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救世のカルマ  作者: 小御門 遊
魔導都市編
9/14

初夜

 

 次の日の朝、約束通りボガートが村に詫びを入れに来た。

 案の定村人からボッコボコにされたボガート。自業自得とはいえ少し可哀想に思った。


 顔の大きさが倍になったあたりで流石に村長が止めに入った。

 ボガートは村長と話し合い、今後村の為に働く事で許してもらったようだ。


 その様子を見ていた俺は、魔族と人間って相容れない事もないんだなと思った。


 それを見届けた後、俺とニーアはカーナリーナを発った。

 という事で今は次の町を目指す道中である。


 俺はステータスを確認する。

 昨日天使に七つの美徳として任命されたと同時に、俺達は能力(スキル)を獲得したのだ。


 _  _  _  _  _  _  _  _  _  _  _  


 名前:フルイチ ユズル(古市 譲)

 職業:-

 称号:『謙譲』の美徳

 能力(スキル):【身体操作】、【超反射(リアクト)】、【無能証明(アンノウン)】、【雌伏雄飛(ハンブルカウンター)

 武器:-

 防具:聖徳高校制服


 _  _  _  _  _  _  _  _  _  _  _   



 獲得したのは【無能証明(アンノウン)】と【雌伏雄飛(ハンブルカウンター)】だ。


 ただまだ効果はよく分からない。

 一個目の方は、誰が好き好んで無能を証明するんだと思うんだが。


 もう一つの【雌伏雄飛(ハンブルカウンター)】の方はというと、何となくやり返す系という事は分かる。


 ニーアも能力(スキル)を貰ったのかと思い尋ねると、鼻息を荒くして自慢してきた。

 一つが【看難診苦(プリデッドキュア)】という、超回復能力らしい。

 これのおかげであの時回復してたんだな。


 もう一つ、【痛快無比(ダメージンググレイス)】。こっちはよく分からん。とりあえず回復系だろう。

 ところで能力(スキル)にネーミングしてるのは天使なのか? あいつらノリで名付けてるんじゃないだろうな。


 俺から聞いといてなんだが、仲間とはいえ明け透けに語ったニーアにメランコさん譲りの忠告をしておいた。

 田舎に住む彼女らは能力(スキル)とはほぼ無縁で、その辺に疎かったようだ。


「ま、まさか。ユズル、裏切る気ですか!?」と慌てるニーア。


 とりあえず不敵な笑みで返しておいた。



 さて、俺達が今どこに向かっているのかというと話は昨夜に遡る。


 宴の後、俺は次の美徳を探すため村長とキンドアさんに尋ねた。


 とにかくこの世界での分からない事がまだ多い。俺は常識のある頭のいい奴が必要だと思った。ニーアにそういったインテリジェンスは期待できない。


 世間知らずの二人では次の町を探すのも一苦労だ。円滑に旅するために最も知的そうな美徳を優先して探すべきだろう。


「ということで、次は『勤勉』の美徳を探したいんです」

「……ふむ。では魔導都市マナヴィタリアを目指すとよいじゃろう」

「魔導都市……!」

「確かに、勤勉を司る天使ウリエル様を信仰する町の中では一番大きいね。ここからでも四日ぐらいで着くと思うよ」


 そうしてキンドアさんはそこまでの地図をくれた。


 てな訳で現在、魔導都市マナヴィタリアを目指している。

 カーナリーナには馬車の斡旋所などは無い。とりあえず徒歩で隣町へ向かっているところだ。


「そういえばさ、ニーアの(カルマ)って何なんだ?」

「い、今はまだ教えられません!」

「そうか、まあいいけどさ。このまま俺と旅することになって達成できるものなのか?」

「はい! それは問題ないのです!」

「そっか。ああ、後お金の事なんだけどさ。金貨って一枚どれくらいの価値なんだ?」

「そうですね、金貨一枚で銀貨二十枚、銅貨なら百枚です」

「……じゃあさ、宿屋に一泊しようと思ったらどれくらいが相場なんだ?」

「他の町はあまり知らないですが、ニーアの村だと銀貨三枚くらいですかね」


 貰った巾着には金貨が百枚ほど入っていた。……ニーアには言わないでおこう。


 それから半日程歩くと町に到着した。そこまで大きな町ではないが活気のあるところだった。今日はここで一泊しよう。


「ニーア、これ」

「! おこづかいですか!」


 一応建前上ニーアの小遣いとして頂いた訳だ。その中からとりあえず金貨五枚を渡した。


「はわわ!? こんなに貰っていいのですか!?」

「ああ。ただ一遍に使うなよ。目的地に着くまでもうあげないからな」

「あの! ニーア、お買い物してきてもいいですか!?」

「ああ、行ってこいよ。俺は宿でも探しとくわ」


 言い終わる前に飛び出して行った。忙しない奴だ。

 町というだけあって賑わう市場なども見えた。見て周るだけでも充分楽しそうだ。

 店の前に並んだ値段の書いた看板には、『一つ 3エール』などと書いてある。俺はエールというのが通貨単位なのだと理解した。


 そういえば下着の替えが無かったな。俺は衣類を取り扱っている店を探し、適当に数枚見繕った。

 帰り際女性物の下着コーナーが目に入る。ブラとかもあるのかと感心していると、熱心に下着を手に取り選んでいるニーアが見えた。中々攻めたピンクのぱんつだ。少し顔を赤らめながらまじまじと凝視している。俺はすぐに顔を背けるが少しばかり罪悪感に襲われた。


