第五十四話 もう何も怖くない
「全く、時間が経つのも早いもんだ。
あの時、ロリペディアのお嬢が白い羽根で世界を終わらせて、そして再び始めてから。
もう5年の月日が流れているってんだ。
その間に、ただの村人Aだった俺が、人間側のお偉い役人様だ。
全く、人生ってのは分からないねぇ」
「まさか、我も殺された上に生き返って、しかも魔人だけでなく人間の守護までしろと命じられたときは、驚いた。
そもそも、その白い羽でなにゆえ我は生き返ったのだろうか。謎が謎を呼ぶ」
「どうやら件の白い羽ってのは、時間を巻き戻す力だったらしいぜ。
だから、ここしばらく魔人に殺されちまった人間はみんな生き返り、あの嬢ちゃんに殺されていたお前さんも生き返り、荒れ果てた大地には活力が戻り、自然あふれる世界が出来上がった。
おまけに、おまえさんたち魔人たちとは、同盟関係が出来上がったもんだ。愛と平和が溢れるこの世界は、まるで5年前とは別物だね」
そう言って、コロンポ・ススムは、隣にいる東の守護者であった、イース(・・・)へと、目を向けた。
「どうだい、地獄を見てきたあんたの目に、今のこの世界はどう映る?」
イースは、深く溜息を付いた。
既に、この男との付き合いは5年になる。
何を考えているのか、未だに分からないことも多い。だが、誠実な男であるのは確かだった。
だから、正直な気持ちを伝えたのだ。
「……悪くはないな」
☆
「ちょっと、ウェス?
各地の人間どもから、面倒な手続き関係の書類が馬鹿みたいに来てるってのに。
あんたは何を休憩なんかしてるのよ」
「してないしてない。俺様、一生懸命働いてるから。
【疾風】の名に恥じない仕事ぶりだから。
ていうかな、これ以上手を動かしていたら、いくら元【四死獣禄】といえども、過労で死ぬ」
とある執務室の中。
書類仕事に追われるウェスとサース。
二人は魔人領土の中央で、魔王の代わりに数多くの権限と、それ以上の仕事を与えられ、忙殺される日々を送っていた。
異世界とはいえ、ここは既に平和な国。
これまであった問題は無くなっても、新たな問題は毎日起こり続けていた。
そのことに、サースはほとほと疲れているのだった。
「ああ……魔王様。妾はこのままここで幾多の書類に埋もれ、死んでしまうのでしょうか?
……ああ、愛しい魔王様。もう一度あなたの愛くるしいお姿を見たい」
「不死が何を言っているんだか……」
ウェスが忙しさのあまり現実逃避をしたサースに向かって、冷ややかな視線を向けた。
「……でも、確かに魔王様。元気かなぁ」
☆
「ありがとうな、嬢ちゃん。助かったよ。俺はヒカク、嬢ちゃんの名前も、教えてくれ」
「余は当然のことをしたまでだ。礼はいらん。名は……キリンだ」
「ははっ、そうかい。だが、礼は言わせてもらうぜ。ありがとよ! キリンちゃんよ!」
土砂崩れが起こった山道。
飛脚がその道を前に右往左往しているところを、キリン――かつて、魔王と呼ばれた少女が道を開いたのだった。
キリンは、本来人間を憎んではいなかった。
それでも、人間を追い詰め、魔人を生き永らえさせたのはただ一つの理由から。
自らと同等か、それ以上の力を持つ悪しき女神たちから、世界を、そして自らの民たちを護るため。
だが、守るには全世界はあまりにも広かった。
だから、せめて、魔人たちだけでもと人間を切り捨てたのだった。
だが……今は違う。彼ら彼女たち無力で非力な人間・魔人が女神に殺される不安などはなかった。
なぜなら、女神は彼女が殺すと。
5年前のあの日。彼女が言ったから。
そうして、この世界から姿を消した彼女たち。
だけど、心配はいらない。きっと、今もどこかで面白おかしくやりながら、女神を倒す度の道中なのだろう。
だから、これからは。
これまでできなかった分まで、人を助けたい。
人と触れ合いたい。
そう思って、キリンは一人で旅を続けているのであった。




