旅立ちのメランコリィ
二日以内で一話を目標に。
追記:この世界での死の設定を補足しています。
「救世の業………」
救世って……、まさか。
「世界を、救えってことですか?」
「憂鬱なことに、その通りだね」
ハードル高っ。
けどこれって……。
死に際に唯も同じような事を言っていた。元よりやるつもりだったのだ。
話は早い。この世界で為すべきは一つって事だ。
「これは恐らくS難度クラス……。手に負えないレベルだよ……」
メランコさんは頭を抱え、この世の終わりのような顔をしている。
まるで自分が当事者かのようだ。
「こんなレベルの業でないと戻れないって……。君は一体何者なんだい……? まさか君がラジエル書の……」
「いやいや! 僕はただの高校生ですよ!」
メランコさんは口に手を置き、思案している様子だった。
何か呟いていたようだが小声でよく聞こえなかった。
神の手違いか過大評価だろうに。それとも嫌がらせか?
とりあえずこの業について聞く事にした。
「それで、具体的に何をすればいいんでしょうか?」
「うん。乱暴に言うと、大罪たる魔王を倒して回るんじゃないのかな」
「いや、スタンプラリー感覚で言わないで下さいよ」
「あ! おじさんはもう抜けてるから! 退治しないでくれよ!」
手を突き出して待て待てとポーズを取るおじさん。
流石に初期ステータスで元魔王に挑むような真似はしないよメランコさん。悪い人でも無い様だし。
というか何人も居るんだよな。全く、ジムリーダーじゃないんだから。魔王なら一人で勘弁して欲しいものである。
こちらに戦う意思が無い事を察したのか、安心した様子のメランコさん。再び説明を始めてくれた。
「この世界では二つの勢力が対立していた。
人々を罪へと誘い、その勢力を増やさんとする者達、魔族。その長たる魔王の連合『八つの大罪』、現在では『七つの大罪』なんだけど。
それに対抗すべく天使が集めた者達が、人々に徳を教え導く存在、『七つの美徳』だ。
半世紀ほど前の事だ。おじさんは中立を宣言していたから巻き込まれなかったんだけど、聖戦が勃発したんだ」
『八つの大罪』は『七つの大罪』の前身だったのか。
「戦争が……」
「そうだ。仕掛けたのは美徳側だったと言われている。その戦争の末、勝利したのは大罪側だった」
おいおい、仕掛けといて負けちゃったのか。
「美徳側はほぼ全滅。『純潔』だけは生き残ったが、その身柄は大罪側にあるとも言われている」
「ぜっ……、全滅!?」
「ああ。一方大罪側は『強欲』と『色欲』が重傷、『憤怒』と『傲慢』が消息不明になった。健在とは言えないが概ね戦力は維持していると言えるね。
終戦を機に、『憂鬱』だったおじさんは大罪を辞める事に。代わりに『嫉妬』が加わったそうで、現在の『七つの大罪』へと再編したようだね」
「という事は、今この世界は大罪に対抗する者が居ない……と?」
「ああ。聖戦の影響で世界は大きく調和を乱している。かなり魔族が増えて、大罪はその勢力を増しているよ。全く、憂鬱なこった」
即ち五人ないし七人の魔王を、味方のいない状況から倒さなくてはならないのか。
どうしよう。思っていたよりスケールが大きすぎる。無理ゲーな気がしてならない。
と言うか、俺以前に戦うべき奴が居るんじゃないか?
「その天使とやらは戦わないんですか?」
「彼らは此処より一つ上の次元である天界に居るからね。直接的には干渉できない。さっき聞こえた音声は天使たちの物だ。ああいう形でこの世界を管理する立場にある」
一つ当てが外れてしまった。奴らめ、上で見ているだけとは……。
だがまだ期待出来る物がある。
「そういえば、さっき能力がどうとかって言ってましたよね? こんな大仰な業を課せられるくらいですから、僕にも何かチート能力があったりするんでしょうか?」
「それは今のおじさんでは解らない。他人の能力は能力の力無くして勝手に知り得ないんだ。自分では解るようになってる筈だから、ステータスを確認してみるといいよ」
メランコさん曰く、自分の情報を表示しようと念じるだけでいいらしい。言う通りにするとステータス画面が脳内にゲームが如く表示された。
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名前:フルイチ ユズル(古市 譲)
職業:-
称号:-
能力:【超反射】
武器:-
防具:聖徳高校制服
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職業の欄が空白なのは、なんかアレだな。多分魔法使いだとか盗賊だとかがそれに当たるんだろうけど。これじゃあまるで無職だ。……まあ実際この世界ではそうか。
一応能力があって安心した。どんな能力だろうか。
見た感じそんなに強そうではない。どうも自分から仕掛ける類では無さそうだ。
メランコさんに尋ねようかと思って視線を向けると、彼は首を横に振った。
