魔導都市
「お客さん、見えて来やしたぜ!」
あれから次の町に到着した俺達はそこから馬車に乗り約二日。いよいよ目的地へと到着しようとしていた。
「これが……魔導都市……!」
美しく区画された石造りの建物。ふわふわとあちこちに浮かぶ様々な物。目に見える全てが新鮮で、俺達の胸は高鳴った。
そして門の前に到着した俺達は馬車を降り、駆け足で向かう。
すると何だかピリッとした感覚に襲われた。だがニーアを見ると何とも無いような顔をしている。俺が不思議そうにしていると
「魔族除けの結界だ。気にすることは無い」
門には二人の門番が立っており、声を掛けてきた。なるほど。結界もあるのか!
門番は真面目そうな強面の男とだるそうにした軽薄な男だった。彼らは鎧や兜を身に纏い、長い柄の斧を持っている。
「名前と身分を示せ」
強面の男が言う。俺達は紋章を掲げて名前を言った。
「これはこれは。美徳様でしたか!」
「美徳様と言えども入場料の銀貨一枚は払って貰いやすぜ」
なるほど大きな都市にもなるとこういうのがあるんだな! 俺が感心していると強面の男がその相棒を睨んだ。多分この人は融通してくれようとしたんだろうな。俺はニーアの分と合わせて二枚支払う。
「どうもー」「ごゆっくり!」
また彼が軽薄な男を睨んでいたのを横目に見つつ門を抜けると、この世界に来てから最も異世界を感じさせる光景が広がっていた。
市場には杖や本など魔法で使いそうな物や、物珍しい道具や食べ物が立ち並ぶ。
人々は皆マントやローブを纏っており、一目で魔法使いであろうことが窺えた。
「あー忙しい忙しい!!!」
「どいたどいた!」
誰もが忙しなく動き回り、町には活気が溢れている。
「何か……すごいな、ニーア」
「はい……すごいです……」
俺達が圧倒されながら景色を見ていると
『炎よ 我が望みに従い 着火せよ! <チャッカ>!!』
通りの出店から呪文のような声がしたかと思えば、構えていた鍋の下に魔法陣が現れ火が点いた!
『風よ 我が望みに従い 浮遊せよ! <フワリ>!!』
声の主の跨っていたホウキから魔法陣が現れると、そのホウキが浮かび始め術者を空へと運んだ!
あれが魔法! 詠唱! 魔法陣!
これぞ異世界って感じだ! そこいらの人が普通に使っている。さっきの魔法は初歩的な部類なのだろうか。俺達にとっての非日常はここでは日常のようだ。
初めて目にする魔法に感動していると、何やら通りで騒がしい声。
「スリよ! 誰か捕まえてー!!」
叫ぶ女性の目線の先には鞄を抱えホウキで駆けるスリと思しき男。さっきの術者じゃないか!
その速度は走った馬と同じくらい速く追おうにも追いつけない。くそ、見てるしかないのか? 俺が苦い顔をしていると
「そこまでだ!」
同じくホウキに乗って駆ける同じ服装の二人組の男。特徴的な帽子を被っており、その中央には何か紋章が付いていた。彼らはその圧倒的なスピードで一瞬の内に犯人を囲い込み、
『鎖よ 我に従い 捕縛せよ! <バインド>!』
詠唱が聞こえ魔法陣が現れるとそこから鎖が飛び出し、犯人をあっと言う間に縛り上げた。
「この魔導都市で魔法犯罪を働くとは愚かな奴だ」
男は鞄を奪い返すと颯爽と被害者の女性に手渡した。その見事な手腕に辺りから歓声が沸いた。
「ありがとうございます!!」
「さすがこの町の警察隊だぜ!」
「彼らのおかげで安心して生活できるわ!」
「おれ、大きくなったら警察隊に入る!」
町の住人からかなり慕われている彼らはどうやらこの町の警察のようだ。さっきの手腕を見るに、この町の治安水準は高いレベルで保たれていることが理解できた。
一件落着したところで俺達はまず服屋を探す。というのは何もニーアの趣味の為だけではない。
前の町の服屋でのことだ。いつまでもニーアにパーカーを貸している訳にもいかないので服を探しに店に入ったところ、俺の着ている制服を店主が非常に物珍しそうに見てきたのだ。
店主が言うにはこの制服は魔導具だそうで。自己修復能力を搭載しており、何度破れても元に戻るらしい。
そんな衣類があるのならニーアにぴったりだと思い同様の服があるか店主に尋ねたが普通の服屋には無いと言われた。そこでここ、魔導都市の服屋ならあるんじゃないかと思った訳だ。
「いらっしゃい!! 本日はどういった物をお探しで!?」
店に入るなりチョビ髭のオシャレなおじさんが話し掛けてきた。
「おや、お兄さん中々良いスタイルをしてらっしゃる! こちらのローブなんて如何です? 今トレンドでして! ローブと言ったらゆったり感を出すのに少し大きめをチョイスするのが定番でしたが、今は何と言ってもコレ! やや小さめのサイズで身体のラインが出るほどの薄手なんです! 特にこれから暑いでしょう? 汗の吸収もバツグン! この時期のマストアイテムです!」
「えっと」
「あら、お連れのお嬢さんもとってもキュート!! そんなお嬢さん、こちらは如何? 先程のトレンドを取り入れて、更に肌の露出を増やした挑戦的な一着! えっ? 透けてるって? この透け感が良いんです! どんな男もイチコロですよ!」