 それから程なくして宿を見つける。ニーアの住んでいた村の宿よりかなり小奇麗だ。

 看板には『一人部屋 25エール、二人部屋 40エール』と書いていた。

 幾つか並んでいたので他の看板も確認した。だがあまり差はない。最初のが一番安いかな、と思っていると一際安い看板が目に入る。


『休憩 10エール ~ 、宿泊 25エール ~ 』と書いてある。

 その外装は他とは趣が違いまるで城をイメージしたようで、宿の名前は『ホテル ラブキャッスル』と書いて……って違う!! こんなとこ泊まったらいけません!


 俺は赤面しつつ踵を返す。すると腕一杯に荷物を抱えたニーアが居た。


「ユズル? 顔、赤いですよ?」

「き、気のせいだよ!」


 _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ 


 俺達は最初の宿屋に入ることにした。


「いらっしゃい! 二人かい?」


 元気に声を掛ける店主。町の人を見ても思ったが、カーナリーナの人と服装はそこまで差異は無い。ただ彼らより質の良い布を使っているようで、外装と同様に小奇麗な身なりだ。


 店主に聞かれ部屋を選ぶ。二人なら当然二人部屋の方が安い。だが俺達は若い男女だ。同じ部屋に泊まるのは良くないんじゃないか?


「どうするニーア? 別々の部屋の方がいいだろ?」

「? どうしてですか? 二人部屋の方が安いですよ?」

「……そう、だな」

「また顔赤くないですか?」

「う……うるさい」


 俺は店主に二人部屋で申し込む。すると店主はニヤついて『ラブキャッスル』の方じゃなくていいのか? などと言ってきた。思いっきり睨むと慌てて5エールまけるから許してよと申し出てきた。


 俺は金貨で支払う。すると店主は少し驚き、まけたことを後悔したのか苦虫を噛み潰したような顔をした。

 銀貨十五枚が返ってくる。


「……ごゆっくり」


 _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ 



 宿の部屋はそこまで広くはなかった。だがニーアの村とは違いちゃんとしたベッドだ。柔らかいという程ではなかったが、カーナリーナの木と藁のベッドよりはよく眠れそうだ。田舎以外はこれが普通なのかもしれない。


 それと驚いたのが天井に照明が付いていたことだ。この世界には電気エネルギーがあるのだろうか。

 ちゃんとシャワーのついた浴場もある。カーナリーナにもあったが水を浴びるところと石鹸があるくらいだった。火を沸かしてお湯は作れたが。文化レベルはかなり違っているようだ。


 ニーアはというと驚いてはいなかった。キンドアさんは商人。お金持ちだろうから家のベッドもこんな感じだったのだろう。それにこの町には買い物で何度も来ていたようだし。


「ニーア、あの照明どういう仕組みか知ってるか?」

「細かい事は分からないです。だけど魔導具ってことは分かります」

「魔導具?」

「魔法が込められてるらしいですよ。ただニーアは魔法を見たことありませんので、よく分からないです」


 なるほど。マナヴィタリアまで行けば色々分かりそうだな。


「……それでニーアよ。随分たくさん買ってきたんだな」

「はい! それはもうたくさん! おかげでサイフは空っ……何でもありません!」


 恍けた顔で口笛を吹くニーア。額から冷汗がよーく見えた。


「……そんなすぐ使う子にはもうあげません」

「そ、そんな!」


 布類が六割。食べ物が三割。何か小物が一割といった感じか。

 ニーアはどうやら渡した分全部使ってしまうタイプのようだ。


 親から自由になったことで溜まっていた鬱憤が解放されたのかもしれない。……今回だけは多めに見よう。


 それからニーアが買って来た物の解説を受けながら晩御飯を食べた。宿に飯が付いており、パンと小さな肉を焼いたものとスープだった。この世界に来てパンしか食べていないのでそろそろ米が恋しくなった。


