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救世のカルマ  作者: 小御門 遊
魔導都市編
14/14

究極魔法

 

 大賢者アルマナヴィア。

『大賢者』とは魔法使い達にとっての最高位であり、最も優れた魔法使いを指した称号である。

 彼は魔導都市始まって以来最高の――初めて『魔導』を生み出した者であり、その意味では最初の――魔導士であり、魔法史に残る偉人であった。今は亡きマキナのお爺さんその人だ。


 彼が遺した魔法の一つに、<究極魔法>と呼ばれるものがある。

 自律学習型魔導機。魔法により機械の人形へ生命を吹き込む、『魔導』の極みである。


 彼の一族に伝わった<究極魔法(それ)>は恐ろしく複雑な魔法陣だった。一族の者は総じて高位の魔導士であったが、そんな彼らでも匙を投げるほど難解なものらしい。

 更にその魔法はまだ理論の段階であり、大賢者アルマナヴィアを以てしても完成してはいなかった。


 マキナはその<究極魔法>を完成させようと研究に勤しんでいるそうなのだ。



「私は人より遥かに魔力(マナ)が少ない。それだけでも魔法使いとして侮蔑されることだけど、それに加えて私は“大賢者の孫”だった。

 大賢者の孫なのに、って。周りだけじゃなく、御父様や御母様からも忌子として扱われ、一族の恥だと疎まれた。幼い私にとっては魔法が嫌いになるには十分な理由だったわ。だから魔法の勉強も嫌いだった」


 そう語るマキナの顔は悲痛に歪んだ。眩しすぎる光は濃い影を生む。その苦労は想像に難くなかった。


「だけど御爺様は違ったの。魔法使いとしての才能は魔力(マナ)の多寡ではない、魔法に限らず才能というのはその物事をどれだけ好きになれるか、頑張れるかだって仰ったの」


 ――――『魔法が嫌いで、魔法を遠ざける今のお前には魔法の才能が無いかもしれない。

 じゃが魔法を愛し、魔法と真摯に向き合うお前にはその才があると、儂は思う。

 その姿勢こそが儂らの信ずる『勤勉』じゃ』――――


「だから私は人の十倍努力したわ。自分の魔法の才能を信じるために。御爺様の言葉を真実にするために。実技面では勝てなくても、魔法の知識については誰にも負けないんだ、って」

「それで今は魔導士なんだろ? すげぇじゃん」


 そう言うと彼女は照れくさそうにゆっくり頷いた。


「御爺様は仰っていたわ。<究極魔法(これ)>はこの町を救う魔法になるだろう、って。この町を真に理解できた時、『勤勉』は実を結ぶだろう、とも。

 これはお前にしか実現できない、お前の為の魔法だって、そう言って私に託して下さった。

 あれからずっとこの魔法の研究を続けて、魔法陣の理解は出来たの。器となる機械人形も出来たわ」


 そう言って机の下から科学を思わせる人形を取り出す。だがその動力は勿論電気などではなく魔法なのだろう。この世界では魔法こそが最先端科学なのだ。


「でもこの魔法は多大な魔力(マナ)を必要とする。それをどうするかっていうのが今研究してる事なんだけど」

「楽しそうだな」

「ええ。この魔法を完成させることが出来れば誰もが私の才能を認めるでしょ? だから私の夢はこの<究極魔法>を完成させる事なの!!!」


 熱く語り終えたところで急にマキナが思い出したように恥ずかしそうにする。


「な、何よあんた!! 笑わないの?」

「笑うもんかよ。むしろ尊敬するし、俺は好きだぜ。そういう奴」

「んなっ……!!!」


 マキナは顔を赤くして押し黙った。……照れてるのか?

 ぐぐぐと聞こえ振り返るとニーアが悔しそうな顔をしていた。腹が減ったのだろうか?


