魔法講義
「魔法の分類については解説済みよね。だからまず発動条件についてから始めるわ! 魔法を発動させるには『魔法陣』、『魔力』、『詠唱』の三要素が必要なの」
「ふむふむ」
「『魔法陣』を識っていて、『詠唱』を行っても『魔力』が無ければ発動しない。『魔法陣』と『魔力』が揃っていても『詠唱』しなければ発動することは無い。つまりどれか一つでも欠けていれば使えないの」
俺は大体解った。だが隣の生徒を見ると泣きそうな顔で頭から湯気が出ていた。……早くないか?
「……簡単に言うと、例えばニーア、あなたが石を投げるとするでしょ? 石を投げるという行為自体が『魔法陣』。石の大きさが『魔力』。そして石を投げる力加減が『詠唱』、といったところかしら。
投げるって事を知らなかったら投げられないし、投げる石が無かったら投げれないでしょ?」
そこまで砕いてもらうとニーアも理解できたようだ。満足してマキナは続ける。
「『魔力』についてはあまり説明要らないんじゃない? 魔法を使うための源泉、言わば燃料よ。……これは一番個人の才能で差が出る要素ね」
要はMPだよな。これはゲームに触れた事のある者であれば容易に想像できると思う。
「『魔法陣』はその魔法の構造や理論を表した図や文字列よ。魔法を覚えるにはまず魔法陣を理解しないといけないわ」
そう言ってマキナは先程描いていた魔法陣を指差す。その真円の中には見た事の無い文字や独特な図形が並んでおり、見るだけで俺達素人には難しそうと解る。
「後は『詠唱』ね」
マキナは「例えば」と呟いて先程描いていた魔法陣の一番小さいものを指差す。
『炎よ 我が望みに従い 着火せよ! <チャッカ>!』
マキナが詠唱を終えると指差していた魔法陣が光り、それが消えるとともに火が点く。町で見た魔法だ。だが町で見たときは唱える前に描かれていなかったような。
「これは料理や野営で火を点ける時なんかによく使われる、さっき言った狭義での『魔法』ね。この程度なら既に見てるんじゃない?
今みたいに魔法の『詠唱』には最低限『炎よ』みたいな主節と『着火せよ』みたいな動節が必要よ」
「『詠唱』にも法則があるんだな」
「ええ。次はより詳しい解説の為に同じ魔術を数回見せるけど、違いを見つけてみなさい」
魔術! てことは戦闘にも使える派手な奴か!
マキナは興味津々な俺達を見て得意気に構えて口を開く。
『烈風よ 我が望みに従い 汝に 吹き荒べ! <ウィンドブロー>!』
マキナが手を突きだし詠唱すると描いてあったもう一つの魔法陣がまた光って消える。すると部屋の床に散らばっていた紙類がマキナの傍から順に勢いよく舞った。ああ、風の流れがよく見える。俺は吹き飛んだ。
「……っ痛ぇな!」
まるで見えない鉄の塊で殴られたようで、風とは思えない衝撃だった。
「すごいです!」
ニーアは頬を手で覆い感動している。……ちょっとは俺の心配もしてくれ。
「ふふ、次行くわよ!」
『烈風よ 吹き荒べ! <ウィンドブロー>!』
今度は突き出した手の先に魔法陣が現れ俺は身構える。
「はわわ~」
ニーアは情けない声を出してよたよたと後ずさって尻もちをついた。見た感じ強風に煽られたようで身体が圧される程度だった。
「何か俺の時と違く――」『苛烈なる真空の息吹よ 我が望みに従い 我に仇なす者に 廻り集いて吹き荒べ! <ウィンドブロー>!!』
「ぐっは!!!」
俺の抗議の最中に詠唱が始まり、マキナの手の前から先程より大きな魔法陣が現れる。俺は一瞬の内に壁に叩きつけられた。
「……はぁ、……さっきからキツめのを、……はぁ……俺で実演するのやめろ!」
人にそんな危険な魔法を向けちゃいけません! ……まあ【超反射】で避けれなくも無いのだが。抗議の目をマキナに向けると彼女は肩で息をしていた。
