第五十話 最後
「なんて魔力量だ、あれをこのまま放っておくわけにはいかないぞ……」
メイデンは巨大な魔法陣へと向かって、聖剣と同じ効果を持つ千の刃を射出した。
魔を払う刃が、標的へと降り注ぐ。
魔法陣は一瞬その直撃を受けて揺らぐものの、消滅することは無かった。
『……刃に触れた魔力を消滅させる聖なる剣といえど、あまりにも莫大な魔力を根底から打ち消すことはできなんだか』
「こんなことは初めてだ。……一体、どうすれば良い?」
魔王もメイデンも、目の前の魔法陣を壊せずにただ茫然自失の状態だった。
「やれやれ。……どんだけ派手にやらかしトンねん、おのれらは。
たった数秒の間に世界の終わりみたいになってるやんけ」
そんな二人に、アルファールが声を掛ける。
そう、先程のメイデンとロリペディアの戦闘は、実際の時間にして10秒にも満たない。
次元の違う速度。周囲のものは、知覚することもできない。
現に、サースとウェスは、何が何だかわからないといった様子だった。
「ま、ここまで弱らせれば上等や。あの魔法はあのあほにとっても最後の手段や。
本体の戦闘能力を著しく下げてでも超巨大な魔法を放つわけや。
後は、ワイのとっておきを見せたる。……言うて、協力はまだしてもらわなあかんけどな」
「アルファール、あなたにはこの状況を打開できる策があるというのか!?」
すがるような視線のメイデンに、アルファールは頷く。
「せやな。あの極大の魔法陣は【漆黒の翼】を魔力源として世界崩壊レベルの魔法をぶっ放す。
あと30秒もすりゃ……発射されるで」
『30秒だと……!?』
「その時間を遅らせるために、おのれらはさっきの剣をあの魔法陣目掛けて打ち続けとってや。
それで3分は時間を稼げる。……ほれ、さっさと手を動かさんかい!」
アルファールの叱咤に反応して、メイデンは【千刃】を創造し、そして射出を続ける。
その攻撃を受けるたび、魔法陣は揺らめいている、確かに、魔法の完成までの時間を引き延ばしているのだろう。
「ほんなら次はこっちや。サースとかいうたな」
サースとウェスに、アルファールは呼びかける。
「な、なんだ!?」
「おのれはロリペディアの注意を逸らせ。魔法をぶっ放したったらええ」
サースは表情をこわばらせた。
「トラウマなんは分かっとるけどな。文句言わんと働きいや。
ほんで、ウェス。おのれは動きが止まったあのアホのところまでワイを運ぶだけの存在や」
「おまえ、俺様を何だと思っていやがるんだ……!?」
ウェスが驚愕するも、アルファールはその抗議を無視する。
「ほなら、頼んだで、アホたれども!」
アルファールが指の骨を鳴らしながら、メイデンたちに言う。
「魔法陣は任された! だから……ロリペディアのことは任せた!」
メイデンの言葉に、アルファールは渋い表情をする。
「おのれに任されるまでもないわ」
『サースよ。……頼んだ』
「……はいっ! 仰せのままに」
サースは恭しくメイデンを覆う影となった魔王へと頭を下げた。
「タイミングはこっちに任せてもらうぞ」
「それでええ」
アルファールはウェスの言葉を聞いて、頷いた。
残された時間は少ない。
目前で俯くロリペディアを救うため、彼らは覚悟を決めた。




