第五十三話 破壊と創造
なんだか、長い間夢を見ていたような気分だった。
ボーっとした頭が、徐々にクリアになる感覚。
僕は全身に不快な揺れと、おへそに違和感を覚えて目を開いた。
「……なんで、おへそに指を突っ込んでるのかな、アルファールさん?」
神妙な表情で明後日の方向を見ながら、僕のおへそに指を突っ込んでいるアルファールさん。
……どうしてこうなった?
「おお、ずっと突っ込みっぱなしだったわ……じゃなくて。
悪いんやがおのれのせいで世界が滅びることになったで」
「え?」
状況がつかめないでいる僕に、アルファールが告げる。
「まぁ、簡単に言うと、暴走したおのれを止めたのはいいが、
おのれが最後に繰り出した魔法の始末までは付けられんかったっチュー訳や」
そう言って、アルファールが僕のおへそから指を抜いて、ある方向へと指示した。
「……なにあれ?」
「魔力の塊……いや、あそこまでいくと、【破壊の権化】と言った方がふさわしいか」
僕の質問に答えたのは、憔悴した様子の魔王だった。
体はボロボロで、傷だらけ。でもそれは彼女だけではなかった。
ウェスもサースも、ぐったりとした様子でその場に倒れこんでいる。
その中でも特にひどい傷を負っていたのが……
「メイデン!?」
僕は彼女に駆け寄る。
「メイデン! 大丈夫!?」
彼女のおなかには、折れた【シャッキリ・ポン】が突き刺さっている。
とめどなく、大量の血が流れている。いますぐに治療しないとだめなのが、一目見て分かった。
「……すまない、ロリペディア。私では、あれを止められなかった。
……きっとこの世界は終わる。諦めたくはないが、これ以上はどうしようもない。
……だからせめて、最後に」
メイデンは息もとぎれとぎれに、言う。
「あなたの足を、舐めさせてはくれないか?」
言ってることが蜥蜴人と変わらなかった。もうこいつは駄目かもしれないね。
「……ごめんね、メイデン。これは、僕のせいだよね」
僕は、この傷をみて思い出した。
ううん、ちがう。きっと、忘れてなんていなかった。ただ、信じたくなかっただけだ。
我を忘れて暴走し、メイデン達を傷つけて、こうして世界を崩壊させようとしていることを。
「ごめんね、みんな。……でも、この世界は絶対に終わらせない!」
「もう無理や。おのれの力は、さっきワイが抑え込んだばっかりや。
流石にこれからすぐにあれを消すほどの力はどうやっても生まれへんで」
僕の宣言に、アルファールが告げる。
……だけど、それは違うのだと。
僕のなかで、何かが叫んでいた。
それは、腹のうちで暴れ狂う、どす黒い何か。
それは、この現状を引き起こした力。
僕の中にある力は、今も消えてはいない。
全てを壊したくて、疼いている。
こうしている今もまた、僕はその力に呑み込まれそうだった。
でも、それだけじゃない。
もっと奥の方に。
もっと深く潜り込んだその先に。
僕の本当の気持ちが。
……本当の力が、眠っていた。
「この世界は、とても不完全で不安定で。たくさんの悲しみがあって。
たくさんの憎しみもあった。きっと、苦しんでいる人たちが、たくさんいる。
……だけど、それも今日までなんだ。もうすぐ、誰もが笑って。誰もが幸せに過ごせるようになるんだ」
僕は俯いている魔王とサースとウェスを見る。
暴走した僕を止めるために一致団結したみんな。
これからは。人間と魔人が手を取り合って過ごすことができるのだと、僕は確信をしていた。
胸が、熱くなる。
奥底に秘められた力が、全身にいきわたり、漲る。
とても、暖かな力を、僕は感じていた。
「……うん。きっと、大丈夫」
僕は呟き、そして張りつめた力を、一気に解き放った。
そして現れたのは。
左右三対の、【純白の翼】だった。
「……なんやねん、それは!?」
アルファールが僕を見て、驚きの声を上げた。
僕を造ったアルファールにも、これは予想外だったのかもしれない。
それが何だか、僕には誇らしかった。
僕は背にした【純白の翼】を大きく羽ばたかせた。
白い羽が、宙を舞い、落ちる。
それはメイデンに、魔王に、ウェスに、サースに降り注いだ。
「……暖かい」
メイデンが、小さな呟きを漏らした。
そして、見る間にお腹の傷が治っていった。
それを見て、僕は安心した。
【純白の翼】を大きく広げ、目前に迫る真っ黒な、巨大な球体を包み込む。
「この魔法も、僕の一部だ。だから、還るんだ。
あるべき場所へ……あるべき時へ」
巨大な球体が、僕の内へと還っていった。
背にした【純白の翼】から、真白な羽根が抜け落ち、風に乗って飛んでいく。
次々と降り注ぐその羽根は、真冬に降る雪のように儚く綺麗で。
世界の終焉のように、美しかった。
☆
そうして世界は終わり
☆
また始まった