 食べ終わるとニーアはせっせと裁縫を始めた。どうやら家から持ってきていたようだ。

 手持無沙汰になった俺は、風呂に入ることにした。まあ湯船は無いのだが。


 男の風呂はそう長くない。十五分くらいで出るとニーアはまだ作業中だった。しかしもうウトウトし始めていた。


「眠くなったならニーアも先に済ませたらどうだ?」

「あ……そうします……」


 手を止めてふらふらと風呂場へ向かうニーア。

 脱衣所から服の擦れる音がする。……俺ってこんなに耳が良かっただろうか。


 それからシャワーの水の撥ねる音がしきりに聞こえ、悶々とした時を過ごす。

 気を紛らわそうと机の引き出しを開ける。すると聖書のような物が入っていた。

 こっちでも一緒なんだなと笑みがこぼれる。


 開いてみるとそこにはラファエルについての内容がほとんどだった。この町も忍耐の信仰領域なのだろう。


 しばらく本を読んでいると、脱衣所の扉が開いた。ニーアが顔だけ出している。のぼせたのだろうか真っ赤な顔だ。


「どうした?」

「あの……言いづらいんですが……。タオルと、その、替えの……、服! を取ってくれませんか」


 そういえばふらふらと真っ直ぐ入って行ったと思ったら、手ぶらだったな。

 俺は部屋に備え付けのタオルとバスローブを手に取る。


「あ、あと、その……、し、下着も、取ってくれませんか……」


 …………。何ですと?


「わ、分かったけど、どこだよ?」

「そ、その、紙袋に入ってます。どれでもいいので、お願いします……」

「ああ、これか」

「あ、あの! 見ないで取ってくださいね!」


 そんな無茶な……。紙袋はニーアのベッドの上にあった。俺は目を瞑り袋をまさぐる。

 掌にそれらしき感触を覚え引き抜く。薄目を開けて見るとそれは先ほどニーアが熱心に見ていた、まるでニーアの髪色を思わせる桃色のぱんつだった。


 それをえっちな本を買う中学生のように、タオルとバスローブの間に挟んで渡す。ニーアは脱衣所から水の滴る腕を露わに手を伸ばして受け取った。


「あ……ありがとうございます」




 それからニーアは中々出て来ず、出てきてからはお互い気まずくなって顔を合わせられなかった。

 この空気に耐えられなかった俺達はすぐに明かりを消して寝ることにした。


 お互いそれぞれの布団に潜り込む。日中は賑やかな町といえども夜は静かだ。

 聞こえるのはお互いの息遣いだけ。さっきの事もあり異性と同じ部屋で寝ていると考えると、どうしても意識してしまって眠れなかった。


「な……、何だか恥ずかしいですね……」


 どうやらニーアも同じようだった。だから部屋分けるかって言ったんだぞ。


「な、何も見てないから」

「は、はい」


 再び訪れる沈黙。鼓動の音がうるさい。見てないと言いつつ選んでいるところまで見てしまっていた俺は元気になった布団の中のそれを必死で隠した。明日はどうしようか。このまま同じ部屋に泊まって俺は保つんだろうか。


 悶々とした俺の隣から穏やかな寝息が聞こえてくる。半日歩いたのだ。疲れが溜まったのだろう。

 その寝息で毒気を抜かれた俺も、身体に残る甘い気だるさに身を任せやがて眠りに落ちるのだった。


 __ __ __ __ __ __ __ __ __ __ __ __


 目が覚めるとニーアは既に起きていた。


「あ、おはようございます!」

「ん……おはよう。早いな」

「いつもの癖で早く目が覚めてしまいました」


 これまでは朝早くから家事などで大変だったのだろう。

 ニーアは昨日途中だった裁縫を再開しており、どうやら完成したようだ。青い厚手の布で出来たそれは腰に着ける感じのポーチだった。


「おお、上手いもんだな」

「ありがとうございます。これ、ユズルにあげるのです」

「えっ、いいのか」

「はい! そのために作ったのです!」


 健気な少女からの贈り物に素直に礼を言う。身に着けてみるとそれはサイズを変えるまでもなく俺の腰回りにちょうどフィットした。


「すごい。ぴったりだ」


 俺がいつの間にサイズを計ったのかと不思議そうな顔をしていると


「初めて会った時に触って確認済みです」


 あれか。しかし採寸用の道具など持ってなかったが。


「ある程度見ただけでも大体分かるです」


 どうやらニーアの特技の一つのようだ。



 それから適当に朝食を済ませて部屋を出る。

 宿のフロントには昨日の店主がホクホク顔で立っていた。


「昨夜はお楽しみでしたね!」

「語弊のある言い方はやめてもらえますか」


 この人いつかセクハラで訴えられるんじゃないだろうか。ニーアは何のことだか分かってないようだが。

 俺は「色欲の罪に問われても知りませんよ」と捨て台詞を残して足早に宿を出た。


 その俺達に続いて店主も出てきた。何だと思って見ているとそのまま一番奥の大人の城に入って行った。

 ……どうやらあそこの店主もあのおっさんらしい。


 ……道理で。


 呆れつつ俺達は次の町に向かうのだった。




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