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救世のカルマ  作者: 小御門 遊
魔導都市編
10/14

道中

 町を出た俺達は林道を歩いていた。


「ダメったらダメ」

「ケチ! ユズルの強欲! ぶーぶー」


 昨日早々と小遣いを使い切ったニーアはおねだりをしてきた。

 全く、『忍耐』の美徳が聞いて呆れる。ただ、親と過ごした時間が希薄なニーアにとってはおねだりという経験も初めての事なんだろう。そう考えると少し微笑ましく思う。


 そんな遣り取りをしていた俺達の前を影が遮る。


「臭う、臭うぜお前」


 そこに現れたのは三人組の魔族だった。恐らくゴブリン。その手には木の棍棒が握られている。その口からは涎が垂れ、醜い顔だ。


「失敬な! ニーアは毎日お風呂入ってます!」

「いやニーアさん、多分体臭を注意しに来た訳じゃないぞ」


 それに“ニーアは”だと俺が臭うみたいじゃんか。


 確か魔族は、罪を犯した人間である魔人が好物だと聞いた。罪の香りを嗅ぎ付けるんだろうか。


「強欲な誰かさんに釣られてやって来たんじゃないか?」

「はわわ!! すみません! もう欲しがりません、着くまでは!」


 三対二か。人数では負けているがこちらは七つの美徳が二人だ。ゴブリン相手には負けないだろう。


 ゴブリンは分散し、俺をめがけて攻めてきた。まず正面のゴブリンがその棍棒を振るう。俺は【超反射(リアクト)】で悠々と躱す。続いて左方のゴブリンの攻撃。これも余裕で躱――。


「――がっ」


 衝撃。後頭部に激痛が走り、意識が飛びかける。そのままの勢いで地面に倒れこむ。

 俺は【超反射(リアクト)】の弱点に気付く。どうやら死角からの攻撃には対応できないらしい。多人数を相手取るには厳しいようだ。


「ユズル!!」


 ニーアが庇う形で間に入る。しかし戦う術を持たないニーアは襲い掛かる魔族たちに対し、うずくまって頭を抱え込んだ。リンチの如く囲まれてぶたれるニーア。


「はわわわわわ」

「ヒャハハ!」「ザコめ!」「オラオラ!!」

「っ! っテメェら!! やめろ!!」


 すぐに立ち上がり殴りかかる。昂る気持ちを拳に込める。すると握った拳は光を帯びた。

 俺の攻撃は手前のゴブリンにヒットし、仲間を巻き込んで五メートル程横っ飛びに吹き飛んだ。

 俺は驚いて自分の手元を確認する。……俺ってこんなに力強かったか?


 ゴブリン達は力尽きたのか、気を失って倒れており、段々透明になってやがて消え去った。

 ……死んだのだろうか。


「大丈夫かニーア!」


 袋叩きにされていたニーアが心配で駆け寄る。


「あっ、やっつけたんですね!」


 その顔は痛みなど無かったかのように笑顔だった。ケロッとした顔で「大丈夫です」と言うニーア。事実無傷であった。能力(スキル)が発動して食らった傍から回復していたのだろう。

 むしろ俺がクラッときて倒れこむ。


「ユっ、ユズル!」


 守ろうとした女の子は俺より全然耐久がある。何だか俺は情けなくなり、気を失った。


_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ 


 目が覚めると視界にはニーアの顔があった。ニーアは少し涙目で自分の頭を(さす)っていた。


「あ、おはようございます」


 俺は応えながら身体を起こす。後頭部の痛みはキレイに無くなっていた。どういうことだ?


