょ?」
「そうだなっ!」
辺りを見ると、鳥獣族や獣族、岩石族、妖精族など様々なモンスターがいる。
モンスター達は自分の出来ることをアピールするものや、単純に客との会話を楽しんでいるものもいた。
「アルク君は育てたい子とかいるの?」
辺りの様子に気をとられながらも、エレナの言葉に父ちゃんが話していた事を思い出す。
「うーん、父ちゃんは初心者は獣属のモンスターが育てやすいって言ってたよ?人懐っこいし、しっかり育ててあげれば凄くマスターを信頼してくれるんだって!」
「やっぱりそうよね?」
「でもね、……っ!」
ふと聞こえてきた鳴き声に表情が強張る。ただの鳴き声じゃない、これはモンスターが泣いている声だ。
「…アルク君?」
ほんのかすかに聞こえる声を頼りにエレナの手を引いて俺は走り出した。