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第五十四話 もう何も怖くない

「全く、時間が経つのも早いもんだ。

 あの時、ロリペディアのお嬢が白い羽根で世界を終わらせて、そして再び始めてから。

 もう5年の月日が流れているってんだ。

 その間に、ただの村人Aだった俺が、人間側のお偉い役人様だ。

 全く、人生ってのは分からないねぇ」


「まさか、我も殺された上に生き返って、しかも魔人だけでなく人間の守護までしろと命じられたときは、驚いた。

 そもそも、その白い羽でなにゆえ我は生き返ったのだろうか。謎が謎を呼ぶ」


「どうやら件の白い羽ってのは、時間を巻き戻す力だったらしいぜ。

 だから、ここしばらく魔人に殺されちまった人間はみんな生き返り、あの嬢ちゃんに殺されていたお前さんも生き返り、荒れ果てた大地には活力が戻り、自然あふれる世界が出来上がった。

 おまけに、おまえさんたち魔人たちとは、同盟関係が出来上がったもんだ。愛と平和が溢れるこの世界は、まるで5年前とは別物だね」


 そう言って、コロンポ・ススムは、隣にいる東の守護者であった、イース(・・・)へと、目を向けた。


「どうだい、地獄を見てきたあんたの目に、今のこの世界はどう映る?」


 イースは、深く溜息を付いた。

 既に、この男との付き合いは5年になる。

 何を考えているのか、未だに分からないことも多い。だが、誠実な男であるのは確かだった。

 だから、正直な気持ちを伝えたのだ。


「……悪くはないな」



「ちょっと、ウェス?

 各地の人間どもから、面倒な手続き関係の書類が馬鹿みたいに来てるってのに。

 あんたは何を休憩なんかしてるのよ」


「してないしてない。俺様、一生懸命働いてるから。

【疾風】の名に恥じない仕事ぶりだから。

 ていうかな、これ以上手を動かしていたら、いくら元【四死獣禄】といえども、過労で死ぬ」


 とある執務室の中。

 書類仕事に追われるウェスとサース。

 二人は魔人領土の中央で、魔王の代わりに数多くの権限と、それ以上の仕事を与えられ、忙殺される日々を送っていた。


 異世界とはいえ、ここは既に平和な国。

 これまであった問題は無くなっても、新たな問題は毎日起こり続けていた。

 そのことに、サースはほとほと疲れているのだった。


「ああ……魔王様。妾はこのままここで幾多の書類に埋もれ、死んでしまうのでしょうか?

 ……ああ、愛しい魔王様。もう一度あなたの愛くるしいお姿を見たい」


「不死が何を言っているんだか……」


 ウェスが忙しさのあまり現実逃避をしたサースに向かって、冷ややかな視線を向けた。


「……でも、確かに魔王様。元気かなぁ」


 



「ありがとうな、嬢ちゃん。助かったよ。俺はヒカク、嬢ちゃんの名前も、教えてくれ」


「余は当然のことをしたまでだ。礼はいらん。名は……キリンだ」


「ははっ、そうかい。だが、礼は言わせてもらうぜ。ありがとよ! キリンちゃんよ!」


 土砂崩れが起こった山道。

 飛脚がその道を前に右往左往しているところを、キリン――かつて、魔王と呼ばれた少女が道を開いたのだった。


 キリンは、本来人間を憎んではいなかった。

 それでも、人間を追い詰め、魔人を生き永らえさせたのはただ一つの理由から。

 自らと同等か、それ以上の力を持つ悪しき・・・女神たちから、世界を、そして自らの民たちを護るため。


 だが、守るには全世界はあまりにも広かった。

 だから、せめて、魔人たちだけでもと人間を切り捨てたのだった。

 だが……今は違う。彼ら彼女たち無力で非力な人間・魔人が女神に殺される不安などはなかった。

 なぜなら、女神は彼女が殺すと。


 5年前のあの日。彼女が言ったから。

 そうして、この世界から姿を消した彼女たち。

 だけど、心配はいらない。きっと、今もどこかで面白おかしくやりながら、女神を倒す度の道中なのだろう。


 だから、これからは。

 これまでできなかった分まで、人を助けたい。

 人と触れ合いたい。


 そう思って、キリンは一人で旅を続けているのであった。

 



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