「治してあげられたらと思ったのです」


 それで俺に触れていた結果、頭が痛くなってきたらしい。

 どうやら俺の受けたダメージを吸収してくれたらしい。これが【痛快無比(ダメージンググレイス)】の能力だろうか。ただニーアの頭に傷口は無い。痛いのはあくまで感覚。【看難診苦(プリデッドキュア)】では感覚まで癒せないのだろう。俺はニーアに礼を言った。


 ゴブリン達が消えた場所には奴らの持っていた棍棒が落ちていた。俺はそれを二つ拾って一つニーアに渡した。武器として貰っておいて損は無い。


 それからしばらく林道を歩いていると、色々な草木が生い茂った場所があった。


「あ、これ薬草ですよ!」


 流石は田舎育ち。野草に詳しい。薬草は辺り一面に生い茂っていた。この分ならさっきの能力に頼らずとも薬草で凌げるかもしれない。

 俺も手伝おうと思い、近くの似た草に手を伸ばす。


「あ、それはダメです!そっちはヤク草です!!」


 ニーアの採っていた草と見比べる。しかし俺には違いが分からない。


「何だ? どう違うんだ?」

「それは強い中毒性のある危険な草です! 絶対食べちゃダメですよ!」


 なんて安直な名前なんだ。

 よく見ると薬草は九本ずつ生えているのに対し、ヤク草は八本ずつらしいのだが、そんな危険な草と並んで生えないで欲しい。


「ヤク草は八本のクソ、()クソと覚えればいいですよ」

「汚い覚え方はやめなさい」

「貴重ですから一杯採っておきますね」


 薬草はどこでも買えるものではないらしい。その原生地は先程のように魔族に出くわす危険性のある場所だけのようだ。

 俺にとっては、全国津々浦々で10Gで買えるもんだから雑草感覚だった。

 ニーアは手持ちの袋が一杯になるまで採って満足気だ。


「おい、ニーア。これうまそうじゃないか?」

「!! それは魔族しか食べれないアクマダケです! ダメですよ!」


 味は悪魔的に美味しいらしく、一つ食べると止められない止まらない状態に。その食欲に抗えずに食べまくると『暴食』の罪で魔人堕ちしてしまうそうだ。


 俺にはどうにもマツタケにしか見えなかったが仕方なく諦めた。

 俺達は採取を終え、再び町を目指して歩き出す。するとまたしても魔族が立ちはだかった。


「罪の香りがするなぁ」


 何故だ? もうニーアはおねだりしていないというのに。

 今度は二足で歩く犬面の魔物。コボルトって奴か? 手には鋭利な刃物を携えている。その口元から覗く鋭い牙も危険だろう。


「任せて下さい!」


 ニーアが前に踏み出す。

 いやいや、前衛に出る治癒職(ヒーラー)なんて聞いたことないぞ。

 しかしとりあえずどうするつもりなのかと思い見ていると、ニーアはしたり顔で叫んだ。


「お手!!」

「……」「……」


 ニーアさん。相手の方も言葉を失ってらっしゃいますよ。


「ふざけてんじゃねぇ!」


 案の定怒りを買ったニーアにコボルトが襲い掛かる。またしてもニーアは亀のように蹲る。どうやらニーアは囮役を買って出たらしい。

 その鋭い刃物で切り裂かれ、ニーアの服が所々破れた。


「はっ! 女に戦わせるたぁみっともねぇ男だな!」


 その女を一方的にイジメるお前もどうかと思うが。


「はっはっは! 引ん剝いてやるぜ!」

「ひぃーーーー助けてくださーい」


 段々目的の変わっているワンコさん。ニーアに夢中になって隙だらけだった。

 この戦い方どうなんだ。全く緊迫感の無い戦闘に呆れを感じつつ、今度は棍棒を全力で振りぬいた。またしても拳は光りを纏い、それを受けたコボルトは吹っ飛んで倒れた後消えていった。弱い魔族なのかさっきからワンパンである。

 さっきも思ったがこの光は何なんだろうか。能力(スキル)の影響かと考察していると泣きそうな声が飛んでくる。


「もぉ! のんびり見てないで早く助けて下さいよユズル!!」

「ああ、ごめ――」


 俺はすぐ顔を背ける。……ニーアの上半身には殆ど布は残っておらず下着が露わになっていたからだ。


「?」


 下を向いて自分の姿を認識したニーアの顔はみるみる内に紅潮し


「見ないで下さい!!!」

「ふごっっ!!!」


 俺は魔族もイチコロな拳を食らうのだった。

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