「あの」
「今なら10%オフのセール中! 試着もご自由に――」
「ちょっといいですか!」
あまりにも商魂逞しすぎる。ニーアは楽しそうに聞いていたが話が止まりそうにないので無理やり遮る。
「おっと、これは失礼しました。それでどういったご用件で?」
俺は例の服があるか尋ねた。
「これは御目が高い! 縫い帰りの服ですね! それですとオーダーメイドとなりますがよろしいですか?」
「ええ、いくらですか?」
「少なく見積もって金貨三十枚程でしょうか」
高っ。だがまあずっと着れる服って訳だし、そう考えると安いかもしれない。
代金を支払った後、ニーアはサイズを計ったりどんな服にするかを店主と話し合っていた。こなれ感やら抜け感がどうとか熱く盛り上がった二人を俺は冷めた目で見る。
しばらく待っていると話は終わったようで、おじさん曰く完成は一週間ほど掛かるそうだ。それを聞いて店を後にした。
「……疲れたな」
「すごい店員さんでしたね」
俺達は一休みしようと店先の階段に腰掛けた。休息をとってそのまま談笑していると、ものの数分もしない内に「ちょっと君達、怠惰じゃないか?」とおじさんが声を掛けてきた。その服装は先の警察隊のものだった。
「え?」
「ん、見ない顔だな。よそから来たのか?」
「そうですが……」
「この町では休んだり、何もしない事は罪になるから気を付けなさい」
何だって? なんて恐ろしい町だ。
ブラック企業顔負けのブラック都市じゃないか。魔導都市もとい社蓄都市である。
俺達が困った顔をしていると、彼は合点がいった様子で
「仕事がないのか? なら紹介してやろう! 付いてきな!」
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「………………」
「………………」
「なあ、何で俺達働かされてるんだ?」
「はう……分かりません」
警察のおじさんに案内されたのは職業安定所のような所。おじさんが受付のお姉さんに何か説明したところ、お姉さんは何を納得したのか、俺達は次々と仕事を押し付けられ屋台の売り子やチラシの配布など色んな職場をたらい回しにされた。
これでは俺達が『勤勉』の美徳になってしまいそうだ。
次に連れてこられた先は、この町で一番大きい建物。城かと思える立派な石造りだった。中に入ってみると子供達が座って熱心に話を聞いている様や老年の魔法使いが大量の書物と睨めっこしている様子が垣間見えた。どうやら教育機関や研究機関が一体になった学校のような建物らしい。
案内人のおじいさんは更に奥に進み、『魔導研究棟』と書かれた建物に入った。中には赤い絨毯が敷かれ、他の建物より豪華な印象を受けた。その中の一番大きい一室に入る。
そこに居たのは高飛車そうな少女だった。釣りあがった大きな碧い眼の金髪美少女。カチューシャを付けており、おでこを出したロングヘアだ。町の人と同じようにローブを纏っていたが彼らとは違い、美しく鮮やかな装飾が施されており、まるで貴族のような印象だ。彼女はヴィエラという名前らしい。多分歳は俺とあまり変わらない。
「貴方達が新しい助手? 大魔導士たる私の下で働けるだなんて、光栄に思いなさい!」
おじいさんの顔を見るとすぐに理解して開口一番そんな事を言ってきた。この口ぶり、俺とは主義が違いすぎるな。
彼女は研究に忙しく、書物の整理など雑用をしてくれる助手を探していたらしい。おじいさんは「頑張れよ」と言って去って行った。
「じゃあ、早速お願いできる?」
こっちの書物の整理からお願いと指示される。何やら魔法陣などが並んだ本のようだが全く分類も分からない。とりあえず散らばった書物をせっせと地道に拾い集めて一か所にまとめていると
「何? 貴方達<フワリ>も使えないの?」
驚いた様子のヴィエラ。というより呆れている。
「あー! しかもこれ魔術書も魔導書も全部一緒になってるじゃない!」
信じられないといった顔で散々文句を言ってくる。なるほど、優秀らしい筈の彼女の研究室が人手不足の理由がすぐに分かった。
「使えないわね貴方達。もういいわ」
理不尽に働かされた末、罵倒されたことに腹を立て反論しようかと思ったが、ニーアを見ると何とも思ってなさそうな顔をしており何だか毒気を抜かれてしまった。流石は『忍耐』の美徳……。
理不尽高飛車女は少し考えるポーズを取った後、何か思いついたようでニヤリと妖しく微笑んで言った。
「貴方達のようなのはあの頭でっかちのところが丁度いいわね」
付いてこいと言われ俺達は仕方なく同行した。同じ建物内を移動する。
どれも理不尽高飛車女の部屋より一回り小さい。この研究棟で一番いい待遇を受けているようだ。実際大魔導士とやらなのかもしれない。
彼女はずんずんと赤い絨毯の廊下を進み、とうとう一番端、ヴィエラの部屋と対極に位置する部屋の前で足を止める。
そしてヴィエラはその部屋の戸を勢いよく開いた。




