第四十五話 胸のト・キ・メ・キ
「城の方が騒がしいな」
サースと相対するメイデンが、物騒な物音に気付き、城を視界の端にいれる。
「そうね。きっと魔王様が戦われているのね……ああ、あの小娘、可愛そうに。
きっと、灰も残らないわよ」
戦いの手を止め、サースは背後の魔王城を見る。
「ああ、魔王様の大いなる力の波動が、離れていても感じられる……ああぁ、ぞくぞく、しちゃう」
と、サースが言ったのち、
大きな衝撃が起こり、魔王城が瓦解した。
「……えーと。魔王城は内部に魔力障壁を張り巡らせているから、どんな魔法を使っても破壊などできないはずだろ……? どうなったんだ?」
ウェスがその様をみて呆然と呟いた。
「……ふ、ふん。バカね、魔王様が本気を出したら魔力障壁の意味なんてないわよ」
そわそわしながらサースがいう。
「つまり、魔王が本気を出さざるをえない状況というわけだ」
メイデンが挑戦的に言うと、
「生意気言うわね、魔王様にはとめられているけど、殺してしまおうかしら」
「二人がかりだから偉そうなことは言えないが、防戦一方な貴様がでかい口を叩くな」
「確かに。なにが【四死獣禄】最強だ、大したことはねぇじゃないか!」
「……優しくするのはやめだ。妾に喧嘩を売った事、後悔させてくれる!」
サースから迸る殺気。
先程までの戦いが、予定調和の御遊びだったことにメイデンもウェスも気付く。
が、
「望むところだ……行くぞ!」
「来なさい雑魚共。絶望を、教えてあげるわ!」
三者の気合が満ちる。
そして互いに魔法陣を展開していったのだが、その間に、突如想像もしていなかった乱入者が現れる。
一際大きな爆音が轟き、そして瓦解した城の中から吹き飛ばされてきた少女――魔王が、三者の間に着地した。
突然の事態に理解の追いつかない三人。突然の乱入者、魔王はボロボロだった。
全身が傷つき、魔法少女のフリフリな衣装はあちこちが破れ、特殊性癖の男性が大喜びしそうな格好だった。
その魔王が、自らの周囲にいる三人をみて、慌てた様子で叫ぶ。
「しまった……っ! 其方ら、逃げよ、ここは危険だ!」
魔王が発した言葉に、あれ一人として反応ができない。
サースとウェスはこれほどまでに取り乱した魔王を見たことがなく、また本気である証明の魔法少女化した彼女がこれほどまでに傷ついているのを見たことがなかったからだ。
メイデンにいたっては魔王を見ること自体初めてだった。
彼女の目には、ボロボロの幼女が必死に叫んでいるだけにしか見えていなかった。
そんな魔王が、真剣な表情で今しがた飛び出してきた城へと目を向け、複数の空間魔法を発動させる。
同時に、脅威がこちらに迫ってきていた。
誰かが、こちらに向けて放った数多の魔力砲だ。
それを空間魔法で異空間へと飛ばすのだが、しかし、数が多すぎた。
周囲の被害を抑えることを優先した魔王は、メイデンたちへと向かう魔力砲はすべて防いだものの、自らへと迫るそれを無視していた。
直撃を覚悟した魔王。
しかしその魔王の目前に、一人の剣を携えた少女が立った。
そして、迫る魔力砲を――一太刀で切り裂いた。
「何事かは分からないが……あなたのような少女が傷つくのは見過ごせない。力を貸そう」
魔力砲を切り裂いたメイデンは。片膝をつく魔王へと声を掛けた。
魔王はその少女を見上げ、呟く。
「強者を前に、心躍るか。頼もしいぞ、聖剣に選ばれし勇者よ!」
魔王は知る由もなかった。
目の前の勇者、メイデンが己の容姿にときめいていることなど。




