第九話 幼女との出会い
どのくらい歩いたかは、分からない。
しかし、それでも僕たちはたどり着いた。
目の前には、布で建てられた、数多のテント。
きっと、ここが蜥蜴人達の住処だったのだろう。
そして、ここに幼女たちがいる。
隣をてくてくと歩くアルファールが僕に声を掛ける。
「なぁ」
僕は、アルファールに振り返らないままこたえる。
「何?」
「おのれ、ほんまにわかっとるんか? この世界におのれをつれてきたのは、魔王をぷぎゃーいわすためや・ってことを」
僕は足元で四足歩行する奇妙かつ可愛らしい生き物を見て、ため息を吐く。
また、この話か。
僕が幼女を助けるために、ここまで歩く道中。アルファールは何度もこの確認をしてきた。
……確かに、僕はこの世界のことなんて、よくわからない。
魔王を倒せ、と言われても、実感がわかない。
むしろ、未だにこれが夢なんじゃないの? と、心の隅では思っているくらいだ。
それでも、魔王の悪逆非道の片鱗――村から幼女を連れ去るという非道――を見せられた今は、そうも言ってはいられない。
僕になにができるのか、それは定かには分からない。
それでも、力を持ってこの世界に来たのだ。
だから――。
「僕はただ、この力をもって、どんな小さなことでもいいから――誰かの救いになりたい・って思っているだけだよ。だから、もちろん。幼女のことだって助けに行くんだよ」
「そんなん、さっきも聞いたわ」
「うん、言った。……なら、なんでなんどもそんなことをきくのさ?」
僕の疑問に、
「いや、おのれそんなウキウキなスキップ見せられたら、どうせちっさな女の子とキャッキャウフフがしたいだけなんちゃうか思われても仕方ないやろが」
と、吐き捨てるように答えるアルファールさん。
「……」
「いや。だまるなや」
「……っ! う、うきうきなんて、してないよっ! ただ、早く彼女たちを助けないと、って思って、駆け足になってるだ、だけだもん!」
「だもん! やないわ糞童貞。見苦しいやっちゃで、ホンマ……。こちとら、一刻もはやいとこ魔王のアホをぶちのめしたいいうのにのう……」
苛立たしそうに、アルファールが呟いた。
僕はそれに、すこし違和感を抱く。
「て、いうか。そこまで言うんだったら、精神操作でも魔法でも使って、僕をコントロールして見せればいいじゃないか。君には、それが出来るんだろう?」
レベル700オーバーの人達をぼろ雑巾のようにできるこの体を作成したのは、アルファール自身だという。
ならば、アルファール自身も、自らの体を改造して強化したり、凄い魔法が使えたり、僕の体になにかしらを仕込んでいう事を聴かせる、なんていうことは可能だと予想するのだけど、
「せやな、制御が効かん兵器なんて、いっちゃんややこしいからな。だが、簡単に兵器としての機能を失わせるのも、同じくらいポンコツや。……なんだかんだいうても、おのれにも、細工はしてるで。ただ、ワイもその細工を使うのは、ちょっとばかし気が引ける、ゆうだけや。いざとなったら、強硬手段はとらせてもらう。そのつもりでおれや」
脅しのような、いや。まさしく脅し文句なのだろう。
アルファールの語気が強まった。
「……つまりや、早いところガキども助けて魔王をガツン言わせにいくで」
アルファールが歩を進める。
「なんだかんだ言って、アルファールも気になっているんじゃないか……幼女の事」
「その言い方はニュアンスが違うで!?」
アルファールが抗議の言葉を投げてくるが、そんなのは気にしない。
僕は1つのテントに近寄り、中に声を掛けるl
「もしもし、誰かいるのかな?」
……返事は無かった。
とりあえず、中を見ることに。
そこにいたのは、2人の少女……というには幼すぎるか。
それこそ、幼女が怯えたようにこちらを見ていた。
「……こ、こんにちわ」
怯える二人に、僕は精一杯の笑顔で挨拶をしてみる。
警戒をする必要はない、まずはそう思ってもらわなければ、
藍色の髪の女の子と、茶色い髪の女の子が、僕の顔をみて、そのあとにお互いに顔を見合わせた。
そして、
「こんにちわ……あなたは、新しい私たちのお友達なの? ……それなら、蜥蜴のおじちゃんたちも、一緒にいるの?」
おそるおそる、と言った感じで応えたのは、藍色の髪の女の子だ。
彼女らは立ち上がり、僕と目を合わせた。
「……身長138センチの僕よりも、少し小さいかな。大体、130センチ前後といったところ、かな? 現代日本では、8歳~9程度の女児の平均身長だけど、この国の子供が取れる栄養の状態を考えれば、もしかしたら10歳くらいにはなっているのかもしれないね。もう一人の茶髪の女の子は……大体120センチ半ばくらい、かな。これも、現代日本では8歳程度の女児の平均身長だけど、やっぱりもう少し本来の歳は上かな? ……ああでも、遺伝子的には日本人じゃないし、生活環境も現代とは違うんだから、一概にはそう言えないね。なら、実際いくつなのかは予想しても仕方ない、か。ねえ、お嬢ちゃんたち。いくつなんだい?」
僕が問いかけると、何故だか腰部に鈍い衝撃がきた。
「怖いわっ! 恐ろしいわ! 何やねんその女児の平均身長からの年齢予測は!? 気も過ぎて鳥肌が立ったわ、ホンマに……。みぃや! 泣いてるやんけ、幼女たちが!」
そう捲し立てるのは、僕の腰に突進してきたアルファールだった。