「と、とりあえず今は詠唱を長くすることでアプローチしているの。今から試そうとしてたとこなんだけど、良かったら見ていく?」

「おお! 見る見る!」


<究極魔法>が成功したとなれば歴史的瞬間だろう。是が非でも見ておきたい。

 マキナは人形を一際目立っていた大きな魔法陣の中心に据え、静かに詠唱を始めた。



『業火を 赫灼たる燃え盛る焔の緋を 灰燼と化し



 暴風を 荒れ狂う未曽有の烈風を 真空に帰し



 雷轟を 轟き迸る(いかづち)の瞬きを 閃光で斬り



 水簾を 叩き落ちる無情の水塊を 激流に捕らえ



 頽雪を 激しく崩壊せし氷雪の重圧を 吹雪に呑み



 爆震を 響き渡る大地の喧騒を 割撃で黙らせ 



 森羅万象 天地万物 有象無象と魑魅魍魎を  無に帰さん――――――――






 ――――――――光は闇を照らし  闇は光を覆う



 紅は赤よりも朱く   蒼は青よりも碧し



 紅き月は 暁より来たれり  



 蒼き陽は 青天の霹靂――――――――






 ――――――飽くなき我が叡智は  理を求め 理を知り 理を極めん  




 真理に到達せし その深淵  幾星霜の時を超え――――――――――――』




「――いや長ぇわ!!」


 詠唱が始まって既に三十分は経過していた。流石に黙って聞いていられない。


「何言ってるのよ。まだ半分くらいよ?」

「なっ…………」


 お坊さんでも足痺れるレベルじゃねえか。


魔力(マナ)を補う分莫大な魔法陣か長い詠唱が必要って説明したじゃない」

「そうは言っても――」


 ぐーーーーきゅるるる。

 突如後方から腹部からの悲痛な訴えの声が聞こえ振り返ると、伏し目がちに赤面するニーアが居た。お経の如き詠唱には耐えられても、腹の虫には抗えなかったらしい。


「は、はわわ……」

「……そういえば私もお昼がまだだったわ。良かったら一緒に行く?」


 _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ 


 マキナに連れられて町の飲食店を目指す道中、彼女は歩きながらずっと本と睨めっこしている。

 ……二宮金次郎かよ。道理でそんな分厚い眼鏡をしてる訳だ。


「そういやこの町ってやたら綺麗に区画されてるよなあ」

「ふふん! それも御爺様の功績よ!」

「はは……。ホント御爺様好きなのな」

「ねえマキナ。この線って何なのですか?」


 不意にニーアが疑問を口にする。言われて注視すると確かに町の通りや建物に沿って線が引かれている。……どうみても意図は一つなので気にもしなかった。


「何って、区画の為の基準線に決まってるじゃない」

「はわ……」


 一蹴された。落ち込むニーア。


「あ、ごめんなさいニーア。気になったことは何だって聞いてくれていいのよ」


 慌てて宥めるマキナ。顔を上げるニーア。立ち直りの早い奴だ。



 やがてマキナの案内で飲食店に到着する。席に着き彼女に従い手早く注文を済ませる。

 注文を待っている間も必死で本を睨むマキナ。しばらくすると厨房からふわふわと料理が飛んで来た。


「すげぇ!」「はわわ!」


 恐らく町で見た<フワリ>だろうが、勝手に料理が運ばれてくるという見慣れない光景に驚き声を漏らす俺とニーア。

 だが相席の勤勉女子(マキナ)は一切反応しない。彼女にとっては日常なのだろうが、あまりに無感動である。それどころか彼女は料理を口にしながらも読書を止めない。知らぬ間に<フワリ>を唱えたのだろう。彼女の口元にどんどん料理が運ばれていく。

 ……『怠惰』からすれば夢の魔法なのではないだろうか。


「食べてる時くらい止めりゃあいいのに」

「あなたたちと話してたから少し勉強が遅れたのよ。少しでも取り返さないと」

「さ、さいですか……」


 食べ終わるまでで一秒たりとも本から目を離さないマキナだった。

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