第六話 初めてのマジカルスティック
「幼女ちゃんよ、まだかかりそうかい?」
ひときわ大きい蜥蜴人が、優しい声音で申し訳なさそうに僕に問いかけてくる。
ロリコンだけど良い人たちなのかもしれないな、ってちょっとだけ思う。
たぶんここで負けちゃっても、きっと殺されはしないんだろうなと思い、気持ちがちょっとだけ軽くなる。
「あ、はい。もう少しだけ待ってもらってもよろしいでしょうか?」
「ああ、それならばもう少し、幼女ちゃんの可愛さをただ楽しむだけの時間に興じておくことにする」
にやにやと笑いながら答える蜥蜴人。やはり、良い人っぽいなぁ。
「ありがとうございます」
僕は答えてから、アルファールに向かいなおった。
「さて、どうやって戦ったらいいの?」
僕の問い掛けに、
「まず、獲物やな。それを出すところから始めるで」
と答えるアルファール。
「得物? ってどうやって出せばよいの?」
「イメージするんや。あの魔法少女には欠かせない、……え~と、なんやったっけなぁ、あの棒? みたいなやつ?」
うんうんうなってから、
「あ、せや! MSや、MS。MSの形を強くイメージして、掌と掌の間から、ぶっ、って屁を出す感覚で、MSをだすんやで!」
と嬉しそうに言うアルファール。
……さっぱりわからないけど、とりあえずイメージが大切だそうです。
MSって、何? 機動戦士的な? ……あ、MSのことかな? まぁ、それ以外考えられないからなぁ。
で、掌から屁を出す感覚? うん、よくわからないけど、やってみよう。
僕はふわっとしたイメージをもったまま、言われた通りに手を動かす。
掌を合わせ、そして魔法少女が持つような可愛らしいスティックをイメージ。
合わせた掌をゆっくりと引き離していき、なんか、こう、おならをする感覚を上手いことする。
すると、両手の平の中央に、熱を感じ始めた。
おお、これは!
僕はやればできるという言葉を思い出しつつも、MSってやっぱり機動戦士的な? なんて思いつつも、そのままイメージを保ち、全体を発現させた。
50センチ程度の、棒状の柄、その先端には円形のサムシングがくっついた、発光する得物。
自らの目前に現れたそれを握りしめて、僕は言った。
「なんじゃこりゃ~!」
現れたその得物は、確かにMSの形をしていた。しかし、マジカルスティックではない。
MSの形をしていた。
機動戦士的な得物。流石にこれは予想外。
うらめし気な目線を、僕はアルファールに向けながら、
「な、なんだよこれ! こんなの、きいてないよ!」
「え、ええ……、何キレとんねん? そんなん、ワイが知りたいわ。どんなイメージしたらMS……、あせや、マジカルスティックや! そう、そのマジカルスティックがそんなえっぐい形になるねん? 完璧、命を刈り取る形やんけ!!」
どうやら、アルファール的にも僕のMSは予想外だったらしい。
僕はくちを大きく開けて、呆けた顔をした後、ならばともう一度マジカルスティックを出すことにした。
さっきとは違い、確固たるイメージができる今、流石にモーニングスターが出てくることは無いだろうと思いながら、掌から屁を出す感覚で再チャレンジをした。
いい感じに柄が出てきて、後はモーニングスター、いぼいぼ突起物が付いた物騒なビジュアルが出ないように祈りながら、最後まで出し切った。
そして、僕の目の前に出現したのは。
今度こそ!
モーニングスターだった。
「えっぐ……あかんやんそれ、命を刈り取る形してるやん」
アルファールの呟き声が耳に届く。
いやね、僕も途中から本当は気付いてたんだよ?
あ、前回の失敗、モーニングスターを引きづりすぎているって。
多分、これから何度やっても手の平らから屁を出すときにモーニングスターが脳裏をよぎってしまい、まともなマジカルスティックを出すことはできないでしょう。
僕は自らの軽い気持ちを悔いた。
だけど、もうどうにもならない。
悲しみを胸に秘めて、僕は二本のモーニングスターを構えて立ちすさんだ。
「あ、もう大丈夫?」
蜥蜴人が僕の様子を見て声を掛けてきた。
「あ、大丈夫です」
と僕が答えると、
「ほんなら、ワイも戦闘準備や!」
と宣言したアルファールが、途端に光に包まれた
なんだなんだ? と混乱した木だが、その光が霧散し、そして現れたのは
「グルアアア!」
ライオンの如き大きさの、四足歩行のごっつい、そしていかつい生き物だった。
……こっわ!
「あ、あるふぁーる、さん? えっと、その。よろしくね?」
おそるおそる声を掛けると、
「グルアアアア! ブルアアアア!」
と咆哮するアルファール。日本語でおK。
……と、とにかく。
僕はこうして、何が何だか分からないままに、異世界に来て初めての戦闘を行うことになったのだった!