「百聞は……、はぁ……、一見に如かずって……言うでしょ?」
「おい、大丈夫か?」
「はぁ……はぁ……、ま、分かり易くするために魔力多めに使ったからね」
やがて息の整ったマキナは解説を続ける。
「どう? 違いは分かったかしら?」
俺は身を以て体感したのだ。嫌でも理解した。
「えーと、まず、魔法陣を先に描いてたり描いてなかったりがあったよな?」
「そうね。魔法陣を理解して完全に暗記していれば今みたいに一々描かなくても魔法が使えるの。頭の中に描く訳だからね」
「描くのと描かないのとで違いはあるのか?」
「性能的には変わらないわ。けど暗記した方が発動にかかる時間が短いから有利よ」
「あの……」
ニーアがおずおずと質問する。
「魔法の本を見ながらはダメなのですか?」
「うーん、半分正解かな。見てもらったように魔法の発動の時に認識していた魔法陣は消えるの。
本に書いてある魔法陣を媒体に発動してしまうとその本の魔法陣が消えてしまうわ。
だから教本を見ながら使うと終いには白紙になってしまう訳よ」
「じゃあ予め自分で書いとけばいいんじゃねぇか?」
「そうね、自分で書いたものを魔本にして持ち歩く人も多いわ」
なるほど、絶対覚えていないとダメな訳じゃないってことか。
「他の違いは分かったかしら?」
「はいっ!」
ニーアが我こそはと勢いよく手を挙げる。
「ニーア君!」
「はいっ、えーと、同じ魔法でもニーアの時は短くて弱かったです!」
「そうね、正解!」
ニーアは俺の方を向いてどや顔をした。俺も分かってたけど。……可愛いから許そう。
「『詠唱』は短くする事も出来るの。だけど同じ魔力量で短くしたらそれだけ威力が落ちるわ。逆により長くする事で大きな威力を出せるのよ。
威力を変えなければ魔力消費を抑えることも出来るわ。詠唱の長さと威力は比例するって訳」
「さっきの、魔法陣の大きさも違ったよな?」
「お、よく見てたわね。『詠唱』同様、同じ魔法でもより大きく複雑な魔法陣にする程強力な魔法になるの。
威力上昇や消費魔力削減の意味を持つ文字列なんかを足していく訳ね。
勿論初めから強力な魔法はその分元々複雑よ」
さっきのどや顔はどこへ行ったのか、ニーアは頭を抱えて唸っている。そろそろ容量オーバーらしい。
「さっ、こんな感じかな」
質問はあるかという顔のマキナ。そこで俺はふと市場に並んでいた杖を思い出す。
「そういえば杖は使わないのか?」
細い棒だったり、がっしりした一本の木のような棒だったり、魔法使いと言えば杖を振ってるイメージだ。
「ああ、あれは魔導具の一種でね。杖自体に魔法陣情報がいくつか刻まれてるの。まあ、魔本の代わりよね。杖は壊れるまで何回でも使えるし。観光客なんかは使えないのに面白がって灯り代わりに買っていくみたいよ」
「光で魔法陣を映し出すから」とマキナは笑う。
光を出せるのか。もしかしたら部屋の照明も同じ技術が使われているかもしれない。
杖は基本的には魔法使い見習いに需要のある一方で、上級の魔法使い達が使う特殊な物も存在するそうだ。
何だろう。振るだけで魔法が使えたりとかするんだろうか?
それも気になったがそれ以上に気になっていたのがもう一つ。ヴィエラとの遣り取りの中で聞いた単語。男のロマンを感じさせるフレーズだ。
「あと<究極魔法>ってのが――」
「あ! 気になる? 気になるよね!?」
<究極魔法>と聞いてマキナは途端に目を輝かせて待ってましたと言わんばかりの顔で俺に詰め寄る。近い。顔が近い。鼻息が荒い。
マキナは捲し立てるように話し出す。あ、これ話長くなりそうな奴? 地雷を踏んだかもしれない。
助けを求めようと隣のニーアに目をやると、先の講義の影響か既にダウンしていた。
俺は諦め、マキナの熱の入った魔法談義に懇々と付き合わされるのだった。