「能力はおいそれと他人に教えるものじゃないからね。ゆっくり自分で試行錯誤するといい」
なるほど。どこから漏れるか分からないし、自衛の手段は秘匿すべきかと納得した。
「能力って誰でも持っている物なんですか?」
「能力は生前の行いによって決定づけられるんだ。だから村人レベルに転生するような人間には無いね。ただ、後天的に得ることは可能だ。冒険者ギルドに集まるような人間は程度の差こそあれど大抵は持っているよ。ただ大罪に対抗し得るのは美徳しかいない。だから君は美徳を探し出して集めるべきじゃないかな」
まさか俺の【超反射】とやらはツッコミから来てるんじゃないだろうな……。
「でも美徳はもう死んだんじゃ?」
「七つの美徳というのは天使から与えられる称号だからね。彼らに徳を認められた者が任命される訳だ。
今はこんな情勢だから徳が発現しにくいけど、その素養を持つ者がどこかに居るはずだよ」
つまり居ないから一から自分で探せってことか。長い旅路になりそうだ。
「あと、ちなみにだけど。死ぬと記憶も業も含め初期化。またこの世で赤ちゃんからやり直しだから気を付けてね。」
「……それって」
「そう。つまりは君という存在の消滅。ははっ。憂鬱なこった」
魂は死せずとも自分という存在は死ぬ、か。あの世と変わらず、死んだら終わりって事だな。
そう思うと、一度死んだ事で麻痺していたのか、死への緊張感が再び芽生えた。
「そうだ、一つ君に能力を授けようじゃないか。と言っても、直ぐに習得できる様な基本能力だけど」
「えっ! いいんですか? と言うか、他人に教えられる物なんですね」
「減るもんじゃないしね。勿論各々にしか使えない限定能力は不可能だけどね。手を出してごらん」
促されるままに手を差し出す。メランコさんは俺の手を握り、握手のような形だ。
「……!!」
握っている手が光を帯びる。すると何かが身体に流れ込む感覚がした。
「【身体操作】の能力だ。身体に馴染めば、幾らか素早く体を動かせる。試してみなよ」
試しに少し走ってみたり、飛び跳ねてみたり、正拳突きをしてみたり。
初めは余り変化を感じなかったが、しばらく続けていると目に見えて体の動きが速くなったのを感じ取れた。
俺は嬉しくなり辺りを走り回った。
超人的とまではいかないが、オリンピック選手にでもなったかのような感覚だった。
和やかな顔でそれを眺めていたメランコさんだったが、思い立ったように声を掛けてきた。
足を止め、メランコさんの傍に戻る。
「どうだい?少しお腹が減ってきたんじゃないか?ご飯にしようよ」
おじさんのお腹が空いてきただけだけど、と言いつつピクニックセットの様な包みを開きだす。
今日はピクニックだったのだろうか。見かけによらず結構お茶目な人だ。
包みを開くとサンドイッチのような物が入っていた。もしかしたらあまり食文化は変わらないのかもしれない。
「カツサンドですか?頂きます。」
「これは豚人サンドさ。結構イケるよ」
「ぶっ!!」
前言撤回。カルチャーショックだ。別の意味でメシテロだった。
しかし味は普通に美味しいのが怖い。少し獣臭さはあったが。豚人のイメージを必死で振り払って食べた。
食事中、他にもスライムで作ったゼリーやマンドラゴラをすり潰したお茶なんかがあると教えてくれた。
気持ちの良い笑顔でそれらを勧めてきたが、丁重にお断りした。
腹ごしらえも終え、魔族って案外食べれるんだな等と考えていると、突然メランコさんの周りを光の粒子が覆い始めた。
<『ハルク・メランコリウス』の業達成を確認しました。これより転生の準備を始めます>
「すまない、どうやらおじさんが教えるべき事はここまでの様だ……」
いきなり別れの時は来た。
正直まだ教えて欲しい事はあった。それにもしかしたら俺の業を手伝ってくれるんじゃないかと淡い期待を抱いていたのだ。
しかしこれはこの世界の摂理らしい。
俺は礼を言い、別れの言葉を述べると、メランコさんは笑顔で頷いた。
「じゃあ、お別れだ ユズル君。君の業に、憂鬱が降りかからない様、祈っているよ」
その言葉を最後に、メランコさんを包んでいた光の粒子は束になり、柱になって消え去った。
光の柱が消えた後、そこにはもうメランコさんの姿は無く、空になった弁当箱だけが残っていた。
さっき会ったばかりのおじさんだったが、俺はメランコさんが好きになっていたらしい。
もう会えないのかと思うと、何か心に空白ができたように感じ、胸が苦しくなった。
……来世では憂鬱に悩まされないようになるといいな、メランコさん。
しばらくの間、俺はメランコさんの座っていた岩に腰かけていた。
どのくらい時間が過ぎただろうか。陽は傾きかけ、風が少し肌寒く感じた。
いつまでもこうしては居られない。俺には為すべき事がある。
まずはメランコさんの助言の通りに美徳達を集めようと思う。
街や村から探すべく、その第一歩を踏み出す。
此処からだ。
此処から、俺の物語の始まりだ。




