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第五十一話 それぞれの意地

 サースは目の前破壊の権化を見て、体を強張らせた。

 彼女は以前の敗北を引きづっていた。


 魔王に次ぐ強者だった自分が、歯が立たない強さを持っていて。

 その力に、精神的にも身体的にもズタボロにされた。

 これ以上ない挫折を経験し、再起は不能だと、あの時のサースは思っていた。


 だが、違った。

 戦いに敗れた弱い自分も、魔王は必要とした。

 それが嬉しくて。そして、自らの弱さが恥ずかしくて。

 だから、サースは今。

 その敗北を、乗り越えるのだ。


「正直、妾はおまえに勝てるとは思っていない。だが、それでも……」


 自らの誇りを取り戻す機会なのだから。

 忠誠を誓う主に、頼まれたのだから。

 自らを信じる主に託されたのだから。


「妾はおまえに、牙を剥く!」


 ロリペディアの周囲に、四重の巨大な魔法陣が現れた。

 それは、第九位階の複合魔法。

 灼熱と極寒と束縛と停止が、同時にロリペディアに襲い掛かる!


「喰らえ、妾渾身の複合魔法! 【魔の檻プリズン・プリズン】をっ!」


 ロリペディアは、突如現れた赤銅色の巨大な檻に閉じ込められ、そしてその内で死を望む程の苦痛を一瞬のうちに一身に受ける。


 ……やはり、ロリペディアはアルファールが言った通り、弱体化していた。


 パリィィィイイイイン


 硬質な音が耳に届くと同時に、サースがロリペディアを捉えていた巨大な折りは砕けて崩壊した。

 サースはその様子を見て、満足げに微笑む。


 自らが振り絞った全力で、わずかなスキを産むことができた。


「今度は、お前の番よ。ウェス!」


 ☆


 ウェスは駆けた。

 【四死獣禄】最強が、ボロボロになって、プライドを捨て、そして生み出した一瞬の隙。


 ……同じ【四死獣禄】として、この好機をみすみす逃すわけには行かない。

 既にロリペディアへと向かって駆けだしてから、まだ一秒の時も経過していない。

 それでも、既にその体は限界を超えていた。

 不完全な第九位階・・・・の肉体強化魔法と雷魔法。

 肉体と精神を加速させ、本来ならばありえない速度を出すことを可能にしているものの、それは数秒ともたない。


 だが、サースが生み出した一瞬の間もつならば……

 何も問題は無かった。

 

 無茶な魔法を行使した反動が、既に全身に襲い掛かっている。

 それでも……たどり着いた。

 

「ロリ様の事、任せたぞ!」


 そう言って、背負った小さな人影――アルファールを、ロリペディアの前まで無事送り届けてから。

 ウェスはボロボロになった体で、地面に倒れこんだのだった。



 ロリペディアの目の前まで、ウェスとサースの協力により無事辿り着いたアルファール。

 正気を失ったロリペディアに、少しだけ憐みの篭もった視線を向けてから、アルファールは振りかぶる。


「だから言うとるやんけ、アホ共……」


 目の前のロリペディアは、何の反応も見せない。

 サースの魔法を解いた反動により、未だ体制を立て直せていないのだ。

 間に合った、アルファールは口元を愉快そうに歪めた。

 

 ロリペディアがいう事を聞かなくなった際の、最終手段。

 魔力の流れを断ち切り、強制的に、そして一時的に力を失わせるその方法。

 失敗する未来が、見えない。


 振りかぶった腕。人差し指をまっすぐと伸ばし、そしてその指先をロリペディアの体の一部へと向かって勢いよく突き出しながら、叫ぶ。


「おのれらに、任されるまでもないわっ!」


 そう叫んだのち、アルファールの指先が、目的の場所へと到着した。

 その場所とは、


「おへそスイッチや!

 おのれが暴走した時は、ワイの指先をおへそに突っ込むことで魔力の流れを止め、強制シャットダウンをさせることができる!

 覚えとけやアホンダラッァ!」


 可愛らしい白い頬を真っ赤に染め上げて、アルファールは興奮して言う。

 そして、ロリペディアは一瞬だけ大きく体を震わせてから、アルファールに体を預けるように倒れこんだのだった。



「おお、見ろ! 魔法陣が、消えていくぞ!」


 メイデンの声が聞こえる。

 その言葉の通り、巨大な魔法陣が消えていった。

 雲散霧消していったのは、それだけではない。


 ロリペディアの莫大な魔力も、今は全く感じられなくなっていた。

 


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